プロジェクト・サクラ
「それでは語らせていただきましょう」
皆の前に立った光美達は言葉を紡ぐ、長きにわたる結界生成のを……
———ことの始まりは休息の三日間の少し前。
実はこの時点で光美達は対『イタクァ』仕様の結界をほぼ完成させていた。
あくまで本来の『イタクァ』仕様であるがその出来栄えはほぼ完璧、後は小さな修正や改善を繰り返すだけだった。
そこで休息の三日間に入り、光美達は疲れも相まって休暇に入った。
そして、休息の三日間が明け……地獄が始まった。
それは変異体『イタクァ』の情報と言う名の仕様変更。
変異体『イタクァ』は想定されてた『イタクァ』から大きく逸脱したものであった。
これにより光美達が作った結界は実質意味をなさないものとなってしまったのだ。
本来の『イタクァ』と変異体『イタクァ』の性質の違い……パワーの違いは果てしないものだった『イタクァ』の風の権能を大嵐に例えるなら変異体は地球規模のハリケーン、氷の権能は吹雪から氷河期レベルまで変異し、かつ星間航行能力も段違い、オマケに素のパワーに至っては30倍とバカが考えた様なスペックに置き換わっていたのだ。
光美達は絶望した、こんな化け物を捕らえる結界など本当に作れるのか、と……
だが、彼ら彼女らは諦めなかった、いいや……正しく言えばガチギレした。
こんなふざけたスペックで暴れようとしてる邪神に!
こんなふざけたスペックに変異させた魔導書作者に!
そして理不尽すぎる仕事を押し付けたリリスに!
とにかく怒り狂った、同時に彼らの結界術使いとしての魂に特大の業火をつけた。
その日から、光美たちの挑戦が始まった。
食事と入浴、睡眠以外の時間は全て変異体『イタクァ』を封じる術を考え続けた。
仕事中は激しい議論が飛んだ、如何にしてかの邪神を封じ込めるかを、如何にしてかの邪神に辛酸を舐めさせるかを。
ひたすらに語り、思考し、試作品を作ってはシュミレーターでテストを繰り返した。
しかし、現実は残酷だった、いかに彼らが足掻こうと状況は好転しない。
誰もがもうダメだと諦めかけていた。
しかし光美だけは結界を作るのをやめなかった。
彼女にはどうしても止められない理由があった。
終ぞ追いつくことができなかった姉の姿が、姉を……美影を助けられたはずなのに助けなかった自分の姿が彼女をひたすらに押し進める。
止まるな、命を削れ、今度は何も失わないために……
「もうやめましょう! 無理なんですよ! 我々人類には……」
『教会』の男性結界術師が声を荒げる。
しかし光美は止まらない。
「……なぜ分からないんですか! そんな事してもあなたの命がすり減るだけ、やめてください!」
『教会』の女性結界術師が声を上げ、止めようとする。
「ダメなんです! 私達が諦めてどうするんですか! 皆んなの……人類の未来がかかっているんですよ⁈なら、止まる事はできない! 止まってはならない! 私は私の出来ることを成すだけです!」
光美は鋭くも真っ直ぐな瞳でそう叫んだ。
「……」
『教会』の人間は皆黙る、それでも光美はやめない。
「結界の一部に綻びがあります」
『教会』の結界術師の一人が静かに告げる。
「……え?」
光美はびっくりして確認する。
確かに指摘された場所には綻びがあった。
「しまった……こんなんじゃ……」
光美は顔色が悪くなる。
「だったら直しましょう、我々も当然協力します!」
「「「あぁ!」」」
次々と『教会』のメンバーが光美の元に集う。
「なんで……」
光美は泣きそうな声で問う。
「我々は光美さんの言葉に心を動かされた。だから、我々は我々の出来ることをしましょう!」
『教会』の男性結界術師は親指を上げてサムズアップしながら光美に笑顔を向けた。
「……! ありがとう……ありがとうございます! 皆んなの力を合わせて作り上げましょう!」
光美はそう告げたのちハッ、とした顔をする。
「力を合わせる……繋げる……そうか! そうだったんだ!」
光美は勢いよく立ち上がる。
まるで全てを理解したかの様に。
「どうしたんですか⁈」
『教会』の女性結界術師が心配そうに光美を見る。
「私達は結界=1枚の概念に囚われすぎてたんです! 足りないところがあるなら、みんなで補い合う…….皆んなの力を合わせて繋ぐ! つまりそれぞれに特化した11の結界を重ね合わせ更に繋ぐ! これです!」
光美の理論は一見意味不明に聞こえたが、『教会』の者たちはすぐに理解した。
確かにその方法ならあの邪神を封じ込められるかも知れない。
「なら、やって見せましょう! 『教会』の名にかけて」
「「「応」」」
「お願いします! 皆さんの力、今一度貸してください!」
———そして現在
「そしてこれが、私達皆んなの力を紡いだ結晶がこの『楼閣至るは神縛りの牢』です!」
そう言って光美達11人は術式を展開する。
開かれたのは桜色の世界、邪なる神を縛る究極の結界。
「リリスさん、お願いします!」
光美がそう言うとリリスは指を鳴らし変異体『イタクァ』のプログラムデータホログラムを投影する。
「さて、耐久実験だ!」
リリスがそう言うとプログラムは結界を殴る、風の権能をぶつけ、氷の権能をぶつけるが結界にダメージは全くない、星間航行状態に移行しようとしても結界から出られない。
「ほう、出力100%でこれか、なら次は1000%だ!」
プログラムは先ほどと同じ攻撃と星間航行を行おうとする。
星間航行は失敗し、結界には極小のヒビが入っただけだった。
「ふふ、ははは、あはははは!!! 最高だ光美、それと『教会』の結界奇蹟使い達! これならやつを封殺出来る!!!」
リリスは満足げに笑う。
「それだけじゃありません! 皆さんの肉体を保護する術式……『人を護し桜の花』もあります! 流石に『楼閣至るは神縛りの牢』には遠く及びませんが少しは防御の足しになるはずです!」
光美は誇らしげに語る。
「あぁ、これで必要なものは揃った! これより1週間の休息の後、プログラム相手の模擬戦闘訓練を行う! その後、我々は邪神と対峙することになる! 作戦名、結界封牢作戦『壊れし悪夢』! これの完了を持って今回の戦いを終結とする! 皆、思い残すことのない様に!」
リリスは高らかに告げる。
「「「死ぬつもりなんか無いっつうの!」」」
リリスに対して皆が答える。
「そうだったな! ふふ、我ながら忘れっぽくて困る!」
そうやってリリスは少し笑った




