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恋する少女

 ———時は少し遡り、アキル達が逃げた頃に戻る。


「あらあら、逃げられちゃった」


 黒色の巫女装束を纏う長い黒髪の少女……美影(ミカゲ)はそう呟くと指を鳴らす。

 同時に先程まで顕現していた大ムカデが彼女の影にとぷんと、沈む様に消えた。


「ふふ、きっとワタシが生きている事を知ったら雪奈(せつな)は駆けつけて来てくれる……! あぁ雪奈、早く会いたいよぉ……その為にも準備しなくっちゃ!」


 恍惚(こうこつ)な表情で身を(もだ)えさせた後、美影はしゃがみ込み地面に触れる。


「ワタシと雪奈が久しぶりに会うのだもの、素敵な場所が必要よね!」


 恋する少女の様に無垢で無邪気な笑顔で嬉しそうに言葉を紡ぐ美影、しかしそんな光景とは裏腹にどす黒く(おぞま)しい空気が周りを侵食し始める。


「さぁ、開花なさい。呪楼(じゅろう)蠱毒(こどく)』」


 優しく紡ぐ言葉と共に美影によって大地に流される強大で邪悪な霊力が世界を(おか)す。

 美影の触れた地面から這い出る様に樹木が生まれ、急速に成長を始める。

 周囲の建物を破壊しながら美影を乗せ、呪楼と呼ばれたソレは巨大に成長し続ける。

 大地に根を張り、周りの全てを飲み込み、自らの糧とし成長を繰り返す。

 一種の災害とも言える成長、次第に恐怖の絶叫が街中から響き始める。

 ソレすら飲み込み、蹂躙し呪いの桜は成長を続ける。

 その桜の枝の上に座りながら美影は鼻歌を歌いながら脚をパタパタと振り動かす。

 美影にとって、雪奈以外の人間等どうなろうがどうでもいい、そんな事よりも今は雪奈との再会に想いを馳せることの方が重要なのだから。

 雪奈はあれからどう成長したんだろう? ワタシを殺した時は同じ8歳だったから今は16歳になっている。

 あの凛とした優しい瞳、サラサラで綺麗な長い黒髪を後ろで束ねている髪型や柔らかくきめ細やかで雪の様な肌とその温もり、どこか懐かしく安心する匂い……どれも大きく変わっていないといいのだけれど……

 あぁ、考えるだけでドキドキする! 雪奈はワタシを見たらどんな表情(カオ)をするんだろう? 怒るかな? それともビックリする? もしかしたら泣いてくれるかもしれない! 邂逅一番であの時みたいにキレイに切ってくれるかな? そうだったら近づいてくれるから雪奈を抱きしめることもできそう! ああ! けど、そんなのダメだわ! もっとドキドキしちゃうもの! そんな妄想に耽りながら顔を真っ赤にして美影は悶える。

 しばらくして、呪楼の成長が止まる。

 天高く聳え立った巨木はその枝に無数の蕾をつけた。

 だが、開花しない。


「あら? 足りてなかったかしら?」


 失敗しちゃった……と美影は少し落胆したがすぐに切り替えた。

 簡単な事だ、霊力が足りないなら足せば良いのだから。


肉蟲(にくむし)


 霊力をその身に回し、名を告げ、手を合わせ軽い拍手を一回。

 呼び出すための儀式を終えて、羽の生えたムカデの様な無数の小さな蟲が街へと放たれる。


「いってらっしゃい。雪奈以外なら誰でも構わないわよ」


 呼び出された式神は術者の従順な僕としてその使命を全うする。

 美影が呼び出した肉蟲達の使命、ソレは霊力の確保ともう一つ……"恐怖の蒐集"ッ! 

 先程の騒ぎで逃げ惑う人々(エサ)を見つけた蟲達が襲いかかる! 

 突然の襲来にただでさえパニック状態の人々はさらなる恐怖に陥る! 

 蟲達は激痛を与えながら体の穴から体内に潜り込む、その上で周りの肉を貪り食い同時に自らの数を爆発的に増やしていく。

 激痛と体内を這い回られる嫌悪感に悲鳴と絶叫を上げる人々。

 そして、十分に霊力を補填し、増えた蟲達は内側から人間を食い破り、這い出でて次の獲物を求めて体内から飛び立つ。

 あまりにも悍ましい光景。

 夏の旅行客で賑わっていた京都は、たちまちこの世の地獄と化したのだ、たった一人の少女の手によって! 

 そんな光景を視ながら美影は身支度を整える。

 服はキレイにしてあるし血溜まり(かがみ)で確認したけど問題なし! これで雪奈に会っても恥ずかしくない! 

 ドキドキしながら美影は桜の木下で思い人を待つ。

 恋する少女を彩るのは鮮やかな紅色の悲鳴と絶叫だ。

 それらに包まれながら、美影の為に呪いの桜は開花する……

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