16話 暴走
良い機会なので、出撃の準備が出来るまでにキャリバーの武装について話しておこうと思う。
グレート・リバース以後の、銃や砲弾、爆弾などの火器類が使用できない状況下において、キャリバーには次のような基本武装が持たされている。
・魔獣や月光獣の肉を抉ることを目的に、腕や足に仕込んだ『超振動ブレード』
・動きを止めるための、チタン合金製の有刺ワイヤーで編んだ『ブレードネット』
・体内に潜り込ませて核を確実に砕くための『高速回転スピア』
以上の三つがキャリバーの基本装備である。なお、俺達が搭乗する複座型キャリバー(忌々しいことにEXキャリバーという正式名称が与えられた)は、スピアの代わりに補助マニュピレーターを搭載しており、主マニュピレーター以外にもそこから魔法を放てるようになっている。
あと、コレは武器と言って良いか分からないが、魔獣共に取り付かれて喰われそうになった状況を鑑みて、自決用の自爆装置を積んでいたりもするが、ここ数年は使用された記録がないと教導教官から聞いた覚えがある。
俺の所為(?)で、小型月光獣との戦闘に慣れてしまった他のキャリバー搭乗者が、どんな戦術であの巨大なままの月光獣に対抗するのかは分からない……事実、先日の戦闘では足止めするのが精一杯だったワケで、いつでも魔法で援護に入る事が出来るように準備しておかなければならないだろう。
「17320号、こちらの準備は整いました。出撃に問題ありません」
「了解、こちらの魔法管制も整った。指示があり次第、いつでいける!」
そんな事を考えている内にEXキャリバーが、そして他の単座型キャリバーについても発進準備が整ったようである。各坐した状態からゆっくりと立ち上がり、対消滅電池の超電磁力によって浮かび上がる。(無論、整備兵は退避済みだ)
そして、基地の発進ゲートが開くと共に、次々とキャリバーが発進して行く。なお、先ほど命令があったように俺達の出撃は一番最後――それも指示があるまで待機である。
彼らだけで対処できれば御の字。
でなければ魔法を行使しなければならないが……幸いなことに仮初の命装具である黒木刀からは刺々しかった感触を感じる事はなく、掴むことに苦痛を感じていた以前に比べてとてもありがたい。もしかしたら今回も寿命を削らずに魔法を行使できるかも。
そんな希望的観測を抱きながら、軌道衛星から送られてくる超望遠映像を全周囲モニターの一部に映し出す。
月の裏側から射出された月光獣は、幸いなことに前回のような超巨大サイズではなく、いつもの大きさだった。本来であれば今のこの状況でヤツを狙撃しているところであるが、待機命令が出ているので動けない。
そんなワケで、俺の魔法射撃を受けなかった月光獣は、特に破損することなく特別区域に降り立った。
改めて見ると……大きい。
この前に降り立ったヤツとほぼ同じ大きさで、モニターに映る彼らを例えるなら、月光獣が2m級のリクガメに対し、その周りに展開するキャリバーは1/144スケールのプラモデルにしか見えない。正直に言ってこのサイズ比で対抗しようなんて無茶を通り越して無謀に思える。
俺達のEXキャリバー抜きでどのように対処するつもりなのか? 俺達の魔法ナシで戦っていた時はどんな戦術を使っていたんだっけ……アーカイブには残っていないようだ。
「GVOOOUUUUU……!!」
巨大月光獣の咆哮がこの基地まで届き、戦慄する。
だが、ヤツの周囲に展開するキャリバーも負けていない。次々にブレードネットが発射されて動きを封じていく。そして封じた箇所に高回転式スピアを突き刺して、月光獣に緑色の体液を流させている。
これは……小型月光獣と相対するときの戦術と同じか。
先ずは動きを封じて、そこに最大戦力をぶちかます。同じスケールの敵なら有効な戦術ではあるが、しかし、相手はキャリバーの何十倍もの体積を持つ巨大月光獣である。傷をつける事は出来るが、それが致命傷に届くかというと全く足りていない。
逆に怒りっ狂った月光獣がブレードネットを引きちぎり、体液を流しつつもキャリバーに迫るその迫力に息が詰まりそうになる。現にマニュピレータを吹き飛ばされたキャリバーがあり、あわやという状況で仲間のキャリバーに抱えられて後退する様には肝が冷えた。
もう、ここいらで俺達の出番としても良いのではと思うが、管制室からは何の反応もない。まだ、待機していろと言うことなのだろうが、実にキビシイ思いをさせられている。それはカシマ23号も同じなのだろう。エミリア指揮官に直接回線を開いて戦闘許可を求めているようだが、待機の一点張りのようである。
まだ、何か打つ手があるのだろうか?
そう思ってモニターを見ていると、キャリバーが月光獣を包囲する円形陣形から、月光獣に向かって突撃でもするかのような三角形の陣形となった。
ま、まさか……それは駄目だろう!
それを見た俺は待機命令を無視してEXキャリバーを発進させた。
「兄さん!? 待機命令は……」
「馬鹿野郎! アレを見ろっ、アイツら死ぬ気だぞ!!」
ブレードネット、回転式スピア。それ以外に積まれている武装は腕や足に搭載された高振動ブレードしかない。そして最後の手段として搭載された自爆装置。
先ほど通じなかった武装から鑑みるに、残された戦術は自身を武器とした特攻だろう。一応、脱出装置なるものもキャリバーには搭載されているが、高周波ブレードで深く切り込んだ状態で脱出装置が働くかどうかは賭けになる。そして、次々に自爆するであろう状況では脱出できたとしても…………なんて事をさせやがるんだ、上層部の馬鹿共はっ!!
管制室と繋がったモニターからはエミリア指揮官が何やらえらく喚いているが、知った事ではない。後で命令違反で処刑されようが、俺一人の命と、アイツら十数人の命じゃ、比べるまでもない。
魔法を使い、全速力で飛んだEXキャリバーは、彼らが突撃を開始する寸前で間に合ったようだ。
「わりぃな、カシマ23号。俺の都合に付き合わせちまって」
「……怒りますよ、兄さん。相棒が命を懸けると言うのにそのサポートが出来ずになにが相棒ですか。アンカー射出、機体ロック完了です。いつでもどうぞ」
「ありがとな……目標、巨大月光獣。甲3号兵装発動、隆起しやがれ『フジヤマ』!!」
EXキャリバーの両腕から放たれたオレンジ色の光は、巨大月光獣の下に突き刺ささると、ものすごく巨大な土杭を隆起させ、呆気に取られるキャリバーの連中の前で、巨大月光獣を下から上に串刺しにした。




