『色欲』アスモデウス
———ベルゼブル討伐から2週間後 予玖土町にて
「そういえばこの町に来るのはなんだかんだ初めてだな! シズハ!」
クレアが上機嫌そうに語る。
今、私達は次の魔王……『色欲』との戦いの為この町にやってきた。
と言うのも、ようやく教会側との連携が取れ始めて魔王の出現地域と時間をある程度絞れるようになったからだ。
そして、『色欲』はここ予玖土町に3日以内に出現するのがわかった。
理由は不明だがクレアに聞かされた『色欲』の能力からして多分《《彼女達》》が狙いだ。
もし彼女達が敵側に回ってしまった場合のことなんて考えたくはないが、今はとにかく『色欲』より先に彼女達に接触しなければならない。
目指すは町からよく目立つ小さな山の中腹に立つ洋館だ。
———蒼葉邸応接間
「いらっしゃい、そして久しぶりねクレアさん、静葉さん」
そう語るのは白髪の少女……蒼葉アキルだ。
「相変わらずお堅いねぇ? アタシらはダチだろ? なら、敬語は必要ねえよ!」
「そう? じゃあ、そうさせてもらうわ、クレア」
アキルとクレアの会話が少し私にはムッときた。
よくわからないけど、なんか嫌だ。
「静葉? どうかしたの?」
「あ、いえ、何でもないです!」
アキルの問いにそう答える。
何でもないわけではないけど、この気持ちは閉まっておくべきものだ。
わざわざ場の空気を悪くする必要なんてないのだから。
「で、要件は何かしら? 貴方達がわざわざ私のところに来るなんて面倒事でしょ?」
アキルは慣れたようにそう語る。
今まで多くの修羅場を潜り抜けた彼女には一種の余裕さえあるのだろう。
圧倒的なまでの力とそれを律する強靭な精神……私にもそれがあれば……
「まぁ、面倒事だわな。単刀直入に言うと……」
クレアが言い切る前にアキルが席を立つ。
「どうやらその面倒ごとがお目見えの様ね」
瞬間、部屋の空間が割れそこから一人の金髪の美女が現れる。
「あらあら、先回りされちゃったかぁ……まぁ、いいや。狙いの娘はいるし。さて名乗りましょう、私は『色欲』よ。久しぶりクレア、そして新たな聖女と……邪神共の魔皇の巫女さん」
「来やがったか! 『色欲』!」
「私、魔皇の巫女になったつもりはないんだけど」
「二人とも来ますよ! 奇蹟起動!」
私とクレアはすぐさま臨戦体制に入る。
「あらあら、殺気だっちゃって可愛い。じゃあ、こんなのはどうかしら? さぁ! おいでなさい!」
そう言って『色欲』が号令をかけるが……
「え? 何故来ない!」
何も起きない。
肝心の『色欲』も困惑を隠しきれない。
「そりゃ、今この世界には私達四人……三人と一柱かしら? しか居ないからね。あんまり魔皇の権能は使いたくないけど、『色欲』と言ったら十中八九精神操作、特に女性の精神操作って相場が決まっているもの故に、私の固有世界に来てもらったわ」
アキルは淡々と語る。
おそらくアキルは『色欲』が現れた瞬間から固有世界に私達を隔離したのだろう。
まだ情報の共有もしてないのにすごい判断力だ。
「……やっぱり面倒ね、アンタ。けど! これはどう?!」
そう言って『色欲』が手をかざす。
瞬間酷く心地いい感覚が私の脳を襲った。
「何かしたか?」
「違うアイツの目的は!」
あぁ、何かが聞こえるけど。
この感覚は……抜け出せ、ない。
◇◆◇
———静葉の精神世界にて
私は無力だ。
また救えなかった。
圧倒的な力を手に入れたのに。
なら、何のための力なんだ?
救うことのできない力に何の意味がある?
私はまだ何も救えていない。
救わなければ、救わなければいけないのに……
「陰鬱で嫌になるわねぇ」
ふと、女の声が聞こえた。
聞き覚えのある声なのに上手く思い出せない。
「あぁ、そのまま聞いててくれれば大丈夫。これは私の独り言みたいなものだから」
その声は甘美で誘惑的で魅力的に思えて、私は耳を傾ける。
「あなたは救いたいのでしょう? 大切な人を、その方法を教えて上げる」
声は静かに私の心に染み込んでくる。
ドス黒くてなのに心地がいい。
「貴方の奇蹟は生命の樹が本質じゃない、もっともっと強いものよ、だけどそれを成すにはまだ足りない11個目のセフィラを見つけなさい。その時———」
女の声はそこで途切れた。
肝心なことはわからなかったが何故か納得が行った。
11個目のセフィラ、秘匿されし———
◇◆◇
「おい、シズハ! 大丈夫か?!」
クレアの声で意識が覚醒する。
私は何を……
「クレア! 静葉は大丈夫?」
「おう! 大丈夫そうだ」
アキルとクレアが会話する。
何故かわからないけど胸の奥がキュッとした。
……そうだ『色欲』?!
「クレア! 『色欲』はどうなりましたか?!」
「あー、それなんだが……」
クレアが苦虫を噛み潰したような顔をして答える。
「アタシとアキル……いや、ほとんどアキル一人で倒しちまった」
その言葉を聞いて更に胸が締め付けられる。
「クレアのサポートがあったから迅速に処理できたのよ?」
「うるせえ、アタシらいなくても一人でどうにかできるだろお前?」
冗談まじりに雑談する二人を見る。
違う、クレアの横にいるべきなのはアキルじゃない!
「とにかく、静葉も怪我がなくてよかった!」
そう言ってアキルは私に手を差し伸べる。
……私はその手を取り答える。
「力になれず、すいません」
違う、本当に言いたいことはこんなことじゃない。
だけど、今は結果が全てだ。
だから私は自分の意思を殺す。
しばらく三人で雑談した後、私とクレアは帰路についた。
……11番目のセフィラ、それにさえ到達できれば私は———




