彼女は誰を殺すのか
目の前に包丁を持った女がいる。
「さて、今から私が殺すのは誰でしょう? あなたが探偵なら分かるわよね?」
どうやら僕が探偵らしい。純粋に考えれば包丁を持って僕の目の前にいるわけだから、殺意があるとするのなら僕に対してだろう。
だが、僕と彼女は初対面だ。殺される理由が分からない。
いや。
「もしかして、僕と君はどこかで会ったことがあるのかい?」
「ええ、あるわ」
「......もしかして、一晩を共にした関係かい?」
「ええ、そうよ」
なるほど。
「つまり、君は僕が好きだったのに容易く捨てられた。だから僕を恨んでる。それも殺したいほど。そういう事かい?」
「......残念、不正解。あなたに探偵は向いてないみたいね。ま、いいわ。座って、料理ができたから」
「お、待ってました!!」
魚の刺身、レバー、卵かけご飯、高そうなワイン、他にも色々。
机いっぱいに並んだ料理を見てふと気になった。
「こんなに食べて大丈夫なのかい?」
「どうして?」
「だって」
僕は彼女の膨らんだお腹に目を移した。
「子供が産まれるんじゃないのかい?」
「......ああ、大丈夫よ。あなたは心配しなくても」
「そうかい? ところで、結局君は誰を殺すつもりだったんだい?」
「あなたとの繋がり、かしら」