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混沌怪奇譚 夢幻に生きる者たちよ  作者: ラット
蒼葉アキルは静かな明日が欲しい
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神域の画家I

 退院して早数週間、未だ状況に進展はなく、あいも変わらず『赤スーツの女』の行方は掴めていない。

 それに、姉さんのことが気になる。

 私が退院する前にメアリーから聞いたのだが、事件の後から姉さんは時折音楽が聞こえるのだと言う。

 儀式の際の後遺症かと思ったが、音楽が聞こえる以外の被害は今のところないらしい。

 何もなければいいのだが……

 問題は増えていくばかりで元凶たる『赤スーツの女』について掴めないまま数ヶ月が過ぎた頃、事態は一変した。

 その始まりはある日、姉さんが連れてきた大学の後輩『無神ニア』さんの一言だ。


「私、その人のこと知ってます! よく画材を売ってくれるので!」


 その一言を聞いたときは椅子から転げ落ちそうになった。

 今までどんな情報網にも引っかからなかった『赤スーツの女』を知っているばかりかよく画材を買っているだと? 

 とにかく詳しく話を聞いた。

 彼女曰く、『赤スーツの女』は幻夢街の一角に店を構えており、そこで商売をしているのだと言う。

『赤スーツの女』以外にも高校生くらいの女の子が一緒に働いているらしい。

 予想外すぎる情報に理解が追いつかなくなる。

 とにかく、これで奴の所在はわかった。

 問題はそれが罠である可能性だ。

 今まで『赤スーツの女』が力を貸した人物たちはどちらかと言えば『赤スーツの女』とは別口ながらそれぞれ悪事を働いていた。

 なんなら大学生連中に至っては儀式で姉さんを生贄にさらなる上位の存在を呼び出そうとしていた。

 となれば、今回情報をくれた無神ニアも怪しむには十分なわけだ。


「ところで、ニアさんは『赤スーツの女』からよく画材を買うとのことですが、何か絵を描いていらっしゃるんですか?」


「ええ、まぁ、夢とかで見たものをちょっと」


「夢で見たもの、と言いますと?」


「いやぁ、なんて言えばいいんですかねぇ……実物を見てもらった方が分かりやすいんですが……もし、お時間が大丈夫そうでしたら今から私の家にきませんか? そこでお見せしますよ」


「ええそうですか、でしたらもう一人連れて行ってもいいでしょうか?」


「構いませんよ、えへへ、自分の絵を見てもらうだけなのになんか緊張しちゃうなぁ!」


 恥ずかしそうにニアさんはそう呟く。

 一体彼女の言っていることのうち何割が真実かわからない。

 ならば、取れる手段は全てとる。

 ケイトに連絡を入れ隠せるだけの装備と〈ヘルメス・トリスメギストスの毒塵(どくじん)〉を配合させた弾丸を持たせる。

 もし戦闘になっても、これで少しは持つだろう。

 さらに、屋敷の他のメンバーたちにも連絡を入れていく。

 ニアさんの家までの尾行と、何かあった際はすぐに応援に駆けつけてもらうためだ。

 そうして全ての準備が終わった段階で再びニアさんに話しかける。


「では、一緒に行くケイトの準備が終わりましたら出立しましょう。それまでしばらくお待ちください」


「分かりましたー」


 ニアさんは至って自然にそう返す。

 彼女が黒か白かわからない以上私たちは取れる中でも最善の手で動かなくてはならないし、それを感づかれるわけにはいかない。

 そう、至って自然にことを運ぶしかない。

 もしここで彼女を逃したら最悪『赤スーツの女』に逃げられる可能性だってある。

 ならば、彼女の家で起こること次第では私は彼女を……


「準備できたわよー」


 ケイトの声が屋敷に響く。


「あぁ、そう、わかったわ。ではニアさん道案内はよろしくお願いしますね」


「はい、お任せくださいな」


「アキルちゃん、ニアちゃん、悪いけど私はちょっとパスするわ。なんだかちょっと疲れちゃって」


 姉さんは不意にそう答える。


「そう、じゃあ私の部屋で休んでて、最近忙しかったんでしょう?」


「そうですね、冬香先輩は人気のピアニストですもんね! 最近は他の楽器も自由自在に奏でる、正に天才音楽家ですよ!」


「ええ、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」


 そう言って姉さんは私の部屋へと向かった。

 正直、好都合だ、戦闘になる可能性もあるんだ、姉さんを巻き込まなくて済むのは私としてもいいことだ。


「じゃあ、案内しますねー」


 ニアさんは快活な声でそう言う。

 さて、何が待っているものか。

 とにかく油断はもうしない。

 今度こそ必ず『赤スーツの女』を捕まえるためにも。

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