プロローグ -対宙戦-
俺にとっての善意とはヒトと手を取り合って前へ進む意思であり、悪意とはヒトの足を引っ張り後退する意思だ。(「ルー■・ト■■■の朽ちた墓標より)
複座型のコックピット中に、けたたましいアラートが鳴り響く。通常は外の風景を鮮明に映す全周囲モニターであるが、半ば赤く染まっていて非常事態の発生を知らせている。
最初にこの緊急警報を経験した時は心臓が口から飛び出るほど驚いたものだが、何十回と経験した今では驚きよりも煩わしさが勝る。一か月に一回、多いときは一日に一回は鳴り響くのだから、もう少し音も色も抑えて欲しい……と、何度も上伸しているのだがずっと黙殺されている。
コイツを止める方法は一つ。原因である敵性生命体をぶっ殺すことしかないのだ。個人的にはアレと分かり合えたらなと思う事もあるが……連中は問答無用で襲ってくるのだからしょうがない。
そんな益体も無いことを思っていたら、前の座席に座る相棒から声が掛った。
「監視衛星より、月からの飛来物を観測……敵性生命体、特一型のようです。射撃に有効な位置へ移動しますので、17320号は管制官へ迎撃計画と兵装の使用許可を求めてください」
「了解。射撃位置を転送するからそこへ向かってくれ。ついでに迎撃に成功した時の飛散物落下位置予測を、周りの連中にばら撒いて頂けると助かるんだが……」
「兵装使用許可が出た後ならいいですよ。17320号の射撃に失敗はないでしょうから――まずは指定の位置まで移動します」
相棒のカシマ23号が受容器に突き刺した自らの命装具――小太刀の柄を強く握ると、俺達の搭乗しているヒト型兵器『キャリバー』は結構な巨体のハズなのに、慣性の法則を感じさせない動きで跳んだ。
全高10メートル、重量は軽く10トンを超えているというに、山を谷をまるで気にすることなく、障害物競走のノリで突っ走るその機動力には、いつだって驚かされる。しかも搭乗している俺達には全く揺れを感じさせないのだから、正直に言えば多少の気色悪さを感じるくらいだ。
気色悪い技術と言えば、俺が今握っている『命装具』もそうだ。相棒がキャリバーの操縦にアーカイブから与えられた小太刀を用いているのに対し、俺は黒い木刀を握っている。縦に赤、青、黄、緑の幾何学的な筋が刻まれたそれは、キャリバーの操縦用受容体へは突き刺さっておらず、俺の座る座席の下――丸っこくて金属で覆われた何かに突き刺さっている。
その丸っこい物体の下半分がキャリバーに埋まっていて、そこから各々の装置に繋がっているんだろうが、俺の意思一つで多彩な兵装を発射できるその仕組みは、俺の頭には余る。他の連中は問題なく使えるんだからいいじゃんと、言っているが、気色悪くは思わないのだろうか……?
いや、そんな事を考えている時間はなかった。射撃位置に到着するまでに兵装の使用許可を取らないと相棒にも指揮官殿にもどやされる。
俺は黒木刀に通信の意思を込めると、管制官、兼、指揮官のエミリア殿との通信回線を開いた。
「遅い! アラート発生から15秒、何をもたもたやっていた!?」
「申し訳ありません! 兵装の使用許可を願います。観測射撃用に丙2号兵装を、撃滅用兵装として甲2号兵装を申請します。いずれも敵性生命体、特一型に対して有効な兵装であると愚考します!」
「……了解した、申請の兵装使用を許可する。何度も成功しているのだ、今回も外すなよ」
それだけ言って、通信は一方的に切れた。俺の兵装許可申請の遅さに更なる文句を言いたそうにしていたが、作戦前だから自重したのだろう。帰ったら文句の一つも言われるかもしれないが自業自得だ。
それにあの、美人でパツキンで白制服を押し上げるほどのダイナマイトバディで、つり目のメガネ(一番重要)の指揮官に、なじられるのはある意味ご褒美である。
うん、がぜんとやる気が出て来たな。もっとも彼女はショタコンで、相棒のカシマ23号にご執心のようだが……それはソレ、コレはこれだ。
「17320号、指定の射撃位置に到着しました。射撃用にアンカー、および関節部固定を行います。兵装の使用準備よろしくお願いします」
「了解! 環境データ入力よろし……これなら観測射撃は不要だな、一発で決めてやる! 甲2号兵装準備よろし! 射角調整、相対速度、その他纏めてオールオーバー!!」
「ちょっと、にいさっ、17320号! この前もそれやって怒られたでしょう!?」
「だまらっしゃい、俺があんなデカい的を外すかよっ、俺を信じろ!」
「ええっ!? あぁもう……こちらも機体の固定は完了、いつでもどうぞ!」
上空10kmほどにまで迫ったソレは、肉眼では豆粒よりもさらに小さくあるが、キャリバーの望遠レンズで捉えたソレは、大きな亀?のような容貌が見て取れた。大気圏突入の熱で赤く染まり、所々破損しているが、その闘争心は遠く離れたこの場所でも強く感じる。
まったく、俺達の一体何が憎いのか……そっちが殺しに来るのなら、俺達も戦で対応するしかない。
俺は黒い木刀に刻まれている筋の一つ、青いヤツに人差し指を添えると、最大級の戦意を込めた。すると、キャリバーの持ち上がっていた右腕の手の平に白銀の輝きが集まっていく。
気色悪い技術その3は『魔法』だ。
どうあっても『監査官』てヤツはヒトに火器類を持たせたくないらしい。その代わりに与えられたのが、ヒトの寿命を代償に放つ魔法というワケで……俺もあとどれだけの回数出撃できるやら。
ま、そんな事はどうでもいい。今はこの一瞬が全てだ。
「目標、敵性生命体特一型……甲2号兵装――絶対零度、発射!!」
キャリバーの掌から発射された白銀に輝く矢は、遠く上空に在った敵性生命体を射抜き、四散させた。
宇宙から飛散した生命体であろうが、大気圏突入で熱せられた直後に、絶対零度に冷やされたら一溜りもあるまいよ。膨張と伸縮で自壊するしかない……のだ……。
「さすが兄さん、今回も一発で決めるなんて……お疲れ様でした。後はボクに任せてゆっくり休んでください……ああ、もう聞いていませんか」
「…………ッ馬鹿にするな、こんな事もあろうかと、今日は出撃前に腹いっぱい喰っといたんだ。今回、砕けて残った破片は結構な量だ。格闘戦だけじゃキツイだろ、手伝うぜ」
「こんな時は任せてくれた方が嬉しんですが……久々にコンビで戦うのも嬉しくもあります。では行きましょう」
砕けて地上に落ちた欠片から新生するだろう敵性生命体を撃滅すべく、俺達は命装具を強く握り、キャリバーに走るよう意思を念じた。