let's go!京都!
———予玖土町 蒼葉邸 アキルの自室にて
雲一つすらない晴れ渡った青空! 何もかもを照らし出すほどに輝く日差し! 身も心も焦がす程の暑さ!
世はまさに夏休み!
一夏の思い出を作るもよし! 青春の甘酸っぱいページを作るも良し!
陰鬱な予玖土町にさえそんな夏の夢が!
「あ゛ぁ゛ー」
来てなかった。
正確には若干一名のみに。
この夏、確かに楽しんでいる者達はいる。
クリス達フォスター一家は家族水入らずで海外旅行、暇人だと思ってたケイトは『ごめん、今夏はスケジュールビッシリなんだわ』なんて言って愛車と共にそそくさとどっかに行った。
食事以外滅多に地下図書館から出ないで娯楽三昧の自称吸血鬼でさえ「久々に友人に会うから」と言って昨夜中に飛んでいった。
ならば、と紫苑とナズナに会いにいったら二人は既にキャンプに行った後、ヴァレットは毎年恒例1人山籠り、冬香は1人旅……
そして明日には雪奈も京都に行ってしまう。
そう、現状何の予定もないのは蒼葉アキルただ一人だけなのだ……
別に寂しくないし、たまたま予定があったから仕方ないし。
ここ数日そうやって自分を慰めていたが事実上のJK初夏休みがボッチと言う危機は目前に迫っていた。
本来ならそんな事は気にしないだろう、いやする余裕なんてなかったはずだった。
しかし前回の事件によって人生最大の不安要素が解決してしまったが為に、そんな事でさえ気にする余裕が出来てしまった。
つまるところ現在のアキルは不安がなくなった代わりに、今まで封印し続けていた年相応の欲求が大爆発していた。
そんな中の夏休みボッチと言う現実に耐えられなかったアキルは今朝から光の灯らぬ瞳でひたすらに扇風機にあーあーする生命体と化していたのだ。
最早そこに意味はなく価値もなくただただ無意味な行為を繰り返すだけ。
こんな事していたところで現実は変わらない、そんな事は当の本人が一番わかっている。
「あ゛ぁ゛……」
不意に頬に冷たい何かが流れる。
余りにも無様すぎる自分自身にアキルの心は自ら壊れることを選択したのだ……
いっそこのまま扇風機にあーあー言うだけの生物にでもなってしまいたい。
そんな思考でアキルの脳内が埋め尽くされた時、それらを切り裂く様にその一言は発せられた。
「あの……もし良ければなんですが、一緒に京都に行きますか? 私の友人もアキルさんに会いたいって言ったましたし……」
声のした方に振り向くと憐れみと慈悲、そしてなんとも言えない作り笑顔が混ざったかの様な表情を浮かべた雪奈が立っていた。
「あ……が……ぜづな゛ぁ……‼︎」
泣き崩れながらアキルは声を絞り出す。
頭を垂れ、這いつくばり、手合わせ祈る。
生命が生まれて以来、己だけの力ではどうしようもない時や計り知れない感謝を抱いた時に無意識に行う行為。
それが祈りである。
今この状況に置いて雪奈はアキルに取って祈る対象、自らを夏休みボッチと言う地獄から救う菩薩であることに違いなかった。
「えっと……とりあえず涙拭きましょう? ね?」
そう言って雪奈はアキルにハンカチを手渡した。
「落ち着きましたか?」
「殺してちょうだい……」
あれから数分の時が経ち、アキルの思考は正常な状態に戻った、その上でアキルは虚な瞳で呟く。
まぁまぁ、と雪奈はなだめるが、冷静になった今のアキルに取って先程までの醜態を見られたのはあまりにもッ……! あまりにも精神的にキツイ!
「とっ、とにかく! さっきのことは絶対に他言しませんし切り替えて明日の準備しましょう!」
そう言って雪奈は流れを変え用とする。
とにかくこのままウダウダしてもよくないと考えているのは雪奈も同じだ。
「そうね……そうよね、折角誘ってもらったんだもの! なら、気持ちを切り替えなくちゃ!」
ようやく踏ん切りがついたアキルは嬉しそうに自室に戻って荷造りを始めた。
確かに醜態を見られたのはキツイが、それ以上に友人と旅行という自身が経験した事のないイベントに対する好奇心と嬉しさが勝っていた。
そんな後ろ姿を見て雪奈はふふっと優しい笑みを浮かべる。
明日には京都で楽しい旅が始まるのだから……
草木も眠る丑三つ時、山中の洞窟にて蠢く者あり。深淵の如き漆黒と何もかもが死に果てたが如き静寂の中一人の少女が目覚める。
軽く伸びをした後、軽く手を叩く。
同時に無数の蟲達が少女の身体に纏わりつく。
再び少女は手を叩く、同時に蟲達は不快な破裂音と共に潰れ、混ざり、漆黒の巫女装束へと生まれ変わる。
「あぁ……やっと、やっと作り直せた!」
歓喜の声を少女はあげる。
「永劫にも思えた八年間、けれどこれでまた貴方に触れられる……」
万感の思いを込め少女は言葉を紡ぐ。
祈る様に、祝う様に、呪う様に。
「待っていてね……私の雪奈」
その言葉と共に少女は洞窟の出口へと向かう。
少女の道筋を照らす様に青い焔が隊列を成す。
照らされた洞窟の地面には無数の骨と肉、臓物が敷き詰められ赤い道を形成していた。
その上を愉しげに飛び跳ねながら少女は進む。その口元には笑みを浮かべて。
幼く小さいながらもその内に秘められた残忍な本性を表すかの様に。




