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第1話 突然の出会い
僕は救急治療で働いている看護師だ。
その日は夜勤明けで家に帰る途中だった。
僕の目の前に歩道を歩いている人がいた。
キキキーと若者が自転車の急ブレーキをかける。僕はとっさに「危ない!」と倒れかかった彼女を支えた。
「なんだよ!自転車のベルが聞こえないのかよ」と言うと若者はそのまま立ち去った。
「大丈夫ですか?」と彼女の顔を見る。
「う・う・う」と言うと支えていた僕から離れてひとりで立ち上がった。
彼女が耳が聞こえないのだと僕でなくても気がつく事だろう。
『ありがとう』と手話で彼女は僕に答えた。
ありがとうくらいの手話はわかるが、それ以上はわからない。
それが僕と彼女との出会いだった。