『傲慢』ルシファー
———丘の上の教会 2階寝室にて
朝の日差しで目が覚める。
夢で見た光景、6つの光が馴染むこの感覚。
あぁ、遂に遂に到達した!
私が求める力、究極の力、全てを救う力に!
「んあ? おはよう、シズハ。ふぁ〜、にしても相変わらず起きるの早いなぁ……」
横のベッドで眠っていたクレアが目を覚ます。
クレアが頭を掻きながらベッドの横のテーブルに置いてある義手と義眼に手を伸ばすが、私はクレアに近づいてそれを止める。
「ちょ! 急にどうした?! ビックリするだろ!」
クレアは驚いた様子だが、別にどうでも良い。
きっと今の私ならクレアを治せるはずだから!
「『生命の樹』起動『知識よ慈悲深くあれ』」
青の極光がクレアを包み数秒の後、静かに消えた。
しかし、腕も目も治っていなかった。
「なんで……クレア、服脱いでください」
私は一つの仮説を思いついた、それを確かめるにはクレアの肌を見る必要がある。
「はぁ?! 朝から急に何言ってんだ! シズハ今日おかしいぞ?!」
「抵抗するなら無理やり脱がしますよ?」
そう言ってクレアの服に手をかけ、服を脱がす。
クレアは特に抵抗はしてこなかった。
「な、やめ……やめろ! お前とはあくまで相棒で……」
「やっぱり」
クレアの身体の傷は綺麗さっぱり治っていた。
どうやら仮説は正しいようだ。
「あ、もう服着て良いですよ? 寒いでしょうし」
「は?」
クレアの反応に頭にハテナが浮かぶ。
顔は真っ赤で怒りの形相にも近いが何か違う。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか? じゃねぇんだよ大馬鹿野郎!」
その声と共にクレアの渾身の右ストレートを私は喰らった。
「そんなに怒んないでくださいよ、身体の傷は治ったんですから」
「代わりに心の傷が増えたよこんちくしょう……」
朝食をとりながら先ほどのことについて説明し、謝罪した。
どうやらクレア的にはソッチ系の事をされると思ったらしい。
「と言うか、今回に関してはクレアのピンクな思考が悪いのでは?」
「普通、馬乗りになられて服剥がれたらそう考えるだろ馬鹿!」
そう言うものだろうか?
まぁ、確かにちょっと強引だったのは否めない。
ようやく使えるようになった『知識』の奇蹟を試したくなってしまった私に非がある。
「にしても、『知識』ねぇ……他のセフィラと併用して効力を上げるのが秘匿された力なのか? なんか地味だな。まぁ、身体の傷は治ったしなんか妙に元気だけど」
クレアがコーヒーを飲みながら呟く。
確かに私が直感的に使った『知識』と『慈悲』の複合奇蹟はクレアの身体の傷は治せた。
しかし瞳とその周り、そして左腕は治せなかった。
治せなかった傷に共通するのは魔王によってつけられた傷と言うこと。
つまり、『知識』を使っても魔王から受けた傷は治せないもしくは私がまだ『知識』を扱いきれていない可能性がある。
前者なら10の光の先に秘匿された『知識』にしてはあまりにも弱すぎる。
なら、考えられるのは私の力不足だ。
『知識』を完全に扱える様になるまでまた修行が必要そうだ。
そんな事を思いながらコーヒーカップに手をかけようとした時、感じた。
「クレア、魔王が来た様ですよ」
「みてぇだな、つうかシズハもわかる様になったのか?」
「どうやら『知識』に至った副産物みたいですがね」
そう言いながら私達はいつものシスター服に着替えた後、教会の外へと向かった。
外には長い白髪の青年が一人佇んでいた。
「よう、『傲慢』久々だなぁ。早速で悪いんだが地獄帰ってくんね?」
「言われて帰るものがいるか? クレアよ」
「だろうな、じゃあ殺し合いと
「ストップ、貴方が『傲慢』ですか?」
クレアの話をぶった斬って話に割り込む。
傲慢と言えば神に叛逆し、堕天した堕天使だ。
なら、丁度いい。
「『傲慢』、神はどんな人物でしたか?」
私は傲慢に質問を投げかける。
その質問を聞いた瞬間、傲慢が殺気立つ。
「新たな聖女よ、その質問の意味を理解した上で聞いているのか? ならば死ぬ覚悟は出来ていような?」
「ええ、ですからさっさと答えてください。傲慢」
「……ッ!!! よかろう、答えてやる。神とは傲慢であり身勝手な存在だ! 最適解を出すためなら犠牲を厭わない壊れた存在だ! 故に我々は叛逆した! その果てが堕天の道であろうと、あの様なものをのさばらせるのだけは許せなかった! 私が『傲慢』だと? ならば神は私以上の『傲慢』だろうよ! ……さて、これで話は終わりだ死ぬ準備はできたか、新たな聖女よ?」
傲慢はギラリと目を輝かせ私を睨む。
それにしても、そうか。
神はどちらかと言うとシステムに近いのか。
なるほど、余程壊れた装置なんだろう。
「行くぞ!」
ルシファーが身構える。
しかし私には考えなければならない事、やらなければならないことが山積みだ。
……あぁ、けど魔王なら丁度いい実験台になるか。
「シズハ、危ねぇ!」
クレアが近づこうとするが私は笑顔で告げる。
「大丈夫ですよ! クレアはそこにいてください!」
瞬間、傲慢の一撃で身体が後方へ吹き飛ぶ。
多分内臓が潰れ骨が砕けたのだろう。
めちゃくちゃ痛い。
けど、好都合だ。
「『慈悲』」
予想通り、自分の身体の傷は簡単に治せた。
なるほど、傷に対する理解が必要か?
記憶しておかなくてはならない。
「ふぅ、痛いのはしょうがないか……」
私はそう呟いて立ち上がるが、目前には既に傲慢が迫っていた。
「『峻厳』」
言葉を紡ぎ奇蹟を使う。
傲慢は途端に地面に這いつくばる。
重力操作の奇蹟が『峻厳』の本質だったらしい。
「おのれぇ!」
這いつくばる傲慢が叫ぶ。
耳障りだが彼は貴重な実験台だ、私が『知識』を使いこなすための。
「『知識』」
単体で起動してみるが特に何も起こらない。
やはり他のセフィラと合わせて使うものか?
次だ。
「『知識よ王冠に至れ』」
「ガァァァァア!!!」
傲慢が燃えるが、確かにいつもより火力は高いがそれだけだ。
結果としてはイマイチ、すぐさま奇蹟を解く。
次はまだやった事ないが理論上はいけるはずだ。
屈んで傲慢の額に手を当て奇蹟を解放する。
「『知識よ、我に知恵と理解を』」
奇蹟の3つ同時使用、やはり可能な様だ。
試しに傲慢の脳内にある神に対する知識を閲覧し理解するが大した追加情報は得られない。
そろそろ疲れたし、次で最後にしよう。
「貴様ァ! この屈辱! この怒り! 忘れはせんぞ!」
「這いつくばる事しかできない貴方が何を言う? まぁ、いいや次で最後ですから」
私は奇蹟の力を集約させる。
想定はしていたが消耗が激しい、これはあまり使うべきではないな。
「『無は無限となり無限の光となる』」
私の奇跡の真の力、創世の理をそのまま傲慢にぶつける。
彼は何か言っていたが数秒後には光に消えた。
「ふぅ、案外疲れますね」
そんな独り言を言っているとクレアが近づいてきた。
「あ! クレア! どうですか! 私ちゃんと
左頬に痛みが走る。
どうやら私はクレアに叩かれたらしい。
「何なんだ今のは!!!」
クレアが怒号を上げる。
「何って、魔王を倒すついでに奇蹟の練習をしただけですよ?」
その言葉を聞いたクレアは私の服の首元を掴み上げる。
「今のお前ならすぐに倒せたはずだ! あれは『傲慢』に対する冒涜だぞ! わかってるのか?!」
クレアはそう言って激怒した。
「クレアこそ、何故魔王に対してそんな事言うんですか? 別にいいじゃないですか? 彼らは人類の敵なんですよ、それをどう扱おうと何の問題が?」
「……ッ! そうかよ、勝手にしろ!」
そう言うとクレアは私を突き飛ばして教会の方へ戻って行った。
一体何でクレアはあんなに怒ってるんだろう?
けど、今回の実験の成果は出た。
少しだけど『知識』の性質が分かってきた。
分かってきたからこそ悲しい。
私の奇蹟じゃ、クレアを救えない。
無限光の逆転さえできれば……
あぁ、けど先にクレアに謝らなきゃ。
そう思い、私は教会へと走る。




