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機神覚醒

 機体胴体部 コックピット


「あー、ちくしょう……身体中から嫌な汗が止まらねぇ……

 俺のクライアントになる奴はなんでこうも段取りが悪いんだか理解に苦しむね。つうか、マジで実戦やるの? 間違いなく死ぬよ、俺!」


 体を震わせながらグレンがボヤく。


「そんなに怯えたって仕方ないだろう、キミがやらなきゃ大勢死ぬぞ? キミはそういうのが嫌いだろう? まぁ、どちらにしろ調整するような時間はないんだ、諦めろ」


 そんなグレンに対してリリスは淡々と告げる。


「あぁ、クソッタレ‼︎時間ないなら最初っからそう伝えろよクライアント様! だーもう‼︎」


「安心しろ、死体ぐらいは回収してやる。最悪脳さえ無事ならキミの技術は死なんよ、良かったな」


「そうじゃねぇよドチクショウ‼︎死の概念がないからそんなガバガバなの? 倫理観バグっちゃってるの⁈」


「シェリー、ゲート開け」


 グレンの喚き声を無視してリリスはシェリーに指示を飛ばす。

 そのついでと言わんばかりに指を鳴らし、床から高級そうな椅子を生やすとそこに座った。


「アイアイサー!」


 号令と共に機体の真下に漆黒のゲートが開く。

 同時に機体はその中へと沈み込んでいく。


「ちょ」


「まぁ、頑張りたまえ」


 リリスはどこからか取り出したワインをグラスに注ぎながら、サディスティックな笑顔でグレンを見送った。

 その、まるで成金の悪役の様なその姿と高笑いは正に外道と言うべきに相応しかった。


「あー、やっぱり、生命の価値観が根本から違う奴と仕事するべきじゃなかったなぁ……」


 グレンは光を失った瞳で虚空を見つめながらボヤく。

 未だコックピットに映される外部画像は漆黒、即ちグレンの乗った機体はまだゲートの中にいる。


「あ、繋がった。早速なんだけどグレン、後3秒後に落ちるから気をつけてね!」


 シェリーからの音声通信が急に入る。


「は?」


 色々と言いたいことはあるが今、落ちるって言ったか? 

 え? 落ちるってあの落ちる? 

 グレンが思考を回す間も無くコックピット内の映像が一面の青空に切り替わる。


「せめて、地面に直接出せよクソがァァァァア!!!」


 そのまま機体は自由落下を始める。

 当然ながら空中からの落下テストなどまだしていない。

 機体自体は問題なく耐えるだろうが、中身がどうなるかなんてまだ計算しきれていない。

 いや、この高さならギリギリ大丈夫か? 

 一応パイロットは胴体のみ固定式の宙吊りに近いスタイルにしたから大丈夫……大丈夫だよね? 


「あ、ちじょうだ」


 グレンは少しでもダメージを減らすために体を瞬時に丸める。これなら機体も丸まるし、なんかいい感じにクッションになる……はず。

 と言うか、そうじゃなきゃ戦う前に俺死んじゃう。

 数秒後、強烈な轟音と大量の土煙を上げながら機体は無事? 着地した。


「ッはぁ‼︎マジで死ぬかと思ったぁぁぁ……アイツら覚えとけよ……ん?」


 グレンが何かに気づく。着時に巻き上がった土煙の先、重なり合う低い唸り声と蠢く巨大な不定の影が異質な怪物の存在を嫌でも認識させる。




 同時刻 アインソフオウル 管制室


「よぉし! 映像、音声のリンク完了! 早速映すわね‼︎」


 シェリーがそう告げるとアインソフオウル内の画面に無様に着地した機体と敵が映し出される。


「ほう、あれはカンブリア紀……いや、デボン紀くらいに降ってきた奴か?」


 映し出された怪物を観て、リリスがワイングラスを片手に呟く。


「私に聞かれても覚えてないわよそんな昔のこと」


 管制室内のパネルを操作しながらシェリーが答える。


「まぁ、あれならギリギリ何とかなるだろう。採取用ドローンも飛ばしといてくれ」


「あいあい。全く、吸血鬼使いが荒いんだから……」


 小言を漏らしながらもシェリーは採取用ドローン数台を起動し、先程開いたゲート内に向かって飛ばす。


「と言うか、キミ、まだ吸血鬼(その)設定続けてたのか? 300年前くらいからやってないかそれ?」


「いいんですぅ〜シェリーさんはミステリアスヴァンパイアなんですぅ〜」


「そう言うものか、ふむ」


 リリスはワイングラスを揺らしながら興味なさげに答える。


「さてはて、彼は生きて帰れるかな?」


 リリスは不敵な笑みを浮かべながらワインに口をつけた。




 ———その頃、地上では


「音声回線繋がってるから全部聞こえてるからなアホども‼︎……つうか、テメェら操縦出来ないならせめて戦闘サポートする気とかないわけ⁈……ともかく、アレが敵ってやつか?」


 グレンが視線を向けた先にソレはいた。

 焼け爛れたような赤黒い体表の痩せこけた巨大なドーベルマンの様な胴体、耳があるべき部分には無数の長い触手が蠢き、六本三対の足がある。

 化け物、と言う言葉がこれほどマッチする生物はそういないだろう。


「そう、奴が今回の獲物。遥か太古の時代宙より飛来した者たちのうちの一体。そうだな……『アンダードッグ・ビッチ』とでも名づけるか。名前あったほうがいいだろ?」


 ケラケラと笑いながらリリスが言う。


「それにしたって『負け犬・雌犬』って……もう少しネーミングどうにかならねぇのかよ……」


「私としてはあいつにピッタリだと思うがね? まぁ、ぼやいてる暇があるなら気を抜かずに頑張りたまえ。死にたくなかったら、な?」


「ったく……どっちが敵かわかったもんじゃねぇな……」


 ぼやきつつもグレンは思考を回す。


(つっても、あの見た目だけで俺でもアイツがやべぇ奴なのはわかる。

『アンダードッグ・ビッチ』……いや、無駄になげぇな? 『ビッチ』でいいか。

 とりあえず、どこが急所だ? 

 さっきのリリスの話だとアイツ、宇宙生物っぽいんだよなぁ……とりあえず)


「頭を潰す‼︎」


 グレンはその身を屈める。連動して機体も身を屈め、解き放ち、ジャンプの要領で会敵した『ビッチ』との間合いを一気に詰める。

『ビッチ』は跳躍した機体に視線を向けると威嚇するかのように吠えたける。

 瞬間、『ビッチ』の腹部から生えた二本の腕がゴムの様に伸び、機体に向かって襲い掛かる。


「なッ」


『ビッチ』の不意の一撃を空中で避けることは叶わず。

 胴体に重い一撃を食らった機体はそのまま地面へと激突した。


「クソッ‼︎聞いてねぇぞ犬っころ‼︎」


 グレンは瞬時に機体を立て直す。

 対する『ビッチ』は伸ばした二本の腕を鞭のように振り回し牽制している。


「……とりあえず機体ダメージは無いな。さて、どうしたもんかなぁ……」


 グレンの乗っている機体に武器の類は未だ無い。

 想定よりもはるかに早く実戦を行うことになってしまった為だ。

 本来なら長期の試験後に実装するはずだったのだ。

 むしろ一日もしないで素体状態とは言え本体が完成している事が異常なのだ。

 武器がない以上『ビッチ』に近づかなければグレンは攻撃できない。

 周囲に武器がわりになるものがあれば良かったが、不幸にも場所は荒野、そんなものは無い。


「なら、使うしかねぇか!」


 グレンが覚悟を決め、叫ぶ。


「『生命(ソウル)循環(サーキュレーション)システム‼︎モード・増大武装(インクリースアームズ)‼︎実行‼︎」


 グレンのシャウトに呼応するように機体が白く光り輝く。

 機体の装甲の継ぎ目のような模様から漏れ出た光がまるでヴェールのように機体を包み込む。

 一際強い光を放った後に現れたソレは、先程までの貧相な巨人などではない。

 白く透明な鎧を纏った騎士、その名を———


「『システム・アナンタ』完全起動だ! いくぜ、犬っころ‼︎︎」


『アナンタ』が『ビッチ』目掛けて走る。

 先程までとは違い、その圧倒的な速度で『ビッチ』が振り下ろす二本の腕の猛攻を掻い潜り、その眼前に至る。

 目前に現れた白き巨人を前にして、『ビッチ』の頭が亀裂の入るように歪に縦に割れる。

 開かれた頭の中の無数の乱杭歯と蠢く触手が『アナンタ』に襲い掛かる! 

 しかし、『アナンタ』の白い鎧に触手が触れた瞬間、鎧がボコボコと肥大化し爆ぜる。


「武器はねぇけどよぉ、武装がねぇわけじゃないんだぜ!」


『アナンタ』の鎧は生命エネルギーを増大させたもの。

 実態を持つと同時に実態を持たない純粋なエネルギーの塊。

 その鎧は操縦者の意志のもと可能な限りあらゆる事象を引き起こせる。

 グレンはこの性質を利用し、触れられた部位を爆弾のように爆破したのだ。


「終わりだァ!」


 グレンは『アナンタ』の両腕を『ビッチ』の開いた頭部に突き刺す。


「爆ぜろ」


 先程と同じ容量で腕部全体を爆破させる。

『ビッチ』は内側から爆散しその肉片と紫色の血の雨を降らせた。


「ふぅ……大 勝 利‼︎




 ゔぇっ……あぁ?」


 グレンは自らが吐き出し、床にぶち撒けた真紅のものを見て納得する。


「やっぱ、こう言うの向いてねぇわ俺」


 その言葉を最後にグレンの意識は消えた。




「……! ……ン! グレン‼︎」


「あー、あー?」


 グレンが目を開けるとシェリーとリリスの顔が見えた。


「いやぁ、よくやってくれたよキミ。今は休みたまえ、身体中ボロボロだからなキミ」


 シェリーがグレンに告げる。


「やっぱなぁ、未完の状態で稼働させるもんじゃねぇわ」


 グレンは横たわりながらボヤく。


「何、これから完成させればいいさ。幸い時間は嫌というほどあるんだからな」


 リリスは笑みを浮かべながら告げる。


「俺の選択権は無しかよ! ……まぁ、俺が死ぬまでは付き合ってやるよ。なんだかんだ面白いしな」


「そう言うと思ったよ。では、改めて……グレン・フォスター、これからよろしく。悪魔と吸血鬼の暇つぶしの為にせいぜいその命を捧げてくれたまえ。末永く、な?」


 悪魔のような笑みを浮かべながら少女はワイングラスをグレンへと差し出した。

 こうして、歪な三人の同盟は結ばれた。

 未だ眠れる未知からの使者を討ち滅ぼす為に。

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