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息子

 腕の手術から数日後。俺は麦城の一室で療養中だった。


「オヤジ!どういうことだ」


 結婚もしていないのに、親父と呼ばれるのは些か不思議ものだな。怒り狂っている人間を前に、ここまで余裕があるのは自分が関羽だと自負しているからだろうか。

 すごい剣幕で捲し立ててくる、この青年の名は関平(かんぺい)、関羽の息子だ。関羽の代わりに樊城攻めをしていた彼は、撤退に納得していなかった。


「う〜ん」

「な、なんだよ」


 関平は表面上は怒っているが、挙動の端々から戸惑いが見受けられる。おそらく、俺が関羽らしくないと思われているのだろう。本来の関羽なら樊城攻めを続けていたのだから、それも仕方のないことかもしれない。

 だがそれではダメなんだ。後方から迫るであろう、呉に対応しなければ関羽は生き残れない。


「許せ、呉の動きが気になるのだ」

「はぁ?あんな弱卒が何をしてこようと、蹴散らしてやる。そういってたじゃないか」


 確かにいってそうだな、と内心で思ってしまう。軽んじていい相手ではないと思うのは、俺が史実を知っているからだろうか。


「き、気が変わったのだ」

「余計に分かんないぜ。率いているのは陸遜(りくそん)とかいう無名の将だろう?そんなやつに怖気付くなんて…」


 陸遜といえば知将として有名だろう。そんな言葉が喉まで出かけたが必死に飲み込む。この時代では、まだ功績を出していないのだ。

 それからいくら話をしても、関平を納得させるには至らなかった。仕方がない奥の手を使うことにしよう。


「くっくっく、まだ気がつかないのか?これは敵を欺く策略なのだ!」

「本当に?」

「あ、当たり前だろう。我は関羽ぞ」

「はぁ、分かったよ」


 若干呆れられている気がしないでもないが、どうやら納得してくれたようだ。それに嘘はいっていない、本当に策は考えてあるのだから。


「失礼します」


 関平の怒りを誤魔化せたころ、馬良が訪れてきた。今回の撤退がスムーズにいったのは、彼のお陰だと聞いている。十分労ってやるのが俺の役目だろう。


「此度はお主がいて助かった。改めて感謝するぞ」

「滅相もございません。これも関羽殿の英断あってのこと」

「ふむ、して何か用か?」

「いくつかご報告したいことがありまして」


 さすが馬良といったところか、俺が集まるまでもなく必要な情報を持って来てくれた。


 まず一つ目、樊城からの追撃はないということ。まだ本格的に援軍が到着しておらず、軍の再編成が出来ていないとのこと。だが、いずれ報復に来ることは明白なので、こちらも準備を整えておくべきだろう。


 二つ目、荊州南部より呉の大軍勢が北上を始めた。こちらの防衛線に接触するのも時間の問題だ。本格的に裏切られたと考えていい。


「幸いなことに南部を守っているのは、糜芳(びほう)殿に士人(しじん)殿。あのお二方ならすぐに崩れることは…」

「それはまずいな」


 その二人の名前はよく覚えている。ろくに抵抗もせずに呉に降った腰抜け達だ。今はまだ味方のようだけど、仕事ぶりには期待しない方がいい。


「二人と気が合わないことは存じております。ですがここは力を合わせるべきかと」

「すでに二人が敵と内通していたらどうする?」

「まさか!ありえません。蜀建国以前より仕えていた古参の者達が…」

「あくまで可能性の話だがな。そこで我は策を考えた」

「おお!」


 馬良と関平から期待の眼差しが向けられる。大丈夫、これは療養中の暇な時間に考えたとっておきだ。上手くいく自信がある。


「我はこれから死ぬ」

「「はあ!?」」


 俺の完璧な策に驚いた二人は、素っ頓狂な声を上げたのだった。

 

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