ストイック・シュミレーション
「はぁ……はぁ……クソッ!」
最後まで残っていた『アナンタ・シャーシェ』が沈黙する。
他の皆も、もはや戦えない。
人類は邪神に負けたのだ……
「はい第一シュミレーション終了! 反省会して休憩とったら第二回やるぞ」
さっきまで半身を失っていたリリスはケロッとした様子でそう言った。
「あんなん勝てるか馬鹿! リリス、テメェ設定いじってやがるだろ!」
クレアが激怒する。
「何、ステータスをほんの1000倍にしただけだが?」
それを聞いた周りの人間達からヤジが飛ぶ。
「鬼! 悪魔! 人でなし異星人!」
「鬼畜!」
「『アナンタ・シェーシャ』ではたき潰すぞ!」
等々、様々なヤジが飛んでくるがリリスは気にせず告げる。
「それじゃ反省会だが、まずアキル! お前、技名叫ぶ時に恥ずかしがってるだろ! おかげで威力が大幅減衰しているんだ!」
リリスが『アナンタ・シャーシェ』から降りてきたアキルに告げる。
「な、だってわざわざ外にまで私の声が響く嫌がらせ仕様が悪いんでしょ! 後、スーツ! 何このぴっちりスーツ! 体のライン出過ぎて恥ずかしすぎる……ッ!」
アキルが顔を赤らめながら反論する。
「そうしないと攻撃に巻き込まれる危険性があるだろうが!!! スーツは単に私の趣味だ!」
スーツに関して以外は思っていた以上のど正論をリリスは返す。
「な……くっ……!」
流石のアキルも返せない、何せ今回ばかりはリリスの言っていることは全面的に正しい、『アナンタ・シャーシェ』が全力を出せばそれは邪神と同等かそれ以上の力を発揮する。
そんなものの攻撃に被弾したら、いくら結界で守られた人間とは言えただじゃ済まないのは明白だ。
「とにかく、君には恥じらいを捨ててもらう。という事で今から君だけ『アナンタ・シャーシェ』に再搭乗しろ、必殺技練習の時間だ! すまないが結界班は再び結界を頼む。変異体『イタクァ』のデータは棒立ちにしておく、存分に必殺技を放て!』
そう言ってリリスは腕を組み仁王立ちで軽く宙に浮きながら待機状態にある『アナンタ・シャーシェ』にアキルを搭乗させる。
『うぅ、みんなの前でやる必要ないじゃ無い!』
アキルが『アナンタ・シャーシェ』内で叫ぶ。
『実戦でも全員いるんだ、慣れろ!』
念話越しにリリスが叫ぶ。
『えぇい、ままよ! 「い……インフィニティ・ビーム」!』
アキルの声に合わせ『アナンタ・シャーシェ』は仁王立ちの体制のまま真紅のモノアイが輝き細いビームを放つが『イタクァ』にダメージは全く無い。
「まだ恥じらいが多い! そんなんじゃみんな死ぬぞ‼︎」
その言葉がアキルに突き刺さる。
アキルは呪楼『蠱毒』の一件で一度死を体験している。
だからこそ恐ろしく怖くなった。
———私のせいでみんな死ぬ?
大切な家族も新しくできた仲間もみんな?
それだけじゃ無い、無関係の人も大勢死ぬ?
私が恥ずかしがるなんてつまらない理由で?
そんなの……そんなの!!!
『あっていいわけないじゃ無い‼︎「インフィニティィィイ‼︎ビィィイムッ‼︎」』
アキルの絶大な咆哮の元放たれたソレは先ほどとはまるで別物の一撃だった。
真紅の瞳から放たれた極大のビームはイタクァの外皮を焼き溶かす程の熱量を放つ。
『「アイアン・サイス‼︎」』
アキルの声に従い、『アナンタ・シャーシェ』の両腕からコウモリの翼の様な巨大な刃が形成される。
本来ならここから攻撃に至るが、ソレはあくまでクリスの役目、今回は腕を変質させるだけで止まる。
ソレでも1回目の時の3倍近いサイズにまで肥大化しているのは特筆すべき点だ。
『「サンダーァァァァアハリケーン‼︎」』
号令と共に『アナンタ・シャーシェ』の口が開かれ雷を纏った極大の嵐が『イタクァ』を襲う。その雷は表皮を焼き焦がし、その嵐は嵐の化身たる『イタクァ』の肉体を切り裂く。
『「グランドォブレイクゥタスクッ‼︎」』
咆哮ののち『アナンタ・シャーシェ』が地面(正確には空中)を殴りつける。
すると殴られた部分から空間が裂け、大量の岩で出来た牙が『イタクァ』に襲いかかり、その体を貫く。
『「インフェルノォォオノヴァァァァァア‼︎」』
その怒号の元、『アナンタ・シャーシェ』は自動で『イタクァ』に近づき、その首を掴み口から地獄の様な極熱の黒炎を放ち、『イタクァ』を焼き尽くす。
『はぁ……はぁ……』
アキルはかなり消耗していた。
ソレに気づいたリリスはアキルを、シェリーは『アナンタ・シャーシェ』をそれぞれホールで回収した。
「はぁ……はぁ……」
アキルはヘルメットを外し仰向けになって荒い呼吸を繰り返す。
「流石に連発は厳しいか……しかしよくやったぞ! アキル!」
リリスはアキルに手を差し出す。
「とう……ぜん、よ……今ので感覚は覚えた……ただ、少し休ませて」
「あぁ、ゆっくり休むといい」
そう言われたアキルはしばし眠りについた。
———その後、戦闘訓練は数千、何万、何億回に及び、改善に改善を加え考え得る限り最高最善のプランが完成した。
外界時間にして1日半、『ノア』計算で5400日、大凡15年の歳月をかけて組み上げられた彼ら彼女らの執念の結晶が今、花開く……




