『強欲』マモン
———真麻久留市 丘の上の教会にて
「暇くせぇ……」
そう言って教会の椅子に座って天井を見上げる金髪のシスター……クレア。
彼女が暇に思うのも無理はない。
この場所は教会と銘打っているが、実際に教会らしいことをする担当の黒人の大男の神父……ジョンが居ないからか誰も来ない。
「暇とは言え、もう少しちゃんとした態度を取ってください、クレア! これでも私たちは一応表向きはシスターなんですから!」
そうクレアに言ったのは黒髪のシスター……神手静葉だった。
「んなこといってもよぉ、客なんざ来ねえって」
「客じゃなく『来訪者』です! それくらい覚えてください! そんなんだから悪評ばっかり広まるんですよ!」
そう言って静葉は自らのスマホを取り出してこの教会のレビューを見せた。
「すげぇ、星2じゃん! シズハ来てからめっちゃ上がってるな!」
「そうじゃなくて! って噂をすれば『来訪者』さんが! クレア準備を」
静葉は遠くからこちらに向かってくる人影に気づいてクレアに催促する。
「……あぁ、確かに来たな。招かれざる客がな。おい、シズハ。いつでも戦える準備しとけ」
クレアの雰囲気が一気に変わる。
除霊の時とも全く違う殺気に満ちた雰囲気に。
「え、何を言って?」
「いいから準備しろ!」
クレアが怒鳴る。
その額には汗が流れていた。
そして……
「やぁやぁ、久しぶりだなァ! クレア! ……と、お前誰?」
現れたのは高級そうなスーツを着て、高級なアクセサリーを悪趣味なまでに身につけた金髪の青年だった。
「テメェこそ何しに来やがった! 『強欲』!!!」
クレアは青年……マモンに怒号を放つ。
マモン、それは七つの大罪が一つ『強欲』を司る魔王の名である。
そして今クレア達の目の前に居るのは正真正銘その魔王マモンである。
「何って、クレア。テメェに会いに来たのさ!」
「魔王らアタシとの契約を破棄しやがったな!」
クレアは怒りの声でマモンに問う。
「正確には上司が、な。なぁに、ちょっとした気まぐれさ! 何せ俺らは魔王だからな!」
ケラケラとマモンは笑う。
「それじゃあ地獄的にもマズいんじゃねぇか? 他の地獄から抗議が来るぜ?」
怒りの声色はそのままにクレアはマモンを煽る。
少しでも時間を稼ぐために。
「まぁ、確かに良くはないな。そろそろ日本の閻魔辺りは勘付きそうだ。だから、俺は俺の仕事をする。時間はやらない。……固有世界展開」
「静葉! 聖装展開しとけ!」
「は、はい!」
静葉は慌てて聖装展開を行う。
続く様にクレアも聖装展開を行い、そして視界が光に包まれる。
「……黄金の闘技場? それよりここは檻の中?!」
光が収束したのち現れたのは黄金の闘技場。
そして静葉は檻の中に閉じ込められ宙吊りにされていた。
静葉が檻に攻撃するがびくともしない。
「静かにしてろよ、景品。安心しな、お前は大切な景品だ。その中なら安全だぜ?」
マモンは嘲笑いながら静葉に語りかける。
「相変わらず趣味悪いな、マモン!」
「そりゃ、どーも。さて、まどろっこしいのは嫌いださっさと始めよう。ルールは簡単だ先に動けなくなった方の負け。勝った方が景品を手に入れる。これで決定だ」
そう言ってマモンはクレアの方を見る。
「マジで、奇蹟使えなくなったのかよお前……」
どこか悔しそうにマモンは怒る。
「なら、せめて俺の手で死ね、クレア!」
そう言ってマモンが消える。
次の瞬間、クレアの懐に潜り込み、その右目を切り抉った。
「がぁッ! 馬鹿が! 射程距離だぜ!」
クレアはそう叫ぶと両腕の聖装から光の刃を無数に伸ばしてマモンに突き刺そうとする。
しかし……
「弱くなったな……前のお前だったら俺は触れることすらできなかった。なのに今や簡単に右目を抉り出せちまう。悲しいぜ、クレア……」
既に射程距離にマモンは居なかった。
対してクレアは右目を失い視界の面で不利になる。
「うっせぇ! 弱くなろうが戦い方はあるんだよ!」
クレアは聖装の背後ブースターで加速してマモンに斬りかかる。
マモンはその攻撃に対して真っ向からぶん殴る。
瞬間、聖装が砕け散る。
「な……」
「興醒めだな、せいぜい綺麗に泣いてくれや」
そう言ってマモンは指を鳴らす。
瞬間、光の柱がクレアの左腕を焼き払う。
「ぐぅぅうっ!!!」
クレアは膝を地につき大きな隙を作ってしまう。
名状できないほどの痛みにクレアは耐える。
「泣くことすらできねぇのかよ……」
マモンは追撃しない。
それどころか、心の底からクレアを憐んでいた。
「テメェに……憐れまれる、とは私も弱くなった、な」
苦しそうにクレアはそう言って立ち上がる。
既に右目は無い。
左腕も失った。
聖装は砕けて使い物にならない。
そして相対するは強欲の魔王マモン。
残された術はほとんどない。
それでもクレアは立ち上がる。
「舐めてんじゃねぇよクソッタレのマモン!」
そう言ってクレアは渾身の右ストレートをマモンに放つ。
見事に命中したのかマモンは少しよろけた。
「まだ、諦めないのは評価するぜ! 結局は殴り合いが一番性に合う!」
そうして、二人の殴り合いが始まった。
お互いガードなどしない、ひたすらに殴り、蹴り合うだけの原始的な戦い方。
肉のぶつかる音、骨の砕ける音、血が飛び散り黄金を紅く染め上げる。
そうしてどれほどの時間が経っただろうか。
一人が倒れた。
倒れたのはクレアだった。
血を流し虚な瞳で地面に這いつくばっていた。
「……」
マモンはどこか悲しげにクレアを見下ろしていた。
しかし……
「まだ……だ、私、は……」
クレアは立ち上がる。
既に体は満身創痍。
それでも立ち上がるわけは簡単だ。
大切な友達を助けるため、ただそれだけで壊れた体を無理矢理動かす。
「もういい……せめて最後は楽に逝け、クレア」
優しげな声でマモンはクレアの腹を貫いた。




