5話 回想戦
さてと……。
このあと、指揮官殿や整備班に色々と言われることは目に見えているので、戦闘データだけはまとめておかないと。じゃないと夜通し説教されるだろうからなぁ。
あの後の戦闘は次のような感じだった。
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「アンカー格納、各部関節の解放を確認……遠隔戦闘用マニュピレーターを近接戦闘用ブレードに換装、高機動戦闘形態に移行せよ……各部対消滅電池の安定を確認、に、っと――17320号、行きますよ!?」
「アイサー……こちらも補助マニュピレータを展開済みだ。いつでもいけますぜ、カシマ23号!」
「では、跳びます!」
その瞬間、俺達の乗るキャリバーはバッタの如く跳んで空中に在った。
上空200mから地上を見下ろし、一番近くに堕ちた巨大月光獣の破片――すでに小型の月光獣が生まれようとしている――を確認するや、俺は黒木刀を強く握り魔法を発動する準備をする。
「丙四号兵装を展開する、衝撃に備えてください」
「了解、そのまま突撃しますので17320号も……ええい、面倒臭い! 兄さんも衝撃に備えてください」
「おいおい……っ、まぁいいか。丙四号兵装『超風』、発動!」
俺の声を拾った電子頭脳が補助マニュピレータに風魔法を発現させると同時に、キャリバーへ急激な推力を与え、水中へ飛び込みをする水泳選手のような態勢となって月光獣へ突貫する。
無論、その腕の先端に付いているのは精密作業用のマニュピレータから変換された超振動ブレードだ。動き出そうとしていた小型月光獣を貫き抉って大穴を開けた。
でもって、地面に激突する寸前で再び『超風』を発動させ、ついでに態勢も整えさせて無事に着地する。次に機体制御をやったのはカシマ23号で、振り返りざまに両腕の超振動ブレードを振るって月光獣を十文字に斬り裂いた。
亀のような体に蛇のような長い首を4つも在るという、この星では見られない生命体は、緑色の体液と内臓をぶちまけて果る。
「きょうも……キレてんなぁ」
「? 何か言いましたか?」
「いいや……またあの整備士双子に嫌味を言われそうだなって思っただけさ。アイツら、もう緑に塗装してやるぅ! とか、言いそうじゃないか?」
「それが彼、彼女の仕事でしょう。変な事を言っていないで、次行きますよ。いつものように、こっちに向かって来てくれているみたいです。やっぱり闘争心だけは凄いですね」
月光獣特有の信号を拾うレーダーを見れば、近くに落ちた破片から転じた小型月光獣の数匹が此方に向かっているようだった。他にも小型月光獣に転じたヤツはいるが、緊急用無線の16チャンネルから聞こえて来る怒号を聞くに、他の部隊の連中がきっちり対応しているようだ。
特機である複座型に乗っている身としては、連中以上に活躍しないと後で何を言われるか分からない。他の部隊の連中も、指揮官殿も、もうちょっと協力できれば損耗率も下がるだろうに……なんて、益体も無いことを考えていると、次の小型月光獣が姿を顕した。
やはり亀の体に蛇のような首が複数ついており、移動はその首を器用に操って這いずって来る。
その悍ましさは筆舌に足りない。初めて見た時は脳味噌が理解を放棄したくらいだし、同じように新兵のうちの何割かは何もできず撃破されるなんて事が実際に在る。
だが……特殊な生まれ、特殊な訓練をしているカシマシリーズは別だ。特に最高傑作と呼ばれている23号は何の気負いもなく、月光獣を『処理』する。自ら望んで就いた職ではないが、コイツと一緒に複座型キャリバーに乗れた事は幸いだったとずっと思い続けている。
今だって、俺が魔法を使おうと思う前に、流れるようにキャリバーを操って小型月光獣を斬る。
いくら命装具と電子頭脳により、キャリバーの操縦がほとんど意志するように動くといっても、伝達速度のズレ&ラグ、質量が異なる事による慣性のギャップがあるはずなんだが……正直、俺の目には達人の動きとなんら変わらないように見える。
腕どころか、キャリバーの脚にも高振動ブレードを展開して月光獣を切り裂く様は、まさしく阿修羅と言っていいだろう。
「まったく、出来る弟を持って俺は幸せ者だよ」
「僕だって兄さんが一緒に乗ってくれて本当に有難く思いますよ、魔法による姿勢制御……僕に追い付いて来れる人は兄さん以外には誰も居ませんでしたから」
「俺は魔法の風で反動を抑えているだけなんだけどな」
「謙遜にもほどがあります、よっと!」
伸ばしてきた首を避けつつ、脚で蹴り上げて蛇首を斬り飛ばす。
ちょうどコレで亀の本体だけとなったので、機体を横にして独楽のように回転させて連続で切り裂き、両断した。
それを成したキャリバーに乗っている身として、その回転の影響をもろに受けたら乗り物酔いはもちろんの事、かかるGで間違いなく気絶しているだろう。だが、コイツにはある程度内部の慣性を緩衝するシステムまで搭載されていて多少の揺れしか来ない。アレだ……コックピットと機体の関係が、ジャイロコンパス、または、流体トランスミッションの構造に近いと思ってくれたらよい。
「さて、どんどん行きますよ、兄さんの消耗率はどれくらいですか? まだ、僕について来てくれますか?」
「舐めんじゃないっていっただろ? 今日は仕事が終わるまで付き合うよ。俺の事は気にせずに思いっきりやればいい」
「……いいなぁ、やっぱり凄くいいよ。じゃあ、遠慮なく行くから……ちゃんとついて来てね!」
「あいあいさー……頑張りましょう」
振り返ったカシマ23号の瞳の中に危険な色が見えて、こりゃあもう止められないなと悟った。
しかしまあ、ケツ持ちは年上の仕事だし、寿命を削る事になるが……命の短いクローンである若いコイツより、先に死ねるなら……本望かもな。
前面のモニターには、もう次の月光獣が映っていた。さ、舞踏の続きと行こうじゃないか。
俺達は意識を一つにシテ、新たな月光獣へ飛びかかって行った。




