モテないから突き抜けれる
大卒して入社して、ようやく俺は悟った。
恋愛経験ゼロの俺は、結局モテないと。
だったら、結果の出ないモテるためにやってることなんて全部やめて、好きに生きようと。
世間の女性の目なんて無視しようと。
多様性? どうせ宗教や文化ばっかりだろう。認められなくていいですよ。勝手にやるので。
「だから痛車でアニソンかけて首都高を爆走して何が悪い」
「わたしを助手席に乗せることだね」
唯一の異性の友達にカミングアウト全開で、ドライブデートをしているのに。
「もう俺は、隠すことをやめたんだ。曝け出すんだ。この萌ぇえええっ!!」
首都高で萌えを叫ぶ。世界の中心で二次元への愛を。
「高校時代から隠す気あったとは全く思えなかったんだけど」
「給食の時間にアニソンをリクエストして何が悪い。あれはまだマイルドな方だろう」
「黒歴史です」
「まぁいい。どうせ現実の女なんてゴミだ。俺はコイツと廃車になるまで一緒に走るぜ」
「それ、ゴミに結局なってない。そして現実の女を前に、ゴミ呼びをしない」
「どうせ、夫死ねノートみたいに、罵詈雑言を裏で言っているくせに。陰口なんてサイテーだ。もっと欲望をさらけ出せよ」
「でさ、いつおろしてくれるの」
「俺がパトカーに捕まったら」
「まぁいいや。わたし寝るから。気が済んだらウチに帰してね」
満足。
とりあえず、ファミレスに到着。
「おーい。着いたぞ」
「……ここをウチにした記憶はないけど。まぁいいや。お腹すいたし」
彼女は女子席から降りる。そして、車を見る。
美少女をまとった俺の女を。
「ダメだ。これは痛い。目立ちすぎでしょ」
「車に愛を注いだ結果だ。後悔はない」
「それで、なんでファミレス?」
「俺の彼女がガソリン代を食いすぎたので、安い店にしました」
「あっそ。どこここ?」
「静岡」
「アホだ。どこまで来てるの。明日も仕事なんだけど」
「これも俺の親が悪いんだ。無理やり唯一の知人を見合い相手にして結婚させようと企む親が」
「いや、だから普通に仮面夫婦でいいって」
「俺は仮面を被らない。仮面を被るキャラはかっこいいという風潮はわかる。けど、俺はもう結婚相手は決めているんだ。二次元嫁と結婚式の会場も選んでいる」
「その絵のイラストはわたしが描いたものなんだけど」
「感謝あざます。彼女を産んでくれてありがとう。もう君は用済みだ」
厨二セリフを残して俺たちはファミレスにゲートインした。
「わたし、一番高いので。単品でいいから」
「おいおい遠慮がないな。一番高いのは……このデラックスパフェいや大食いチャレンジ、ジャンボデラックスパフェEXだな。よし分かった」
「ごめん。やっぱり自分で選ぶ」
「おいおい、そんな、俺は一番高いのでいいのに」
「ステーキ300gとハンバーグとピザとーー」
「おいおい、食べ過ぎは身体に毒だぜよ」
「ストレス解消。ちょっと最近嫌なことがあってね」
「そうか。じゃあ、もう一回首都高に痛車で突っ込むとしよう」
「うん。食後眠くなるようにがんばる」
こうしてドライブデートの夜は更けて行った。
「結婚しないと昇進させないとか理解不能なことを言われたんだが」
「まぁ仕方ないよね。わたしの親の会社にいるから」
「横暴だ。こんな理不尽なことはあっていいはずがない」
「痛車で通勤許している時点で、譲歩してるよ。痛スーツケースもオッケーにしたのに」
「世間の普通から外れて、蘇我のイルカな疎外感」
「理解不能ね」
「もし俺と結婚したら、体中に二次元のタトゥーを入れて、tシャツはもちろん萌えtシャツにしてもらうがいいか」
「いいよいいよ」
「オタク的シチュの全てをしてもらうが、いいのか」
「もういいよ」
「くっ、なんだ、この圧力は。吹いている確実に着実に」
なぜ、これだけ結婚したらヤバい男アピールをしているのに、引かないんだ。結婚しないために、あらゆる手を尽くしているのに。
まだ俺のオタク力が中途半端だからか。
神棚に萌えを飾るぐらいに、仏壇に美少女仏像を飾るぐらいに信心深いのに。
早く生理的に受け付けないと言っていた縁談を断れよ。
俺は非婚で生きていくと決めたんだ。
もっと突き抜けないと。
そうじゃなきゃ結婚させられる。1人の時間が欲しいのに。
結婚という墓場を回避するんだ。そのための萌え。美少女によって、カラスを撃退するカカシのように現実の女子を遠ざけるんだ。
「でもバレてるよ。オタクの演技」
「え、なぜに」
「あからさますぎるから」
俺は次の手を考える葦となった。
そして、女性の服を買い漁り、フェティシズムに目覚めた。
女装が趣味だよ、はは、もう異性として見れないだろう。
「あ、便利。服の方がいいよ。わたしも使えるし」
「じゃあ、今度、化粧品コーナーにデートに」
「頭おかしいんじゃない? 大丈夫、デートって言葉理解してる」
「よーし、じゃあ婚姻はなかったことにーー」
「しません」