ポンニチ怪談 その70 片道研修旅行
研修と称して豪勢な海外旅行をしてきたニホン国与党ジコウ党女性議員たち。飛行機で帰途についたはずが、目を覚ましたのは…
「ううん、もう着いたの?」
ニホン国与党ジコウ党の国会議員にして、国外研修旅行の団長でもあるマツセン・ルーイコは寝ぼけ眼で目を覚ました。
眠い目をこすりながら、窓の方を見ると、
「あれ?飛行機の中じゃないの?いつの間にバスに乗り換えたのかしら」
縦長の角の丸くなった二重のガラス窓ではなく、大きめの横長から広がる景色は墨色の闇だった。
「変ねえ、あっちでは確かに夕方の出発だったけれど、ニホン国到着は昼過ぎなのに、どうしてこんなに暗いの?」
そういえば、隣にいるはずの娘がいない。
「あら、あの子はどうしたのかしら、それに」
一緒に飛行機にのったはずのジコウ党の女性議員たちはどうしたのだろう?
椅子から腰を浮かして、周囲をみると見覚えのある髪型や服装がちらほらみえる。どうやら全員同じバスにのっているようなのだが、皆黙って下をむいている。
「どうしたのかしら、シンとして、まるでお通夜の帰りみたいだわ。研修旅行はおおむね楽しかったし。そりゃ、前に遊んでいる写真とかSNSで載せちゃったのは不味かったけど、ちゃんと視察もしたのよ」
“それで、成果はあげないんですか”
不意に前方から声がした。
白に紺色のつばの帽子を目深にかぶり、白いスーツを着たショートカットの女性がバスの前方にたっていた。
「せ、成果?って、今回の研修旅行の?そ、そんなの後で」
“おやおや、ダメでしょう?すぐに次の研修が始まるのにそんなことでは、皆さんもう提出済みですよ”
「て、提出?そんなことハギュウダンさんとかゼコウさんとかは全然」
“あれあれ、勘違いの良識もわからない年だけ喰った議員モドキの言うことを鵜呑みにしたんですか?本当に愚かなんですねえ、アナタ方は。税金を使ってないとかいいますが、アナタ方のお給料は税金。研修などというからには、その成果を報告してもらわないとねえ、まあ国会でもロクに仕事をしていないようですけど”
あざ笑うような女性の声に
「な、何を偉そうに、ただのバスガイドのくせに」
“あらあら、今度は国民を馬鹿にしたご発言ですこと。アナタ方は国民の代表としてでて、国民に税でお給料をもらっているんでしょう?主権在民ってご存じない?欧州などにいくより、小学校あたりから研修をやりなおしたほうがよろしいようねえ”
「な、何を、」
女性の言葉に憤るマツセンだが、
「な、なんで皆黙ってるのよ!それに私の秘書は!娘は!」
“皆さん、いらっしゃいますけどね。黙っていたほうがいいっておわかりなんですよ。マツセンさんより、すこうし物分かりがおよろしいようですわねえ”
「い、いったい、どういう」
“まあまあ、本当にわかってらっしゃらないんですねえ。皆さん、次の研修旅行にいかれるんですよ。いえ、戻れないんだから、旅行とはいえないのかしら。ニホン国ジコウ党の女性議員として本当の研修旅行に行っていただこうと思いまして、特別バスをご用意したんですよ”
「そんなこと、き、聞いてないわ!」
“ええ、突然決定しましたから。まあ、仕方ないですよね。台風の災害被害が続出している中、被災地でお手伝いもせず、呑気に研修と称して外国旅行に家族を連れて行く方々ですもの。ニホン国の天気だの、インフラの破壊など興味ないみたいですねえ、国会議員のくせに”
「い、いちいち嫌味な女ね、いったい何が」
喚くマツセン・ルーイコだったが
『お…かあ…さ…』
スーツの裾をひっぱる小さな手。その指からは幾筋もの赤い線
「血、ま、まさか…ひいいいいいい!!!!」
いつの間にか隣にいた娘の顔をみて、悲鳴をあげる。
顔中血まみれの娘の顔の左半分は肉がえぐれ、眼球が垂れ下がり、頭蓋骨が見えていた。
“ああ、おかわいそうに。だから、皆さん、うつむいてらっしゃったんですよ。お嬢さんなんて、椅子の下にうずくまっていらしたのに。酷い有様でしたからね、生存者はほとんどいらっしゃいませんでしたしねえ。顔が酷い方が大勢いらっしゃいましたからね。マツセンさんは団長だけに良い席だったんですねえ。あれで、顔にはほとんど外傷がなかったんですから”
「え?…あああああ!」
気が付くと、左足の太ももに大きな金属片が刺さり、ブラウスが胃のあたりで真っ赤に染まっていた。腹のあたりに手をやると
ズボッ
指が腹部に大きく開いた穴の中に入った。
「ぎゃああ!私、私」
“ええ、死んでいますよ。何度も外国研修と称して遊びに行っていたことが公になるとまずいからって、飛行機を無理やり着陸させようとしたからですよ。こんな最低最悪恥知らずの議員モドキのために無茶な仕事をさせられた、専用飛行機のパイロットさんは本当にお気の毒ですねえ。まあ、彼らは大けがをしたとはいえ助かりましたけどね。でも、まあ皆さんは自業自得ですかしら。なにしろ、暴風雨のなかを期日に間に合わせるように帰れ、旅行がバレて騒がれないようになんて身の保身のために、安全を犠牲にしたんですから。本当に基本的なこともご存じないんですねえ、ジコウ党の特に女性議員さんたちは。オジサンたちのご機嫌を取ることしか、能がないのかしら”
笑う女性。透き通るように白い肌に、真っ黒な目。怪しげな光がともった白目のない闇色の目。
「た、助けて、ねえ、お願いよおお、死にたくない、死にたくない」
“本当におバカさんね、そんな大怪我をしているのに痛みも感じないってことはもう死んでいるんですよ、アナタ方。マツセンさん、他の方はもうとっくにおわかりですよ。お小さいお嬢さんですら、わかってらっしゃるようですのにねえ、愚かで傲慢な母親のせいで、とんでもないところに連れていかれるって”
「え?」
“あれれ、あんなことをして、天国とか極楽に行けると思ってらしたの?アナタ方にはちゃんとした研修がたっぷり必要ですわ。アナタ方のジコウ党のせいで苦しんで死んだ方の声を聞く、体験をするというね。その感想を報告してあげてくださいね、アナタ方を贔屓にしたジコウ党の男性議員や白髪頭の財界人って方々に。彼らの所業がいかに人をくるしめたか、夢の中ででもわかるようにねえ”
「そ、そんな」
“お分かり?でしたら、皆さんのように研修成果をまとめてくださいね、次の研修の前に。たくさんこなして、オジサンたちの夢枕にたって、現世であの方々が少しでも反省して、罪滅ぼしをしてくだされば、アナタ方もすこしは浮かばれますから。研修が長引いて、地獄行きの期間が短くなる、もしくは地獄へ行かなくても済むかもしれませんわよ、研修の成果によっては”
呆然とするマツセン。
隣では娘が血だらけの手で、つたない字でノートに何か書き込んでいる。
“それでは、全員、ご理解いただいたようですので、最初の目的地に向かいますわ。まずは先の大戦の犠牲者から、お話を聞きましょうか。今のジコウ党の源流ともいえますものねえ、あのときの最低の政府は。南方の兵たちが助けを求めたのに、死を命じて、それ名誉の自殺とか言って。想いあがった自分たちの作戦ミスで負けたのにねえ、酷いですねえ。アナタ方ソックリ。亡くなった兵や現地の人たちの恨み、つらみ、何をさせられたか、どういう体験をしたか、体験学習を通してしっかり研修を受けてくださいねえ”
バスは闇の中をひた走る。
どこぞの国の嫌な伝統なのかもしれませんが、自分の失敗を他人のせいにして自分たちは悪くないと開き直って、ふんぞり返る政治家が後を絶ちませんねえ。オマケに外遊と称して贅沢旅行、で国の文化の宝庫疲弊しまくり。これでは、お先真っ暗で、ある意味また大敗北しそうですねえ。