しばしの休息を
———地下超巨大施設『ノア』第二層 研究室にて
「いぃよっしゃあああ!!! 『イタクァ』がどう変質したかわかったァァァァア!!! 見たか! ボケ! あんな子猫の死体とキャンディと二日間伸ばしたカップ麺やら生ゴミと人肉が必要とか意味不明な手順書いた腐れ野郎め! このグレン様に解明出来ねぇことはねぇんだよダボがぁ! ハァッハッハハハァ‼︎」
5人のグレン達が雄叫びにも似た高笑いをする。
かれこれ休憩含めて40時間もの間不眠不休で『イタクァ』の変質を調べ上げていたグレンは最高に壊れたな状態になっていた。
「私も助力したとは言え、想像以上に速いな。流石はグレンと言ったところか……」
リリスは素直に賞賛した。
「よし! 他の連中にもデータを送るぞ!」
「まぁ、待てグレン。一旦休息としよう」
そう言うとリリスはパチン、と指を鳴らす。
瞬間グレンは最下層にて統合された。
———地下超巨大施設『ノア』第十層 高次元万能設計機『アイン・ソフ・オウル』制御室にて
「うお! 今回はあんまりダメージねぇな? まぁ、いいや! オレ天才だもんな!」
グレンは支離滅裂な言葉を発する。
それを見たメリアーナはすぐさま治療しようとしたが、オリジナルのリリスに止められる。
「どうやらその様子だと第二層での仕事を終えたみたいだな、グレン」
「応よ! 何せ天才グレン様だからなァ!」
「そうか、では……『ダアト』、館内音声にアクセスを」
『了解致しました。マイマスター』
リリスは壊れたな状態になったグレンをスルーしつつマイクマークのついたウインドウに語りかける。
その言葉は第一層から第五層迄の全ての部屋に響いた。
『諸君、長期にわたる訓練並びに研究お疲れ様。早速で悪いが全員第一層の客室に集まってくれ、以上』
その号令の後、各階層にいたメンバーは第一層の客室に集合した。
地下超巨大施設『ノア』内部 第一階層客室にて
全員が集まった後、統合されたリリスは皆の顔を見る。
案の定、全員目の下に深いクマができており、疲弊していた。
無理もない、『ノア』は地下施設故に日光がない。
その為、時間感覚が曖昧になりやすいのだ。
それ以上に、彼ら彼女らが頑張りすぎなのもあるが。
「諸君、一区切りついたことだし一旦休息に入ろう。具体的に言うと『ノア』内部時間で3日分の休暇だ。諸君も疲れが溜まっていることだろうしな」
リリスはそう告げた。
「3日って! そんな休んでる暇あるの⁈」
心身ともにボロボロのアキルがリリスに困惑気味に質問する。
「最初に言った通り、外の1秒が『ノア』での1時間になるようにしてある。仮に3日休んでも72時間、つまり72秒しか経過していないから問題ない。なんなら猶予自体は『ノア』内部計算で約13500日……大体36年近くある。外界との時間の設定変更がちゃんと機能しているかについては私の持つ『魔眼』……『過去視の魔眼』で常時確認済みだ。正直、『過去視の魔眼』を使って外を見ると余りのスローさに気持ち悪さを覚えるレベルだ。あぁ、それと、言い忘れていた君達の肉体の老化の話だが、外界の時間に合わせてる。つまり1時間で1秒分老いる、まぁ要は普通に老いているから安心してくれ。まぁ、兎に角休憩も重要な仕事だ。と言うわけで……」
リリスがパチン、と指を鳴らすと広々とした客室の中心に大きな長机と人数分の椅子が現れた。
「まずは食事だ。何かリクエストはあるかい? 大抵は出せるぞ」
そうリリスが告げると皆は席につき、思い思いの料理をリクエストする。
実際、全員40時間もの間ほぼ無休で働いていたのだ。先程までは気にならなかったが今となっては全員空腹で仕方ない。
そうしてしばしの間、食事会は続いた……
「ふぅ、ご馳走様でしたっと」
クレアが一足先に食事を終える。
「食器は後でまとめて片付けるからそのままで構わんよ。あぁ、それと、横の部屋を大浴場に作り替えておいた。じっくり入るといい。無論男女別だがな! ついでに各々の下着と寝巻き兼私服を用意しておいた。自身の名前の書いてあるカゴのものを使ってくれ、サイズは自動でちょうどいいように合うようになっている。それと、君達の服はこちらで個別に洗濯乾燥しておく。それから、大浴場横の2部屋が寝室だ。手前が女性陣、奥が男性陣用だ、ベッドも人数分用意してあるから使ってくれ」
リリスは少し笑いながら言葉を紡ぐ。
「アタシは後ででいいや。それよりリリス、なんか良い酒ない?」
クレアはリリスに尋ねる。
「君、シスターだろうに……まぁ、あるがな! しかし、未成年者もいるんだ、全員が食事を終えて部屋から退出してからだ。それまで待て」
リリスは答えた。
「あいよー」
クレアは疲れ切っているのか天を仰ぐように椅子に背を預けた。
「全く『教会』のシスターの癖に飲酒とは……」
メリアーナがボヤく。
いつもならクレアが何か言い返すところだが、クレアはただ天井を見つめるだけだ。
「むぅ……」
メリアーナは少し不満げだ。
なんやかんやで喧嘩するほど仲が良い、と言う感じらしい、少なくともメリアーナ的にはだが。
暫くしてほぼ全員が食事を終え、大浴場の方に向かう。
残っているのはリリス、シェリー、クレアだけだ。
リリスは再び指を鳴らすと食器が一斉に消え代わりにワイングラスが3つ、各々の前に現れた。
「で、本題はなんだ?」
リリスは虚空からワインボトルを取り出しながらクレアに問う。
「なんだ、分かってんのかよ。鋭いな」
クレアはそう答えた後、次の様に語った。
「武器の魔術付与が終わった後、第四層のシュミレータールームで本来の『イタクァ』のデータとの模擬戦闘をしたんだが、あのデカブツ、物理攻撃が効かねえんだよ。実際、データ見たら『イタクァ』は全身風でできた邪神らしいじゃねぇか? 多分、核になる部分があるんだろうがそれ以外には攻撃が無意味になっちまう。て言うのをケイトが気づいたんだが、対策あるのか?」
クレアはリリスに質問する。
リリスは眼を見開いて唖然とした後、独り言の様に答えた。
「そうだ、『イタクァ』には物理攻撃は意味がないじゃないか……何故私はそんな簡単な事に気が付かなかったんだ? 何故……」
リリスの顔色が悪くなっていく。
本来ならリリスはこんな初歩的なミスを起こすような人物ではない。
焦っているにしても何かがおかしい。
まるで肉体に深刻な不具合が発生しているような感覚をリリスは感じた。
クレアはリリスを心配しながらもある提案をした。
「なぁ、『イタクァ』の内側に生物みたいに生の肉体を作ることって出来ねぇか? 模擬戦闘でケイトが使ってたホログラムで代用されてた、まだ未完成の武器。あれの弾丸にそう言う効果って付与できないか?」
その言葉を聞いてリリスが不意に立ち上がる。
「それだ! 今なら変質後のデータもあるし次の作業からは私を2人『アイン・ソフ・オウル』に配置できる! ならば間に合うはずだ! いいや、絶対間に合わせる! ありがとう! クレア!」
リリスはクレアの手を握る。
「礼ならケイトに言いな、全部あいつが考えた様なもんだからな! ケイト曰く『壊せる体がないなら、壊せる体を与えれば良い』ってな!」
そう言うとクレアは再び椅子に腰を預け、天井を見上げた。
少しの間そうした後、クレアは座り直し、椅子に座ったリリスの瞳を真っ直ぐ見てある質問をする。
「なぁ、リリス達は何でそんなに人間に肩入れするんだ? たとえ邪神が降臨しようとお前らは生き残れるはずだろ? そうでなくとも別の天体に飛び立つこともできるはずだ」
クレアの質問に対し、リリスは少しの間瞳を瞑る。
そうして、安らかな笑顔でリリスは答える。
「私は……私達は君達人間とこの星が好きになってしまったのさ。私達は君達の歴史を……この星の歴史の全てを視てきた、確かにそこには美しいだけじゃない、醜く残忍な歴史も沢山あった。それでも私達は君達が好きになってしまったのさ。どれだけ辛くとも歩み続ける君達人間の歴史に魅了されてしまった。それが私達二人の結論さ」
その答えを聞いてクレアは少し考えた後、答えた。
「そうか、人間が好きになっちまったのか……なら、仕方ねぇな! アタシ達で邪神をシバこうじゃねぇか!」
クレアの答えにリリスはふふ、と小さく笑う。
「さぁて、真面目な話はこれでお終い! 酒飲もうぜ!」
クレアはそう言うとリリスの持つワインボトルを見る。
「あぁ、その件なんだが……これは葡萄ジュースだ。クレア、君は人間だから入浴前の飲酒は体に悪いからな」
そう言ってリリスは3人のグラスに葡萄ジュースを注ぐ。
「はぁ⁈マジかよ! ……しゃあねぇなぁ」
そう言いながらもクレアはジュースに口をつける。
「……ッ‼︎何だこれ‼︎滅茶苦茶うめぇじゃねぇか‼︎」
余りの美味しさにクレアは仰天する。
「ふふ、何せ私が選りすぐった一品だ。美味いに決まっている」
リリスは嬉しそうに笑う。
「あぁ、それとクレア。それ飲んだら風呂に入ると良い。他の皆はもう寝ついた様だからね」
リリスの言葉に、クレアは少し驚く。
「……気づいてたのか?」
クレアがリリスに問う。
「まぁな、兎に角安心して風呂を楽しむと良い。そしてゆっくり休みたまえ」
リリスはそう答えると手に持ったグラスに入ったジュースを飲み干した。
「そうさせてもらうぜ。……気遣いあんがとよ」
そう言うとクレアはジュースを飲み干し大浴場に向かった。
「……マジで誰もいねぇな、よし」
そう独り言を呟くとクレアはシスター服と上下のインナー、下着を脱ぐ。
……その体中には夥しい数の痛々しい傷の跡があった。
鞭で打たれた傷、銃創、抉られた傷、深い切り傷……様々な傷が至る所にあった。
唯一傷がないのは首から上と両手だけだ。
「……こんなん、見せられたもんじゃねぇからな……」
そう呟くとクレアは一人静かな大浴場に入って行った……




