チェーンソーシスターVSニンジャゴースト
ー真麻久留市 繁華街にて
草木も眠る丑三つ時、街灯の光も届かぬ裏路地に迷い込んだ男がいた。
「アレェ〜?道間違えたかなぁ?」
酔っ払いのサラリーマンだ。
「んー?おにーさーん!ここどこか知らん?」
視界に入った人影に声をかける、しかし返答はない。
「おーい!聞いてんのかぁ!」
泥酔し気の強くなったサラリーマンは怒鳴りつける。
「んぁ?」
瞬間、男の視界が赤く染まり反転する。
「なん……で……」
そのまま男の首は地面へと無慈悲に落ちる。
残された頭のない胴体は首の先から噴水が如く血を噴き出して倒れた。
消えゆく意識の中で見たものを遺言が如く言い残す。
「ニン……ジャ……」
ー翌日 同市内郊外
郊外の森にひっそりと佇む小さな教会、暖かな日の光に照らされ小鳥の鳴き声が聞こえる美しい風景。
「ここは風俗店じゃねぇんだよ!二度とくんじゃねえこのド低脳のクソ野郎がッ!」
そんな美しい風景を忘れさせるほどの怒号と共に顔が変形するほど殴られた男が教会の入り口から吹っ飛ばされた。
男が吹っ飛ばされた入り口からは土煙があがり、その中に1人のシスター服の女が立っていた。
「おいおい、いくら何でもやりすぎだろ」
教会の奥からやってきた大男が女に告げる。
「けどよぉジョン、あの野郎私が金出せばヤレるようなビッチだとか抜かすんだぜ?んな訳ねぇっつうの!」
ジョンはしばらく頭を抱えた後言い返す。
「クレア……お前、この前飲みに行った時酔っ払って半裸になってたからじゃねえかよ?」
クレアは言い返す
「ありゃ酔ってたからノーカンだ」
「言うと思ったよ」
そうこう騒いでいると街の方からこちらに向かってくる人影をクレアは見つけた。
「おいジョン、今日は珍しく客がよく来るみたいだぜ?」
そう言ってクレアはジョンに視線を送る。
程なくしてその人物は教会へと辿り着いた。
「単刀直入に聞きますここのシスターは除霊ができると言う話は本当ですか?」
「おいおい嬢ちゃん?質問する前にまず自分が何者か言うのが礼儀ってもんじゃねえか?」
そう言いながらクレアはヤンキーが如く少女を睨んだ。
先程のことがあってイラついているのか半ば八つ当たり気味だ。
瞬間、少女は土下座の体制をとりながら叫ぶ!
「不躾なのは分かっています!でも!どうかあの霊達を……私の祖先達の霊を静かに眠らせてほしいのです!」
クレアはあっけに取られたのか少し黙り込んだ。
そして「はぁー、とりあえず顔上げろよ?中で話聞くから。後、名前くらい教えろよ?」
そう言って少女に手を差し伸べる。
「はい……私は静葉、神手静葉です」
そう答えると静葉は差し伸べられた手を掴んだ。
「んでまぁ、纏めるとアンタの先祖はニンジャでそのゴーストが人を襲ってるって?面白いジョークだな!コメディアンでも目指してみろよ?」
丸テーブルを挟んで向かいにいる静葉を侮辱するようにクレアは吐き捨てる。
「ふざけるな!ジョークなんかじゃない!」
ドン!っとテーブルを叩き静葉は立ち上がる。
「いやよぉ、ゴーストは信じるぜ?なんせアタシは除霊で稼いでる訳だし。けどよぉニンジャって……それじゃあれか?アンタもニンジャか?」
そう言って静葉の方を見る。
「そうだ!」
即座に静葉は答える。
「ほーん、ならでけえカエルでも出してみろよ!そしたら信じてやるぜ?」
「な……そんなの出せる訳ないじゃないですか!」
「なら信じねぇ!ニンジャはでけえカエル出せるって日本のマンガに描いてあったぞ!」
「そんなのフィクションです!と言うか貴女こそ本当にシスター何ですか?粗暴だし口も悪いし全然イメージと違うんですけど!」
「あ゛?どっからどう見てもシスターだろうが!このエセニンジャ野郎!」
「はぁ⁈」
場の空気が張り詰める、このままでは殴り合いの大喧嘩になりかねない。
「2人ともそこまでにしておきなさい」
互いの握りしめられた拳が振われる寸前にジョンがその場を諌める。
「すまないね、クレアは日本のマンガ好き何だがそのせいで知識が独特なものでね」
クレアは舌打ちをして視線を少し逸らした。
「……いえ、私の方も失礼しました」
そう言って静葉も頭を下げる。
「ですが、本当なんです。なにせ私自身も襲われたのですから」
クレアは頭を少し掻いて口を開く
「……アタシも悪かったよ。けどよぉ、そもそもなんで霊に襲われたんだ?」
「それは私にも分かりません。それに、襲われたのは私だけじゃないみたいなんです」
キョトンとした顔でクレアは聞き返す。
「マジかよ、どれくらい襲われてるんだ?襲われたヤツに関連性は?」
クレアは真剣に聞き返す。
「少なくとも今月だけで既に十二人死んでます。関連性は全くなくて……」
「マジか……早く対処しねぇマズイな」
「……」
静葉は黙り込み下を向いている。
少しの沈黙の後、彼女は口を開く。
「ありえないんです、あってはならないんです!私の一族が無辜の民を傷つけるなんて!人を助ける為にその身を犠牲にした先祖達がそんなことっ……」
今にも消え入りそうな震えた声で彼女はそう言った。
「……なら、尚更さっさと除霊しねえとな」
そう言ってクレアは席を立つ。
「今日の夜で終わらせてやるよ」
そう言うとクレアは教会の奥へと歩を進めた。
ー真麻久留市 繁華街にて
「本当に良かったのかよ?結構危ねえぞ囮役なんて」
静葉に目線を向けながらクレアが呟く。
「構いません。それに私なら普通の人よりは囮として長く持つでしょうし」
それより、と続けて静葉は呟く。
「私は、貴女の背負っている大きなカバンの方が気になりますよ。その中に除霊の道具が?」
「ん?まぁ、そんな所だな。さて……」
クレアの表情が変わる。
同時に先程まで喧騒に包まれていたはずの繁華街が静まり返る。
「来やがった!」
その一言を合図に周囲から黒装束を身に纏った無数の人影が現れ、同時に無数の悲鳴が響き渡る!……ニンジャゴーストの襲来だ!
「そんな……こんなに沢山……」
「オイオイ、聞いてた話とちげえぞ!……クソッ!」
ニンジャゴースト達は誰彼構わず目に映る人間を襲う!
ただの人間ではニンジャ……ましてはゴーストとなった彼らに抵抗することは不可能!
「助けてくれ!」
「死にたくない!」
そんな声が闇夜にこだまする。
「仕方ねぇ!おい、シズハ!お前はみんなを逃がせ!」
「わかった!けどこの数、貴女一人では……」
そう言いながらも静葉は人々を逃す為走り出す。
その後ろ姿に語りかけるようにクレアは呟く。
「へ!こちとら除霊が仕事なんだよ!」
啖呵を切ったクレアは背負っていたバックから十字架を模した除霊道具を取り出しエンジンを回す。
「さぁ、おやすみの時間だぜゴースト共!」
大剣が如くチェーンソーを勢いよく振るう。
その華奢な腕からは想像できないほど身軽にかつ豪快にゴーストを切り刻む!
「あぁ?」
瞬間クレアは違和感を感じる。
これまで何度も除霊を完了してきた彼女にしか感じ取れないような違和感。
「……成る程な」
何かに納得したのか彼女はゴーストを切り刻みながらある一点を目指して走り出した。
「大丈夫ですか⁉︎」
静葉は道端に倒れ込む男を助ける為近づく。
彼女のニンジャとして受け継いだ技術と身体能力を駆使した迅速な避難誘導により殆どの人間は避難できていた。
残るはこの男のみだ。
「ああ、すまない……さっきのニンジャゴーストに足をやられてね……」
男はそう呟く。
瞬間、静葉は違和感を感じた。
が、遅かった!
男の後ろより現れたのはニンジャゴーストだ!
「……父さん?」
ああ、何と言うことだ!
そのニンジャゴーストは紛れもなく静葉の父日本裏社会に潜み恐れられた伝説、神手一郎であった!
その恐るべき死の一撃が実の娘である静葉を襲おうとしている!
だが!
「そんなバッドな話はアタシの趣味じゃねぇんだ」
一郎ニンジャゴーストの頭上、その遥か上のビルより十字架のチェーンソーと共にクレアが落ちてくる!
虚を突かれた一郎ニンジャゴーストは真っ二つになり粒子となって消えた。
「クレア……」
「おいおいどうした?しけたツラしやがって?」
「私は父に怨まれていたんでしょうか……」
覇気のない声で静葉が呟く。
「あの霊は間違いなく父でした。私は……」
その言葉を遮るようにクレアが叫ぶ!
「んな訳ねえだろが!アタシはアイツが逝く前に確かに聞いたぜ、『止めてくれてありがとう』ってな!他のニンジャゴースト達もだ!アイツらは怨みや怒りで人を襲ったんじゃねえ!」
言い終えるとクレアはチェーンソーを静葉が助けようとしていた男にむける。
「オメェが操ってたんだよなぁ!クソ野郎!」
そう言われた男はその口角を醜く歪め嗤う。
「ははは!バレましたか、しかし!我が神の力を持ってすれば死者の魂など何度でも使い潰せるのですよ!」
そう言い放つと男は何かを唱え始める。
全ての生命を嘲笑い冒涜するかの如き呪詛を。
しかし……
「あぇ?」
男の視界が十字に割れる。
消えゆく視界には先程まで膝をついていたはずの少女が写っていた。
「……マジかよ」
クレアの口からそんな言葉が漏れる。
クレア本人も完全に見えたわけではないが、男を殺したのは静葉だ。
そしてその頬には真っ赤な涙が流れていた。
「クレアさん、父を……祖先の魂を救ってくれてありがとうございました」
静葉は顔を向けずにそう告げる。
「まぁ、それが仕事だからな」
「お礼は後日にさせてください。今はとても貴女に見せられるような顔ではないのです」
「……わかったよ」
返答と共に静葉は風が如く消えていた。
残ったのは四分割された男の頭と首から上を失った胴体だけだ。
「ニンジャって怖えな……」
そんなことを呟いてクレアは帰路についた
ー後日 教会
「って事で金くれ」
「は?」
クレアの何気ない一言に静葉は困惑した。
「いや金だよ金、仕事代」
「え……お金取るんですか⁉︎」
「ウチらはな!」
「普通こう言うのってお金は……」
「そりゃウチらは除霊専門って……もしかしてちゃんと調べないで来やがったな?」
空気が一気に変わる。
「その、私まだ学生で……両親も親族ももういないし……」
「そりゃ大変だ。だが、それとこれとは話が別だよなぁ?」
クレアはニタニタと笑う。
「そっ、そもそも!貴女達本当にちゃんとしたシスターと神父なんですか!昨日はそれどころじゃなかったから流しましたけどチェーンソー振り回すシスターとか意味わからないんですけど!」
静葉が叫ぶが、クレアは知ったこっちゃないと言わんばかりに言い返す。
「アタシらは除霊専門の雇われなんだよ!まぁ、払えないんだったら体で払ってもらうしかないよなぁ?」
そう言うとクレアは静葉に歩み寄る。
「なんなんですか!警察!警察呼びますよ!」
その声は虚しく青い空にこだまする。
その日から教会には金髪のヤンキーシスターと黒人の巨大ゴリラ神父の他に可愛らしい正統派シスターの格好をした雑用係が一人増えた。
新人のおかげか知らないが教会に来る人間は増えたようだ。




