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17話 誘い


 結論から言ってしまえば、俺は処刑とはならなかった。


 命令無視は結構な重罪なのだが、俺達の行動によって多くのキャリバーを失わずに済んだのは事実であり、また、搭乗者の命も救われた。そしてなによりも巨大月光獣の遺骸がそっくりそのまま残ったというのが大きかったらしい。下士官の俺達には預かり知らぬ事であるが、月光獣の遺骸は貴重な資材になるそうで、それが通常の何十倍も残ったとなれば、お偉いさん達からすると、棚からぼたもちという状況であるらしい。


 無論、直属の上司であるエミリア指揮官からはしこたま怒られた。だが、同時に感謝もされた。クローンとはいえ、カシマシリーズは一人一人に命があるのだ。医者先生夫妻、食堂のアルベルト、そして双子の整備士からは躊躇ない称賛を浴びせてくれた。


 ただ、生き残ったカシマシリーズの皆は複雑な心境のようだった。覚悟を汚された……そう感じるヤツも居るようで、一悶着起こりそうになったが、カシマ23号が取り直してくれた。今こうして、怒る事ができるのは誰のおかげであるのかと。色々と思う所はあったが、ヤツがそれを言ってくれただけで救われた気になれた。


 とにかく、あの時俺が取った行動とそれに付随する状況を簡単に述べると以上になる。


 一番の問題は、だ。


 最近、甲種魔法を限界出力で使い続けた事であり、それによって俺の体がどれほど魔法のフィードバックに蝕まれたかである。医者夫婦に相談したところ、それを調べる為に精密検査を行う事になった。結果として体の衰退症状の進行は見られなかった。しかし、あまりいい顔はされず、甲種魔法の使用を抑えなければ確実に寿命を削ると診断されてしまった。


 つまり――いつもの事である。

 

 なんだか変に調子が良くて勘違いしそうになるが、魔法を使えば使うほど寿命が削られる。それは何も変わらない。薬が無ければ食事は血の味がするし、体力は大きく持っていかれるのだ。


 だから、俺がいつかいなくなることを見越して対策を進めるようにエミリア指揮官に進言しておいた。


 なら、もう今回みたいな命令違反するなと釘を刺されたが…………犠牲を前提とした作戦なんて絶対に間違っている。あの作戦を考えたヤツについては今からでもぶん殴ってやりたいくらい腹を立てている。


 監査で何を言われたか知らないが、焦ってトチ狂う馬鹿が上層部に居るとなると不安だ。現場で命を張るニンゲンとしては排除したくなるのだ。



 そんな感じで現在、今回の件についてのあれやこれやについて、俺はエミリア指揮官と密談を行っていた。



「物騒な事を言うな。魔法無しで巨大月光獣に対抗しようとなると、今の状況ではアレしかなかった。嫌な話だが、自爆装置の使用も承知の上でカシマシリーズはキャリバーに乗っている。任務の為に命を懸けるのは軍務に就く者の義務でもある」

「しかし、最初から命を捨てる前提での任務なんて俺の信念が許しませんよ。次も同じような事があれば――」

「その先は言うな。あと三か月……三か月あれば必要な人員と機材を揃えてみせる。それまでの期間で自分に何が出来るかを考えておくんだ」

「三か月凌げば、俺が魔法を使わずとも何とか出来る状況になるという事ですか! ……でしたら、」

「そう結論を急ぐな。お前とその周囲の者たちには、その戦闘技能を見込んで『月』へ行ってもらおうという話が持ち上がっているんだ。それまでに死んでもらったら困るんだ」



 ……なんだか妙な言葉を聞いたような気がする。月? 月って空に浮かぶアレだよな。そこへ、何を、一下士官である俺が……なにをしに?



「貴様の驚いた顔は面白いな。簡単な話、偵察だよ。月光獣、そして前回のような巨大月光獣を生み出している場所がどのようなところであるのかを確認し、可能であれば破壊する、その強行偵察任務が内定されている。今はまだ詳しくは話せないがな、その要となるのが唯一魔法を使える貴様、17320号というわけだ。無論、その相方であるフミ君や私も付いていく事になるが…………」



 そこから先の話はあまり耳に入らなかった。


 今はまだどうやって行くか分からないが、一生縁がないと思っていた場所――宇宙へ行ける。その事実に身体が高揚して何も聞こえなくなったと言う方が正しいか。


 どくんどくんという心拍数が体の奥底から聞こえ、耳の奥ではざあざあという血流が流れる音が聞こえる。


 宇宙、そう、宇宙……そこへ行けるんだと言う事実が全てを吹き飛ばしていた。死ぬまで月光獣と戦い、朽ち果てる。そんな人生を予見していた俺にとって、まさしく僥倖といっていい話だった。



「おい、聞いているのか17320号、きゃっ!?」



 だから、思わず前に居た美人の上官に抱き着いてしまったことは、許して頂きたい。後で幾らでも殴られるから。


取り敢えず、邂逅編の一章はここまでとします。

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