新たな明日に生きていく〜新生の刻〜
———決戦から3日後
———アメリカ合衆国 某所 地下超巨大施設『ノア』内部 第一階層エントランスにて
「どうやらみんな来たみたいだな」
そうリリスは告げる。
その半身は傷だらけだが、ほとんど元に戻っていた。
「あんたもだいぶ治ったのね」
アキルがリリスに告げる。
その風格は以前までの少女らしいものを残しながらも何処か超然としていた。
その他、今回の作戦に参加した者たちが皆集合していた。
たった一人を除いて……
「グレン……」
ケイトが呟く。
「彼は良い奴だった……まさかあんなことになるとはな……」
リリスは悲しそうにそう紡ぐ。
「勝手に人を死んだ風にしてんじゃねぇアホバカ共ぉぉお‼︎」
そう言って、グレンは息を切らせながらエントランスにやってきた。
「なんだ間に合ったのか、と言うかこう言う時は乗るのがコメディアンじゃないか? グレン」
リリスは先程までの悲しそうなふりをやめ、いつも通りのサディスティックなリリスに戻る。
「ざっけんな! 誰がコメディアンじゃあ! こちとら三日ほぼ不眠不休で全員の武器直して、『アナンタ・シャーシェ』の修復プログラム作ったり死ぬほど大変だったんだぞ! バカ! アホ! 鬼畜異星人!」
グレンは怒りのままに罵倒するが、リリスはケラケラと笑っていた。
「いやぁ、すまんすまん。それだけ元気なら問題ないな! さて……諸君! 我々は無事に当初の目的を達成し、人類を救った! このことを知るのは一部の人間と我々だけだ、誰からも賞賛もされないだろう。だが! 私は諸君らを可能な限り賞賛し、感謝しよう! いや、させてくれ! 君達皆が英雄だ! どれだけ言葉を紡ごうと足りないくらいに感謝している! 本当にありがとう!」
リリスは深々と礼をする。
「ほーん、リリスぅ? 感謝するならなんかくれよぉ〜具体的に言うとお前の持ってる中で一番滅茶苦茶美味い酒を寄越しな!」
「やめなさい! クレア!」
「シズハ、流石にジョークだよ、ジョーク!」
クレアは静葉にそう言いながらリリスに要求する。
半ばジョークのつもりだったが想定外の行動にリリスは出た。
「良かろう、これが私が持つ最高のモノだ! 是非味わってくれ!」
そう言うと、リリスはホールから中身の入ったラベルの無いボトルをクレアに渡す。
「こ……これは! アタシには分かる! この眩いほどのオーラ! これは間違いなく最高の酒だ!」
リリスは惜しげも無く最高級の品をクレアに渡したのだ。
「他にも欲しいものがある者は言うが良い! 私の持ち得るコレクションにあれば譲渡しよう! ソレくらいさせてくれ!」
リリスは皆にそう告げるが……
「私達は大丈夫、強いて言えばリリス、貴女の連絡先を頂戴な。私達、もう友達でしょ?」
みんなを代表してアキルがリリスに告げる。
「……本当にそんなことで良いのか?」
リリスは困惑気味に答える。
リリスは今まで対価を求められた際は体、財宝、命を失っていた。
そうして成り上がってきた。
そんなリリスにとって、アキルたちの要求は想定すらしていない事だった。
だが、同時に心の底から嬉しかったのだ。
今まで、シェリーしかいなかった友達が新たに増えたのだから。
「……あぁ、あぁ! 勿論だとも、くれてやろう! 私の連絡先を! 何、暇な時には遊びに来い! 私は君達友をいつでも歓迎するさ!」
リリスはこの日、生きてきて初めて涙を流した。
だがソレは悲しみからじゃない、喜びからくる美しい涙なのだから……
「まさか、初めて泣くとはおもはなんだ……少し恥ずかしいな……」
リリスは頬を赤らめながらそう小さく言う。
リリスからしたら初めての経験がみんなに見られた羞恥心と今までクールな感じのミステリアス女子として振る舞っていたのが恥ずかしさに拍車をかけた。
「いやぁ、いいもの見れたわぁ! リリスの初めて」
「誤解を招くような言い方をするな! 馬鹿吸血鬼ニート! ……コホン、ソレでは諸君! お別れの時間だ!」
リリスがパチン、と指を鳴らすとアキルたちの背後にゲートが開かれる。
「入った瞬間にそれぞれの家に着くようになってる。それでは、さらばだ! また会おう友よ!」
リリスのその言葉に各々別れを告げ、それぞれの居場所へと帰っていく。
そうして皆が帰るのを確認するとリリスはゲートを閉じた。
「……やはり、寂しいな」
———予玖土町 蒼葉邸にて
「「「ただいま‼︎」」」
「ええ、お帰りなさいませ皆様」
「アキルちゃん! みんな! お帰り!」
「お帰りなさいませ皆様、クリス、グレンも!」
アキルたちを出迎えたのはトマスとヴァレット、そしてアキルの姉……蒼葉冬香とクリスとグレンの姉……メアリー・フォスターだった。
「姉さんも来てくれて……」
瞬間、アキルの視界が流転する。
体には激痛が走り、アキルは倒れ込む。
その背中を裂くように空間は割れ、まるで蛹から蝶が羽化するかのようにソレは現れた。
褐色の肌に金の髪、瞳は金色に輝く10歳くらいの全裸の少女は裂け目から現れるとまるで当然のように宙に浮き、その場にいたものたちを睥睨する。
その場にいた戦えるものは、苦痛に悶えるアキル含め皆、少女に最速確殺の技を放とうとするが……
「平伏せよ」
その一言で全員は地面に押し付けられる。
所謂超重力と言うモノを少女は行使した。
「……ふむ、余の見た目は納得いかぬが、知性を得たか。愉快」
少女はそう呟く。
「しかして、威厳が足りぬな。ふむ……」
少女は指を鳴らし、露出度の高い漆黒の簡素なドレスを纏う。
「さて、来たれ『ナイアーラ』」
少女が告げると共に、少女の隣の空間が歪み一人の女性が現れる。
「どうもお久しぶりです。アキルさんたち、新井月こと『ナイアーラ』、顕現いたしましたよ! そして……」
新井月は少女の方を向き跪く。
「お久しぶりです。お父様。ずいぶんと愛らしいお姿ですね?」
そう告げた。
「その余計な一言、貴様は『娯楽』か……まぁ、良い許す。今の余は寛大だ……この女以外にはな!」
そう言って少女は腕を動かすとアキルの首を締め上げ自らの眼前に持ってくる。
「よくも余を喰らう。などと馬鹿げたことをしてくれたな人間! だが、余に知性をもたらせたことは評価する。故に余の手を持って殺してやる。光栄に思え」
「やっぱり、あんたは……『アザトース』‼︎く……そ……‼︎」
アキルはあがこうとするが体が動かない。
「では、死ね。我が器よ!」
『アザトース』の手刀がアキルを貫……かない。
「いったぁぁあ!!! なんじゃこれ! なんじゃこれ⁈」
『アザトース』は何が起きたのか理解できていないが一旦地面に降り立ち転げ回る。
瞬間、アキル達の拘束が解かれる。
「ブッフォ‼︎あはははははは‼︎」
その光景を見た荒井月は吹き出して大笑いしていた。
「とにかく! 今がチャ……」
アキル達が攻撃しようとした瞬間、全員の首元に鋭い触手が突きつけられる。
「ふぅ……ふぅ……あぁ、おもしろ! それはともかく、お父様に手は出さないでください、ね?」
腕だけ元に戻した荒井月はさっきまで嗤っていたとは思えない殺気を放ちアキル達に語りかける。
「……っ! 全員やめて! 相手が悪すぎる……ッ!」
アキル達は一歩退き攻撃の体制を止める。
すると、荒井月は触手を引っ込めた。
「流石アキルさん、弁えてますねぇ20ニャルニャルポイント差し上げます」
「要らないわよ! そんな意味不明ポイント‼︎そんなことよりこの状況をちゃんと説明しなさい‼︎」
ふざける荒井月に対してアキルは叫ぶ。
「説明といいましてもねぇ……そこの愛らしくもお間抜けなお父様……正確には分体は貴女が生み出したんですよ? だって食べちゃったんでしょう、お父様のこと? 食べられたお父様が貴女を媒体にあのカタチを取って新生したのです‼︎わかりましたか、矮小な皆さん?」
アキルは唖然とする。
自分のせいで人類に対する史上災厄の魔皇を呼び出してしまったのだ、と。
しかし……
「まぁ、クッッッソ弱いんですけどね! あのお父様! マジで笑えるくらい弱いですよホント‼︎最高に惨めで愛らしいです! ナイスですよアキルさん‼︎」
そう言って嗤いながら荒井月はグッドサインを出す。
「は?」
困惑の声の主は他でもない『アザトース』だった。
「ふざけるな! 『ナイアーラ』‼︎余が弱いだと‼︎この愚か者が‼︎」
そう言って『アザトース』は先程の権能を使おうとする、が。
「……!」
「…………?」
「………………???」
何も起きない。
その様子を見て『ナイアーラ』は嗤い転げ回る。
何故なら『ナイアーラ』は理解していたからだ、もう『アザトース』が権能を使えないことに。
「ええい! なら、貴様からだ! 器!」
そう言って『アザトース』はアキルに襲いかかるが。
「えっと……ポコポコするのやめて欲しいなぁ……?」
全く効いてない、ソレどころか『アザトース』は息を切らしていた。
「あー、おもしろ! じゃあ後お願いしますね!」
そう言って荒井月は帰ろうとする。
「まて! 『ナイアーラ』! 余をこんな下等生物の元に置いていくのか⁈」
「え? お父様来るんですか‼︎」
そう言った『ナイアーラ』の顔は邪悪な笑顔に満ちていた。
『アザトース』はしばし考えた後、アキル達の方を向く。
「喜べ、矮小な人間共! 混沌の魔皇たる余が……」
魔皇特有の口上を述べようとするが……
「荒井月、こいつ好きにしていいわよ」
アキルが一言そう告げると『アザトース』は態度を一変させる。
「お願いします! 『ナイアーラ』だけは勘弁してください‼︎」
そう言って泣きながら土下座をする。
その光景を見た荒井月はすぐさまスマホを取り出して映像に収め、他の『ニャルラトホテプ』に共有した。
この日以来、蒼葉邸には新しい仲間? として態度だけでかいちびっ子自称魔皇が増えたのであった。
「仕方ないから余のことはアーちゃんと呼ぶが良い!」




