『嫉妬』リバイアサン
———『教会』保有プライベートビーチにて
「いっやっほぉぉお!!!」
クレアはいつも以上のハイテンションで海に飛び込む。
私達は今、『教会』保有のプライベートビーチに来ていた。
と言うのも次の魔王……『嫉妬』が既に現界しているのだが、場所が不明な為だ。
まぁ、要は私達を餌に『嫉妬』を釣ろうと言うことだ。
魔王の目的は不明だが、皆一様に私達を標的にしていた。
『強欲』も『暴食』も『色欲』も過程はどうであれ最終的な狙いは私達だった。
だからこそ今私達はこうやって囮役をやっているのだが……
「おーい! シズハも来いよ! 案外楽しいぞー!」
「……私達の目的はあくまで魔王討伐ですよ? 遊びに来たわけでは……」
「んな、固いこと言うなよ! どうせ『嫉妬』が来るまでは暇なんだし、ちょっとした休暇として楽しもうぜ!」
そう言って黒い水着を着たクレアに引っ張られる。
「分かりましたから! ちょっと着替えてきます!」
そう言って私も白の水着に着替える。
さっきはあんなこと言ってしまったけど、案外嫌な気分じゃない。
今は私とクレアしかいないのがすごく心地いい。
「お待たせしました」
「お! 似合ってんじゃん! さ、遊ぼうぜ!」
そう言うとクレアは左の義手で私の手を掴む。
リリスさんが作っただけに耐水仕様等はバッチリらしい。
あぁ、けど、胸が痛む。
義手はほんのり冷たくて生気を感じさせない。
私が……私が弱かったせいで!
「どうかしたか? シズハ」
「あ、いえ、何でもないです! 思ったより海水が冷たくてびっくりしただけです!」
クレアが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
私はまた嘘をつく。
けど、これはつくべき嘘だ。
本心を語る必要はないのだから。
———夕方
「来ねぇな『嫉妬』」
「ですね」
海でひとしきり遊んだが、『嫉妬』は現れる気配すらなかった。
途中、教会の方にも連絡を入れたが、どこにも『嫉妬』は出現していなかった。
どうやらこれは長丁場になりそうだ。
「しゃあねぇ、来ないもんは仕方なし! とりあえず、ペンションで寝るか!」
「大丈夫でしょうか? 夜襲ってくる可能性もありますよ?」
「あー、多分大丈夫だと思う。アイツも夜は寝るからな」
「それって以前の戦いの時にあったんですか?」
「まぁな、なんつうか色々戦いづらい相手ではあったな。とりあえずアタシらも明日に備えて寝よう! なぁに、ちょっとした長期休暇みたいなもんだと思えばいいさ!」
クレアはそう言うとペンションの方に向かっていった。
私はと言うと少し考え込みながら砂浜を歩いていた。
私の力、秘匿された11番目のセフィラと奇蹟の本質について。
もし、あの声……十中八九『色欲』だろうが、あれが本当だとしたらなぜ私に教えた?
わざわざ敵を強くするような情報を何故?
思考を巡らすが分からない、けれど心に引っかかる。
この奇蹟の本質、それはおそらく000、00、0の三種の無か?
無と無限と無限光、全ての始まり創世の理念。
けど、それがどうして?
考えは尽きない。
気づくとあたりはすっかり夜になっていた、私もペンションに戻ろう。
今日は色々と考え込んでしまった。
他にやるべきことがあるのだ、今は迷っている暇はない。
———深夜
「……す! ……ので……! 起きるのです!」
その声でハッと目が覚める。
しかし其処は見渡す限り真っ暗な……まるで深海のように暗く冷たい場所だった。
「ようやく起きました! 母は寝る子は好きですが寝過ぎは良くないです!」
そう語るのは青い髪の幼い子供だった。
「状況が飲み込めないと言う顔ですね、静葉! なら母が説明するのです!」
目の前の子はそう語る。
と言うか何故私の名前を知っている?
……あぁ、そうか。
「奇蹟起動」
そう静かに告げて『生命の樹』を起動しようとするなぜなら目前の幼子こそが『嫉妬』だからだ、しかし何も起きない。
「?!」
「ダメですよ静葉! 母の話はちゃんと聞くのです!」
理解した、どうやら既に私は『嫉妬』の固有世界に閉じ込められたらしい。
最悪の状況だ、奇蹟も使えない状態で救援も呼べない!
そんな状況で私は『嫉妬』と相対しているのだ!
「どうかしましたか、静葉? 顔色が悪いです。体調良くないですか?」
『嫉妬』は心配そうにこちらに近づく。
「ッ……来るな!」
私はそう叫び『嫉妬』から距離を取る。
「……やっぱり母が魔王だから怖いんですね。でも大丈夫です! 母は静葉とお話ししにきたです! だから戦いません!」
無垢な笑顔で『嫉妬』は語る。
「さっきから母って私の母は貴方じゃない! それに魔王の言うことなど信用できない!」
「むぅ、少し悲しいです。母はみんなの母です! だから静葉の母なのです! それに母は子に嘘はつきません! 他の魔王とは違うのです!」
『嫉妬』は自慢げにそう語る。
「とにかくお話をしましょう! 静葉はアスモちゃんとお話ししたんですよね?」
「アスモちゃん? アスモデウスの事か?」
「そうです! アスモちゃんが話そびれた事を話に母は来たのです! ズバリ! 最後のセフィラについてです!」
その言葉を聞いて、私は少し動揺した。
最後のセフィラ、最強の力……
「最後のセフィラの名は『知識』! 静葉が全てのセフィラを十全に扱えるようになればきっと使えます! そうすれば静葉は最強になれます!
おっと……時間です。悲しいですが母は地獄に帰らないといけないです……寄り道をし過ぎました。それじゃあ、静葉! さようなら! 『嫉妬』は貴方の手によって倒されるのです!」
『嫉妬』がそう言うと『嫉妬』と周りの世界が泡のように消えていく。
クレアから聞いていたが魔王にも現界に制限時間がある、と。
どうやら『嫉妬』は本当に会話をしにきただけのようだ。
だが、何故わざわざ私に最後のセフィラの条件を?
考える間もなく意識が混濁し途切れた。
「起きろ! シズハ!」
その声で再び目が覚める。
「大丈夫か? 何もされてないか! チクショウ『嫉妬』の野郎知らないうちに新しい権能手に入れやがったな!」
「大丈夫ですよ、それに『嫉妬』は自滅しました」
「は?」
私の返答にクレアはフリーズする。
しばらくしてから、私はクレアにことの顛末を語った。
あぁ、けど漸く辿り着ける。
最強の力。
全てを救う力。
クレアを救う力に!




