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15話 監査


 唐突であるが、俺達が配置されている防衛基地と特別区域について話をさせて貰おう。


 いずれも月の裏側から飛来する月光獣や、魔獣の森から出て来る魔獣に対処するためのモノであり、特に俺の所属する基地や区域は月光獣対策として設置されている。


 月光獣は空に白い月が浮かぶ時期、それも半月以上の時に飛来する。出て来る場所や飛来する時間はほぼ同じで、先日のようなイレギュラーが無い場合は大きさもほぼ同じ……という事は、落ちて来る場所も大きく変わらない。


 その月光獣が落ちて来る場所を対月光獣の特別区域と呼んでおり、直径50kmほどの円型の荒野となっている。その内部には複数の基地があり、そして外周には高さ40mほどの防壁がずっと設置されていて、区外との最終防衛ラインを兼ねている。これの外側には20mほどの水堀が設置されており、その水堀の先は市街地となっているのだ。


 魔獣の森も、森を中心として同じような防壁と水堀に囲まれており、ヒトの住む場所に被害を出さないように内部に設置された基地と管制官が目を光らせている。



 ――それで何が言いたいかと言うとだ。


 先日の巨大月光獣……何とか駆除は出来たものの、俺の魔法に頼り過ぎではないかという意見がこの国の偉いさんから出て、防衛能力に問題ないか監査を受ける羽目になったのだ。


 まあ、当然と言えば当然ではある。


 飛来しそうになった超巨大月光獣を割砕いたのも、最終的に止めを刺したのも……通常飛来する月光獣を割砕いて小さくすることさえも俺の魔法に頼っているのだ。でもって、それを成した俺は毎回ほぼ死に体となっている。


 次に超巨大月光獣が飛来したら特別区域内に留める事が出来ず、市街地に被害が出るかもしれない。それを防ぐことが出来るかの現状確認――それが今回の監査なのであった。


 正直なところ、今の防衛力は『歪』といって差し支えないだろう。


 一個人の技量や健康状態によって戦況が大きく変わるとか、放置して良い状況ではない。数年前に行った俺の魔法狙撃が偶々上手く行って以来、そこへ予算やらキャリバーの損耗率やらが絡むようになって複雑化&常態化してしまった。


 一因は俺にあるかもだが、今の状況を決めたのは基地のお偉いさん方である。是非とも今回の監査で肝を冷やして頂きたい(因みに監査を受けるのは基地の上層部のみである)。


 そんなわけで、俺とカシマ23号は監査の間はお役目御免――とはならず、いつもと変わらず、複座型キャリバーの中で月光獣に備えて待機という事になっていた。


 聞く事があったらモニターで呼び出すとかエミリア指揮官は言っていたが……。



「これでちょっとは俺らの待遇が良くなったらいいんだけどな……」

「どうでしょうねぇ……キャリバーは金食い虫らしいですし、変わるにしても結構な時間が必要だと思いますが」

「……こないだ俺って死ぬ寸前まで行ったんだケドなぁ」

「二回目のアレが不味かったんじゃないですかね。本当に何だったんですか、アレ」

「報告書にも書いたが、コイツ――命装具の気まぐれだよ。それ以外に考えられることはない。調査依頼を出しといたから、コレへの搭乗待機命令もそのうち解けるかもな」

「休暇になっても別にやる事はありませんし、僕としては待機のままの方がいいんですが」

「お前ねぇ……ちっとは人間ぽくなったと思ってたんだが……エミリア指揮官とアレな事やコレな事や、やろうと思えば出来るこたぁ、いくらでもあるだろうに」

「……嫌ですよ! 最近、本当にセクハラじみて来ているんですから……思い出しただけで鳥肌が立ちます!」

「えっ、そんなにヤベェの? 美人のお姉様に手取り足取り性の手ほどきされるってのは、大抵の男が夢想するシチュエーションなんだけどなぁ……なに、耳の中に舌を突っ込んでくるとか?」

「そんなのは序の口です! 最近は僕の全ての穴を舐め尽くさんとばかりに襲って来て……ちょっと女性恐怖症になり掛けかもしれません」

「うっへぇ、俺の想像を軽く超えて来る変態だったか……そっかぁ、今までからかって悪かったな。今度から遠慮なく助けを呼べよ。行き過ぎた馬鹿は殴って矯正してやるしかないから」

「是非、お願いします!」

 


 と、こんなバカ話をするくらいには暇である。


 男二人が揃ったら、大体が猥談することになるのだが……カシマ23号とエミリア指揮官の関係は健全ではないらしいし、正式な命装具を持たない俺は、女の箸にも棒にも引っかからないからそれ系の話自体が無い。


 結果として、月光獣が出てくるまで益体も無い話を延々と続けることで暇を潰すことになっている。



 ただ、その暇つぶしも漸く終わりそうである。軌道衛星からのデータリンク送信が届き、いつもの大きさの月光獣が月の裏側から射出されたとの連絡がもたらされた。


 いつもの慣れた手順で、超電導コンデンサに溜めた莫大な電力を用い対消滅電池に灯を点ける。灯って行く各部の動力パネルをチェックしていくと管制室からの通信が開いた。


 無論エミリア指揮官であるが、様子が何処か違っていた。



「EXキャリバーは第一種戦闘準備状態でその場にて待機せよ。月光獣と他のキャリバー戦闘状況を見極めた上で戦闘に介入するか否か追って指示する。いいな? お前達は別命あるまでその場で待機だ」

『了解しました』

 


 カシマ23号と俺の返事を確認した後、管制室からの通信は閉じた。


 

「……どうやら監査で一悶着あったらしいな」

「そのようですね、面倒な事になりそうです。現状では、結局は兄さんの力に頼るしかないでしょうに」



 俺はカシマ23号と同じくして溜息を吐きながら、火が灯ったキャリバーの各部チェックを済ませていく事にした。


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