サタンと閻魔
「おい!クレア!どうしたんだ!何があった!」
出先から帰ってきたジョンがクレアを見て叫ぶ。
しかし、クレアは特に気にせずいつもの口調で話す。
「何って見りゃわかるだろ?右目と左腕無くなったんだよ?節穴かジョン?」
「そうじゃない!何があったかと……」
「はいはい、説明は後でな!とりあえずシズハ頼むわ。片腕じゃ危なっかしくて部屋に連れてけねぇ。あぁ、後アタシ今から少し出かけるから」
そう言ってクレアはスマホを片手に電話をかける。
ジョンは今のクレアは話す気がないのだと判断し、静葉を2階の寝室に連れて行った。
「んじゃ、行ってくるわ」
「行くって……!」
クレアが言い切ると同時に黒いホールがクレアを連れ込み消えた。
ジョンはその光景を見て驚愕したが、教会の椅子に座り込み一息つく。
「相変わらずめちゃくちゃな奴だ……それより、どうやら大司祭の話が当たったらしい……」
そう言うと、ジョンも電話をかけ始めた。
◇◆◇
———同時刻 地獄 『憤怒』の間にて
「コレはコレは遠い所からわざわざ来てくださって、閻魔大王殿」
そう言うのは白髪の青年…… 地獄を束ねる憤怒の魔王サタンであった。
「ふざけるな、サタン。貴様は条約を破り、現世へ侵攻した。この意味がわからぬとは言わせない」
淡々と言葉を語るのは日本の地獄を統括する十王が一人、第十三代目閻魔大王だ。
「人との条約を破るのに何の問題が?まぁ、現に僕はペナルティを受けてかなり弱体化してしまった。他の魔王達も同様だ。それで十分では?」
「人との条約ではない!地獄としての条約……即ち、現世への侵攻の禁止。貴様はこれを破った、故に私はここに来た。答えよサタン、何故現世に侵攻しようとする!」
閻魔がサタンに問いかける。
サタンは少し考えた後に答えた。
「んー、世界征服ってやつがやってみたくなったから。かな?ほら、ロマンあるじゃん?」
嘲るようにサタンは答えた。
「……本気で言ってるのか?」
閻魔の瞳が鋭く光る。
「本気本気、まぁ、半分くらいはね?いやさぁ、最近の現世って醜くない?どこからともなくやって来た邪神どもが歴史介入して幾星霜、元からいた僕らは今やアイツらより下に見られてる。閻魔くんもムカつかないかい?それに、アイツらは星を滅ぼす厄災だ。外から来た奴らに壊されるくらいなら元からいた僕らに支配される方が人類も幸せだろう?なぁ、閻魔くん?」
饒舌にサタンは語る。
その言葉を聞き終えた閻魔は瞳を閉じる。
「そうか、それが答えか。ならば判決は下った!今ここで貴様を倒す!」
閻魔の瞳が開かれる。
同時に地獄は閻魔の法廷に侵食される。
「へぇ、わざわざ他の十王から権能を借りたのかい?やるねぇ、ゾクゾクするよ!けど……」
サタンが何をすることもなく閻魔の法廷は崩れ去る。
「な……!」
閻魔は驚愕するがすぐさま戦闘態勢に入る。
しかしサタンは動かない。
「僕は君と戦いたくない。同じ地獄の管理者同士仲良くしようじゃないか?それに地獄は僕の領域だ、いくらでもズルは出来ちゃうし君には圧倒的に不利だ。やめといた方がいい」
サタンはただ、そう語る。
「……」
閻魔は黙り込み、思考を巡らす。
実際、状況は圧倒的に不利。
十王全ての権能をフル活用しても相打ちが関の山だ。
「どうだい、コーヒーでも飲んで帰ったら?そうした方がお互いのためだぜ?」
サタンはそう言って口角を少し上げる。
「ええ、不服ですが、どうやっても私では勝ち筋が見えません。ですから……」
そう言って閻魔は再び瞳を閉じて一回拍手をする。
「後は今を生きる者達に託します!我が権能を持って、地獄に新たな法を敷く!『魔王は一人しか現世に存在できない』!!!」
同時に地獄に光が放たれ、そして消えた。
「へぇ、自身の権能フル活用か。けど、それなら僕らをみんな出られなくすれば良かったんじゃないかな?」
コーヒーを二杯注ぎながらサタンは問う。
「嫌味が相変わらず得意ですね。私がいたらないからコレが限界なんですよ。さぁ、殺すならさっさと殺しなさい。最も、今敷いた法は消えませんが!」
「そっか、じゃあ、はいコーヒー。それ飲んだら帰るなり地獄観光するなり好きにしてね」
「は?」
閻魔は目を丸くする。
「さっきも言っただろ?君と戦いたくないって。それに……」
サタンはコーヒーを一口飲んだ後、続けて語る。
「たかだか一人しか行けない程度で諦めるほどやわじゃないんだよ?魔王は?」
サタンは悪辣な笑みを浮かべた。
「……そうですか。せいぜい痛い目でも見てください」
そう言って閻魔は地獄から退去した。
「……コーヒーくらい飲んでけばいいのに」
サタンはそう溢しながら自身のコーヒーを鼻歌混じりに飲んでいた。




