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13話 蹂躙


 唐突であるが、キャリバーの移動方法について伝えておこうと思う。


 キャリバーは四肢の付いた八頭身のヒト型機動兵器であるが、内蔵している対消滅電池と超電導コンデンサによって発生した莫大な電力とその荷電トルクによって浮揚することができる。また、荷電トルクの調整により、浮遊したまま移動ができるのだ。故に現場まで二足歩行で走っていくのではなく、気を付けの姿勢で飛んで行くのがいつもの事なのである。


 ただし、俺達が搭乗する複座型キャリバーは魔法を行使出来るので、急いでいるときは4号兵装(風の魔法)による反動を用いて現地まで急行する事がある。例えば以前に報告書で記載した『超風』なんて、移動にも戦闘にもよく使用する魔法だったりする。


 まあ、なにが言いたいのかと言うと……現状、俺達の搭乗した複座型キャリバーは、丙4号兵装『超風』を用いて飛んでいた。それも従来の何倍ものスピードで。



「ちょっと、兄さん!? なんですかこの速度は! 機体からミシミシって変な音が……アラートだって出てますよ!?」

「おおお、俺だって分からん! いつもの『超風』を使っただけだってのに体の中から、いや、外からか? 力が注入されている感じで制御が……な、なんじゃこりゃあ!?」

「と、とりあえず、一旦止めてくださいっ! このまま突っ込んだら機体がバラバラになります!」

「了解だ!」



 俺は慌てて魔法の行使を止めた。しかし、慣性の法則により機体がいきなりその場に留まるという事はない。ほぼ同じ速度で空中を滑って行くキャリバーを止めるべく、ほんのわずかな力を込めて前方に『超風』を放った。


 がっくんがっくんとキャリバーが揺れ動き、100mほど進んでから停止する。


 魔法を使っていた時間は10秒にも満たなかったハズであるが、驚くべきことに件の巨大月光獣まで500mの距離に達していた。


 特別区域と区外とを仕切るために構築された隔離防壁に巨大な亀が取り付き、亀が防壁を乗り越えようとするのを、周りに展開した単座型キャリバーが攻撃仕掛け、何とか止めようとしている。


 スケール的にこの場から見れば――リクガメに1/144のプラモデルが戦いを挑んでいるようにしか見えず、あれでよく3日も耐えきれたものだと感心した。



「すげぇな、カシマ23号。あんなのと真正面から戦ってよくも無事だったもんだ」

「……そうですね、ブレードネットを含む全ての特殊兵装を使った上、全てのキャリバーが入れ代わり立ち代わりで何とか区外に出る事を防いでいましたが……そろそろ限界のようです」



 確かに見れば、銀色に輝く網が巨大月光獣の全身を包み、至る場所から緑色の体液を流しているが、かなりの範囲でほつれが発生しており、破られるのは時間の問題のようだった。



「本当にギリギリのタイミングだったワケだ……ブレードネットが全て引きちぎられる前に魔法を使う。乙3号兵装で串刺しにして、至近距離――いや、体内に甲1号兵装をぶちこんでやる。機体操作、よろしく頼むぞ」

「……兄さん、本当に体の方は……」

「ああ、大丈夫だ。さっきからなんだか滅茶苦茶調子がいいんだ」



 一度、死にかけるまで魔法を使った所為か、外気功とやらに目覚めてしまったのか? 正直、魔法を使って疲れるどころか逆に力が溢れて来る感覚はそうとしか思えない。これが恒久的なものか一時的なモノかは分からないが、目の前のアレを潰すには都合が良い。



「エミリア指揮官、聞こえますか? 複座型キャリバー、現場に到着しました。これから魔法を使うので他の戦闘員に退避するよう伝えてください」

「! 早かったな、いや、了解した。これから30秒後に一斉退避するように伝える。その時間に合わせて魔法を叩き込め、出来るな!?」

『アイアム、マム!』



 カシマ23号が機体を操り、巨大月光獣に接敵する。


 まるで山のような巨体に見たこともないような太い首は、怪獣と言って差し支えないだろう。あんな化け物に俺の魔法が通じるのか……?


 一瞬だけ浮かんだ疑問は、握る黒木刀から流れ込むエネルギーに打ち消された。これだけ強烈にバックアップを受けて失敗するなんて……あり得ない!!

 

 巨大月光獣まで約100mまで近づいたところで複座型キャリバーが地表に向けてアンカーを射出する。同時に巨大月光獣に取り付いていた単座型キャリバーが全て散開した。



「乙3号兵装起動、『土龍杭』発射っ!!」



 突き出した2本の腕、そして補助マニュピレーターを含む計4本の腕から直径10m、長さ20m(!)の土杭が発射され、巨大月光獣を串刺しにした。


 悲痛な叫びをあげる巨大月光獣は、漸く俺達の存在に気付いたようだ。その馬鹿デカい首を反らして噛みつこうと大口を開けて迫る。


 阿保かコイツは、わざわざ急所を曝け出して……いささか都合が良すぎるが、逃す手はないな。



「兄さん!」

「ああ、コレで終わりにしてやる! 甲1号兵装起動、『無限炎獄インフィニティヘヴン』……燃え尽きろッ!!」



 キャリバーの掌から発射した黄金色の火箭は、それを飲み込もうとした巨大な首を蒸発させながら直進し、その山のような巨体に達するや体を空中に持ち上げ……100mほど上空へ達したところで大爆発を引き起こした。


 その威力の凄まじさたるや、きのこ雲を発生させたほどである。


 そんな威力を恐れたのか、開きっぱなしになっている無線のチャンネルからは『デヴィル……キャリバー……』という誰かのつぶやきが届いた。


 うん、『EXキャリバー』よりよほどいい、そちらの方で名称を申請しようかな。


 緑色の血が降り注ぐ中、そんな呑気な感想を抱きながらも限界に達した俺はブツリと電源が切れるように気絶した。




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