3.紅玉の魔女
『気球』
女海賊は姉に反省している素振りを見せる為元気の無いフリをしながら気球を飛ばす準備をした
ぐっすり寝たお陰で体は元気バリバリだ
フワフワ
若い衆「かしらぁ…もう行くんすか?」
女戦士「シャ・バクダの酷い状況を見て事態は急を要すると判断した…義勇団は引き続き近隣の民を守れ」
若い衆「領主不在なのに勝手にやってて良いんすかねぇ?」
女戦士「構わぬ…民の意がある方に義がある…故に我々は義勇を貫け」
若い衆「わかりやした…それでいつ頃帰って来やすか?」
女戦士「出来るだけ早く戻るつもりだが…戻らぬ場合も考慮してお前が指揮を取れ」
若い衆「あっしが?かしらの立場が無くなっちまいやすが…」
女戦士「私を出し抜いても構わん…とにかくうまくやるのだ」
若い衆「へい…」
女戦士「私がお前の部下でも良いのだ…アサシンに会ったら良く言っておく」
若い衆「ありがとうございやす…こっちの事は任せてくだせぇ」
女戦士「それが聞きたかった…これで安心して行くことが出来る」
若い衆「死なねぇでくれやんす…あっしはかしらの事が好きなんでやんす」
女戦士「死ぬつもりは無い…無事に戻ったら酒にでも付き合ってやる」
若い衆「マジっすか!!」
女戦士「お前も死ぬなよ?…では私はこれで行く…女海賊!!気球を上げろ!!」
女海賊は括り付けていたロープを緩め気球は高度を上げ始めた
フワフワ フワフワ
女戦士「女エルフ!ミツバチは魔女の塔の方向を分かっているな?」
女エルフ「大丈夫よ…花が沢山あるって」
女戦士「よし高度を上げて急げ」
女海賊「……」ションボリ
女海賊はチラチラと横目で姉の機嫌を伺い反省しているフリを続けている…
女エルフ「女海賊?平気?」
女戦士「放って置け…そんなアバズレに構うな」
女海賊「ちょ…アバズレって何さ!!…しょうがないじゃん無意識なんだからさ」
無意識でやってしまった行動だと言う事にして潔白を示そうとする…あざとい
女戦士「目の前に女エルフが居たのだぞ?」
女エルフ「え?何?何の話?」
女海賊「なななな…何でもない…私の剣士を取らないでって話」
女エルフ「取るってそんな…そんなつもり無いの」
女海賊「ごめんね女エルフ…あんたが剣士と仲良くすると腹立つ」---ムフフ上手い事女エルフ巻き込んだぞ---
女エルフ「私と剣士はそういうのでは無いの…なんていうか兄妹みたいな…同族と言うのか」
女戦士「エルフの繋がりに嫉妬しているのだ世話を掛けてすまんな?女エルフ」
女エルフ「でもね?私はわかる…剣士と女海賊の繋がりが私よりもずっと強い事を」
女戦士「何故そう思う?」
女エルフ「夢の中で私は剣士に一度も会って居ない…だから探せない」
女海賊「分かれば良いんだよ…分かれば」---ヨシヨシ上手く自慰ってた事から注意が逸れてくムフフフフ---
女戦士「黙れアバズレ!」
女海賊「だから無意識なんだって!剣士に何もしてないじゃん!」---ナハハ決定的台詞…これで事故って事になる!---
女エルフ「昨夜剣士と女海賊が横になって居た時剣士がすこし動いたの」
女海賊「ほらほらほらほら」
女エルフ「剣士にゆかりのある人なら目覚めさせる事が出来るのかもしれない」
女海賊「え!?」
女海賊はハッとした…
夢の中で剣士は常に誰かの声を聞いて居た…
目を覚まして…
もしかして女エルフの声を聞いて居たのでは?
そんな疑念が生まれた…
女エルフ「…どうしたの?急に呆けて?」
女海賊「剣士は夢の中で心の中で声がするってずっと言ってた…」
女戦士「お前はしっかり覚えているのか?夢を…」
女海賊「なんとなく…それで剣士はその声を精霊の声だと思ってる」
女エルフ「私の声なのかな?」
女海賊「だとすると声は届いてる…」
女エルフ「返事をしてくれないの…だからどこに居るのか分からない」
女海賊「声が届くならもっと話しかけた方が良い…と思う」
女エルフ「うん…」
---何か変な気持ちが込み上げて来る---
---私と剣士が愛し合ってた時も---
---剣士はその声を聞いて居た---
---私だけを感じてくれてる筈なのに---
---注意がその声に逸れてる---
---だからあの時---
---私の前から居なくなった---
---夢の中の事なのに---
---何だろうこの感情---
---イライラを通り越して---
---脱力する感じ---
女戦士「どうした?泣いて居るのか?」
女海賊「な…何でもない…」女海賊の目から涙が溢れていた
---あの時2人だけで交わした約束なのに---
---そう信じて居たのに---
---剣士は違う声を聞いて居た---
悲しさなのか…虚しさなのか…涙が止まらなくなった
女海賊は歯を食いしばりながら気球を魔女の塔へ向ける…
『森の上空』
女海賊は横になって居る剣士を触らせて貰えず
気球を操舵しながら見守る事しか出来なかった
女戦士「ううむ…やはりこう何日も正気に戻らんとなると…魔王に何かされたと言わざるを得んな」
女エルフ「心が壊れてしまった…それしか考えられない」
女戦士「私にはそれがどういう状況なのか想像出来んのだが…」
女エルフ「多分…憎悪に触れて気力を失って居るとか…そういう感じなのでは?」
女戦士「想像出来んな…」
女海賊「お姉ぇは心が純粋過ぎなんだよ」
女戦士「フン!お前が知った様な事を…どうだ?反省したか?」
女海賊「剣士は何も知らないで一人魔王を受け止めちゃったんだ…私等何も助けてあげられ無かったじゃん」
女エルフ「……」
女海賊「ほんで精霊みたいに夢の中に引きも凝っちゃったのさ…心が壊れたってそう言う意味だよ」
女戦士「お前は剣士を夢から目覚めさせられそうか?」
女海賊「そんなん分かんない…でもアイツの苦しみがなんか分かって来た」
女戦士「苦しみ?」
女海賊「そうだよ…夢の中で記憶維持出来なくて自分が誰なのか分かって無いのさ」
女戦士「お前はどうしてソレが分かる様になった?」
女海賊「お姉ぇに言ったじゃん…私子供の頃からずっと剣士の夢見てるって…それに気付いたんだよ」
---そうだよ…いつも他の女に剣士を取られる夢さ---
---アイツ心が何処に有るのか分かんないで---
---いつもフラフラして一人で苦しんで…他の女の所行って---
---私我慢したんだ…それで目を覚ますならって---
『追憶の森上空』
女海賊にとってここに来るのは2度目だ
狭間の中で暗くなっていても一度来た事のある場所は迷う事無く来られた
ビョーーーウ バサバサ
女海賊「私の働きバチよ!!もっと働けぇぇぇ」ビシバシ
女戦士「ミツバチに八つ当たりをするな…案内人が居なくなっては困る」
女海賊「腹立つんだよ!!女エルフが剣士の手を握って瞑想する関係がさぁ…もうムキーーーーー!!」
女戦士「お前は本当に見苦しい女だな…」
女海賊「お姉ぇには分かんないよ…ずっと私我慢してんだ…夢の中でも他の女に取られた」
女戦士「剣士の気持ちはどこにあるのだ?」
女海賊「何処って…あんにゃろう!まだ気付いてない!!」
女戦士「それを確認するのが先だろう?」
女海賊「起きたら取っちめてやる!!」プンスカ
女戦士「ヤレヤレだ…恥ずかしくてお前を魔女様に会わせるのを躊躇ってしまう」
女海賊「私が会うんじゃなくて剣士を会わせるのさ…目が見える様になったら戻って来いって言ってたんだし」
女戦士「剣士の状態を見て何かしてくれれば良いがな?」
女海賊「魔女の婆ちゃんなら絶対イケる!!」
女戦士「そう願おう…そろそろ高度落とせ」
女海賊「わーってるよ…女エルフ起こして!!やっぱ見てて腹立つ」
女海賊は以前気球を隠した事のある川辺に降ろした
フワフワ ドッスン
女海賊「前と同じ場所に隠すよ…女エルフも手伝って!!」
女戦士「長居する気は無い…このまま行くぞ…女エルフ肩を貸せ」
女エルフ「え?あ…はい」グイ
女海賊「気球盗まれたらどうすんのさ?」
女戦士「魔方陣のペンダントは女エルフが持っている…魔方陣無しの気球を誰が盗むというか?」
女海賊「お?…そりゃそうだ」
女戦士「迷わん様にミツバチが案内してくれ」
ミツバチ「…」ブーン ブンブン
ミツバチは言葉を理解しているのか3人を案内しようとしている様だ
女海賊「私のミツバチに勝手に指示しないでくれる?」
ミツバチ「…」ブンブン プイ
女戦士「お前はミツバチにも振られるのだなハハ」
女海賊「おい待てゴルァ!!」
『魔女の塔』
ミツバチの案内に従い迷う事無く魔女の塔に辿り着いた
しかし以前とは雰囲気が違う…
シーン…
女戦士「…様子がおかしいな」キョロ
女エルフ「魔女様…気配が無い」
女戦士「ちぃぃ遅かったか…」
女海賊「魔女の婆ちゃん死んだって事?」
女戦士「分からんが…とにかく行ってみよう」
女エルフ「誰も居ないみたい…あ!妖精」
女海賊「ん?どこどこ?」
魔女の下に残って居た妖精が3人を見つけ飛んで来る
ヒラヒラ ヒラヒラ
妖精「遅っそいよ~何してたんだよ~」ヒラヒラ
女海賊「よっ!!アンタ久しぶりだねぇ!!」
妖精「魔女様が死んじゃったんだよ」
女戦士「やはりそうか…いつ亡くなったのだ?」
妖精「もう1ヶ月くらい…」
女海賊「あ…そっかここは時間の流れが違うんだ…あれからどれくらい経ったんだっけ?」
妖精「2年くらいになる…すぐ戻るって言ってたのにさ」
女戦士「魔女様は今どこに?」
妖精「塔の中で椅子に座ったままだよ…魂は僕が黄泉に案内した」
女戦士「そうか…その間誰も来ていないのだな?」
妖精「うん…ずっと君達が帰って来るの待って居たんだ」
女戦士「埋葬してやる必要があるな…行こうか」
妖精「剣士はどこに行ったの?心が何処かに行ってる…」
女海賊「やっぱ分かる?妖精にも探せないん?」
妖精「魂はまだ残ってる…でも中身が無い」
女戦士「ひとまず塔に行こう」
『魔女の部屋』
そこでは揺り椅子に腰かけたまま静かに魔女が眠って居た
女エルフ「魔女様…椅子に掛けたまま亡くなったのね」ポロリ
女戦士「机に書置きが残っているな…弟子のシン・リーン姫君宛てだ」
女海賊「何て書いてある?」
女戦士「他人宛てへの書簡を先に読むのは道理に外れる…私には読めん」
女海賊「このままにしておくん?」
女戦士「シン・リーンの姫君を探して連れて来るのが道理…しかし魔女様の亡骸をこのままにしておくのもな」
女海賊「おい妖精!?魔女の婆ちゃんは死ぬ前に何か言ってなかった?」
妖精「剣士達の帰りをずっと待っていたよ…千里眼でずっと見ていた」
女海賊「だから何か言ってなかったか聞いてんだよ!私の話聞いてる?」
妖精「僕には何も話さなかったよ…でも無言でアクセサリーを沢山作ってた」
女海賊「どこにあんの?」
妖精「上の部屋だよ」
女海賊「ちょっと見て来るね」タッタッタ
女エルフ「魔女様を埋葬してあげないと…」
妖精「魔女様が入る予定のお墓は生前に作ってたみたい…裏手にあるよ」
女戦士「よし…先に埋葬してからシン・リーンの姫を探しに行こう」
女エルフ「そうね…」
女戦士「無くなって1か月も経ったのにまるで生きている様だ…やはりここでは肉体は腐らんのだな」
女エルフ「剣士はここで待っていてね?」
女エルフは魔女と剣士を入れ替える様に剣士を揺り椅子に座らせた
妖精「お墓まで案内するよ…こっち」パタパタ
女戦士「墓に入れる遺品は何か無いのか?」
妖精「魔女様は一つだけ大事に持っていた石があるよ」
女戦士「どこにある?」
妖精「大丈夫…魔女様の胸に身に着けているよ」
女戦士「…これか…よし一緒に埋める」
『墓』
それは上等な石棺だった…
中に収める花は石棺の中に既に準備されて居てそこに魔女の亡骸を収めた
3人は揃って手を合わせ石棺を閉じた
女戦士「この狭間に墓が在る限り石棺の中で魔女様の亡骸はずっとこの姿で居るのだろうな」
女海賊「荒らされないと良いね」
女戦士「妖精が案内しなければ誰も来ることはあるまい」
妖精「僕これからどうしようかな?」ヒラヒラ
女戦士「一緒に来い!私たちの目になって欲しい…これからシン・リーンの姫を探す」
女エルフ「剣士はどうするの?」
女戦士「女エルフは剣士と一緒にここに残れ…誰も来んとは思うがもし誰か来たら追い払え」
女海賊「ちょ…剣士は私が」
女戦士「ダメだ!お前以外に誰が気球を操作するのだ?そしてここを守るのはお前じゃ役不足だ」
女海賊「ぐぬぬ…おい!女エルフ!!剣士に何かあったら許さないかんね!!」
女エルフ「うん心配しないで?」
女海賊「あんたが一番心配なんだよ…」ブツブツ
女戦士「お前よりマシだ…お前は動かない剣士を相手に淫らな事をするに決まって居る」
女海賊「お姉ぇ私の事勘違いしてるから!!」
女戦士「女海賊!!さっき魔女様の作ったペンダントを持ってきたな?」
女海賊「持ってきた…いっぱいあるよ」
女戦士「女エルフ…この魔方陣に剣士が使った退魔魔法…出来るか?」
女エルフ「印の結び方がちょっと…」
女海賊「魔女の婆ちゃんの部屋に魔術書があったよ…それ見ながらやったら?」
女エルフ「…やってみる」
女戦士「退魔のペンダントがあれば私たちはレイスを気にすることなく行動できる」
女海賊「姫を探すって事は光の国シン・リーンの城?」
女戦士「…そうだな…まずは行って今の状況を把握せねば…」
女海賊「シャ・バクダ遺跡みたいに大きな魔方陣を作って居れば良いけどね」
女戦士「退魔のペンダントが出来たら出発するから下に降りて来い」
女海賊「おっけ!!女エルフ!魔女の婆ちゃんの部屋に行くよ」グイ タッタ
『花畑』
一緒に連れて来たミツバチは忙しそうに花粉を運んで居た
女戦士は2人を待って居る間花畑に身を埋め少女だった頃の記憶を思い出していた
本当は花もミツバチも大好きな可憐な少女だったのだ
ミツバチ「…」ブーン ブンブン
女戦士「お前はこの花畑で休んでいろ…誰か来たら直ぐに女エルフに知らせるんだ」
指にミツバチを乗せ優しく語り掛ける
使う言葉が男の様だがこうなったのには理由があった
貴族に捕らえられ不遇な扱いを受け強くなるしかなかったのだ…そうやって身を守って来た
タッタッタ
女海賊「お姉ぇ!!お待たせ…はい退魔のペンダント」ポイ
女戦士「花を踏むな!!この花は魔女様の物だ」
女海賊「あ…ごめ」ドタドタ
一方妹の女海賊の方はズボラで無神経…姉のお陰で自由に育って来た
女戦士「お前もちゃんとペンダント持っているな?」
女海賊「バッチリ」
女戦士「それでお前の悪い癖も良くなると良い」
女海賊「悪い癖って何さ…こないだのは事故だって!一人エッチくらい誰でもするじゃん」
女戦士「それを人に見られて品を損なう様な事をするなと言って居る」
女海賊「お姉ぇだって変なクセあんの私知ってんよ!」
女戦士「又尻を叩かれたい様だな?」スラーン
女海賊「ごめごめ!反省してるから!!」
女戦士「フン!!塔の戸締りはしてきたか?」
女海賊「アダマンタイトの扉はロックしてきた」
女戦士「忘れ物はもう無いか?」
女海賊「もう!!うっさいなぁぁ…子供じゃないんだからさ」
女戦士「では行くぞ?」
女海賊「あ!!!ヤバ…妖精置いて来ちゃった…先行っててすぐ行くから」ピューー ドドドド
女戦士「はぁぁ…どうしようも無い女だな…」
女海賊「ゴルァ妖精!!何やってんのさ!!羽ムシルぞ…早くこーーーい!!」
『光の国シン・リーン』
気球で上空から静かに様子を探る
魔物に襲われ混乱状態になって居るのでは?…と思ったがそうでもない
女戦士「うーむ…こちらはセントラルと違って落ち着いた物だ」
女海賊「どうする?降りちゃう?」
女戦士「いや…そういえば思い出したのだが前に魔女様の所を訪ねた時の事を覚えているか?」
女海賊「何か有ったっけ?」
女戦士「魔女の塔に行く前に馬車を隠れてやり過ごしただろう」
女海賊「あーー三角帽子の姫が馬車に連れられて行ったね…覚えてるよ」
女戦士「確かその時魔術院に隠れると言っていた気がするのだ」
女海賊「んん~どうだったかなぁ…その場所知ってんの?」
女戦士「ここより南のハジ・マリ聖堂…そこが魔術院になって居る」
女海賊「ほんじゃそこから行った方が良さそうだね」
女戦士「うむ…この状況を見る限りシン・リーンはさして混乱しては居ない」
女海賊「そだね…きっと魔法使いがいっぱい居るんだね」
女戦士「そして見ず知らずの私達が突然行って相手されるとも思えんのだ」
女海賊「なる…相手は姫かぁ…てか普通に会うのムリじゃね?」
女戦士「その通り…先に魔術院に行って姫が居ないのならこちらに戻って来よう」
女海賊「おっけ!進路変える…南方面だね?おい!妖精!!方向教えて」
妖精「妖精使いが荒いなぁ…」ブツブツ
女海賊「羽ムシられたい?高度上げるから方向教えて!!」
妖精「ハイ右…もうちょい右…そこらへん」
女海賊「あんたぁぁぁ!!そんな態度でどうなるか分かってんの!?」
妖精「ふぁ~あ…女エルフのやわらかいベットが恋しいよ」
女海賊「ムッカ!!あんたまで女エルフが良いのか!!ちょっと来い」グイ
妖精「痛てて…何するのさ」
女海賊「私のベットの方が大きいんだ試してみろ!!」ムギュ
妖精「ちょちょちょ…無理やり押し込まないで」
女海賊「どうだ!!女エルフのより良いだろ!!」
妖精「なんか…うううぅぅ暑苦しい」
女海賊「そこで大人しくネンネしてな!!フンッ」
女海賊は機嫌さえ損なわせなければ最高に面倒見が良いのに
妖精はそこまで気が回らなかった
『ハジ・マリ聖堂』
その建屋が見えた時には随所で魔法の光が見えていた
女海賊「お姉ぇ!!見て…戦闘が起きてる」
女戦士「戦っているのは魔術師達だな…なぜ魔方陣を張らんのだ?」
女海賊「でっかいクモがいっぱい転がってるわ…ちょいマチ…ちっちゃいのがもっと一杯いる!!」
女戦士「魔方陣の中にアラクネーが入り込んで居るのか…」
女海賊「これクモだけじゃないね…ニョロニョロしたのも居る」
女戦士「なるほど…退魔の魔方陣だけではダメだと言う事だ」
女海賊「アレを全部倒すのって無理じゃね?」
女戦士「焼き払う必要があるな…」
ゴゥ ボボボボボボボ
魔術師達が火炎の魔法で迫りくる虫を焼き払って居る
女戦士「あの魔術師達の近くに降ろせ…助太刀する」
ゴゥ ボボボボボボボ
地上では上空を旋回する気球に気付き魔術師達が警戒していた
魔術師「姫!!上で気球が旋回しています…味方と思われます」
姫「コレ気を抜くでない…このまま後退しながら広場まで誘導じゃ…火炎魔法!!」ゴゥ ボボボボボ
魔術師「気球が降りて来る様です…火炎魔法!!」ゴウ メラ
姫「あの者らを広場から離れる様に誘導せい」
魔術師「はい!!照明魔法!!」ピカー
魔術師が放った照明魔法は気球を着地させる場所を示すように少し離れた場所を照らし出す
女海賊「光った!!誘導してる…あそこに降ろせって事だ」
女戦士「私は先に飛び降りる…あのままでは大きなアラクネーに囲まれる」
女海賊「お姉ぇ一人でなんとか出来んの?」
女戦士「一時的にタゲを引き受けるだけだ…気球を降ろしたら私を援護しに走れ」
女海賊「マジか…」
女戦士「アラクネーは片側の足を切り落とせば無効化出来る!足だけ狙え」
女海賊「りょ!!」
女戦士「囲まれるなよ!?」ピョン
女戦士は剣と盾を持って魔術師達の所へ飛び降りて行った
ヒュゥゥゥ ドスン!!
姫「広場で高位魔法を詠唱する…わらわに敵を近づけさせるで無いぞ?」
魔術師「はい…火炎魔法!!」ゴゥ メラ
女戦士「助太刀!!」シュタ
女戦士は魔術師達を囲もうとするアラクネーに立ちはだかる
姫「わらわを守れ…詠唱の時間を稼ぐのじゃ」
女戦士「大型アラクネー2体…どうする?」
魔術師「あれは倒すとクモの子が散る…こちらに来るのを止められるか?」
女戦士「足を切り落とす…」ダダッ ザク ザク
女戦士はアラクネーに走り込み剣戟を浴びせる
アラクネー「シャーーーー」カサカサ
アラクネーは突然現れた女戦士に狙いを変えた様だ
女海賊「お姉ぇ!!」タッタッタ
女戦士「私に構うな…もう一匹のアラクネーの気を引け」
女海賊「おっけー」タッタッタ ピョン クルクル シュタ ドテ
女海賊は剣士の真似をして走りながら空中をクルクル回ってみた
着地が上手く行かず不格好だがアラクネーの気は引けたようだ
魔術師「伏せろぉ!!」
女戦士「む?」
女海賊「お?なんか来る?」キョロ
姫「竜巻魔法!!爆炎魔法!!」ゴゴゴゴゴ
竜巻の旋風が炎を巻き上げ火柱に変わった
その火柱は小さなアラクネーを巻き上げながらうねり始める
女戦士「…ボルケーノか」
女海賊「熱ち…あちち」
女戦士「女海賊!魔術師の所まで下がれ…巻き込まれるな!!」
女海賊「やばば…」ピューーーー
ボルケーノの火柱は周囲の魔物を一掃しながら移動して行く
魔物は上空に巻き上げられ火の玉となって降り注いだ
『広場』
ボルケーノが収まった時には辺り一面焼かれた魔物で火の海となって居た
その中を歩く三角帽子を被った少女…シン・リーンの姫君だ
姫「他の魔術隊に大型は処理したと伝令してくるのじゃ」
魔術師「はい…姫はどうされますか?」
姫「わらわは子虫を焼いておくかのぅ…して…主らは誰じゃ?母上の差し金か?」
その子は女戦士と女海賊に向き直り三角帽子から赤い眼を覗かせる
闇に炎で照らされて光る赤い眼は小さい子供の体なのに狂気を感じる
女戦士「シン・リーンの姫君と見受ける…」
姫「そうじゃ…わらわは光の国シン・リーン第一王女…名は紅玉の魔女じゃ」
そう言ってその子は警戒したのか杖を突き出し斜に構えた
女戦士「失礼…あなたに伝えなければならない事がある」
魔女「わらわは忙しいのじゃ…手短に済ませい」
女戦士「あなたの師匠…塔の魔女が亡くなりました…同行して頂きたい」
魔女「なんじゃと…それはまことか」
女戦士「このペンダントをご覧ください」
女戦士は塔の魔女が残したペンダントを見せた
魔女「信じられぬ…時の番人が今…死んだと」
女戦士「あなた宛ての書簡があるのです」
カラーン コロコロ
その子は持って居た杖を落とし呆然と立ちすくむ
魔術師「姫?この者達を信用して良いのですか?」
魔女「……」
魔術師「姫?」
魔女「魔術師や…はよう伝令に行くのじゃ…わらわは一旦この者達と魔術院へ戻る」
魔術師「分かりました…その方が安全です…姫の事をお願いします」
女戦士「承知…」
女海賊「魔女ちゃん大丈夫?なんかショック受けたみたいだけどさぁ」
妖精「ぷはぁぁぁ…」ヒョコ
女海賊の胸の谷間から妖精が飛び出した
魔女「妖精まで居るのじゃな…付いて参れ」トボトボ
女戦士「私達はあなたに同行を願いたいのだが…」
魔女「分かって居る…わらわも勝手に外へ出歩けんのじゃ…一言言うておかねばならぬ」
女戦士「確かに…無礼を言ってしまった様だ」
魔女「今から魔術院へ戻るがお主達は何も言うで無いぞ?」
女戦士「承知…」
魔術院へ戻る紅玉の魔女はその動きに特徴があった
ノソノソと動く様に見えて良く見るとその動きは連続性が無く一般的な物理現象とは違う感じだ
空間を滑る様にノソノソ歩く…いや滑って居る
女海賊「ねぇお姉ぇ…なんか私目がおかしいのかな?あの魔女っ子を目で追えないんだけどさ…」
女戦士「魔術師はそういう特徴がある…覚えておけ」
女海賊「なんだろな…不思議な感じだ」
『魔術院』
ハジ・マリ聖堂の一角に魔術院がある
この聖堂は魔術の根源たる古の知識の神を奉った聖堂だ
究極の知識の象徴としてその神の偶像が据え置かれ手にした書物から知識が溢れて居るらしい
女戦士と女海賊の2人は聖堂の中央で待たされ
奥で口論する紅玉の魔女の声に耳を傾けていた
もう元老の言うことなぞ聞いて居れん
わらわに安全なぞ要らんのじゃ
今ははわらわが最高位じゃぞ
従わぬのなら命令を下す
魔術院に引き籠っておる者を全員町の警備に回すのじゃ
一人残らず全員じゃ
これは命令じゃぞ…良いな?
どうやら魔女は元老と呼ばれる者の一人を魔法で焼き殺し
静止する者を強引に言う事を聞かせ
ハジ・マリ聖堂が建つ丘の下に広がる町の守備に魔術師を動員させる様だ
女海賊「お姉ぇ…これヤバくない?中で誰か焼き殺されてんよ?」
女戦士「黙って居ろ…王族の行動一つに文句を言うな」
女海賊「うわ…あんなちっこい子なのに中身は鬼か…」
ガチャリ バタン
紅玉の魔女が一人奥から出て来た
魔女「待たせたのぅ…して…わらわは早よぅ師匠の下へ行きたい…今すぐ行けるかの?」
女海賊「みんな引き留めてたみたいだけど大丈夫?」
魔女「魔術師が力を合わせればアラクネーなぞどうでもないのじゃ」
女戦士「アラクネーは元々大人しい虫…やはりレイスが現れて粗ぶって居るのか?」
魔女「そうかもしれんが…ミツバチが隠れてしまったからじゃろうと思うておる」
女戦士「という事はシン・リーンも同じ事に…」
魔女「あちらは魔術師が此処よりも更に多いのじゃ…しかし」
女戦士「ん?」
魔女「いや何でもない…早う行くぞよ?…気球に乗れば良いのか?」
女海賊「え?…あぁ行こっか」
魔女「そういえば主らの名を聞いておらなんだのぅ」
女海賊「私は女海賊…こっちは女戦士…私等姉妹なんだ…ほんでこいつが妖精」
魔女「主らも師匠の弟子の一人かいな?」
女海賊「まぁ…そうなるんかな?私も魔術書持ってるし」
魔女「主の魔力はわらわの千分の一も無いようじゃが…錬金術か何かかの?」
女海賊「そんな事分かるんだ…千分の一ってちょっと少なすぎね?」
女戦士「ところで紅玉の魔女…あなたはどうしてその様な格好を」
魔女「魔力の解放は10歳程度の体が最大なのじゃ」
女海賊「どゆ事?年齢ごまかしてんの?」
女戦士「記憶が正しければ28歳くらいの筈」
魔女「良く知っておるのぅ…主は何者じゃ?」…赤い瞳がギラリと光った
女戦士「フフ…ドワーフ王の娘と言えば分かるか?」
魔女「おぉぉ父君は達者であろうか?主らがこの地に居るという事は…勇者がどこぞに居るのじゃな?」
女海賊「お!?話早いかも」
魔女「この闇の空…言うまでもあるまいて」
女海賊「まぁそんな感じで色々ややこしいんだよ」
魔女「ではわらわも姿を見せておくかのぅ…変性魔法!」グングン
紅玉の魔女は魔法を唱え本来の姿を現した
女海賊「おおおおおぉ背が伸びた…服がピチパチじゃん」
魔女「この姿になるのは何年振りじゃろうか…他の魔術師達を欺くには丁度良かったかもしれんがのぅ」
女戦士「これで見つからないと思っていないだろうな?法衣がそのままでは意味が無い」
魔女「着替えて行くので待っておれ…普通の魔術師の法衣じゃ…安心せい」
そう言って紅玉の魔女は別室へ着替えに行った
女海賊「お姉ぇ…私等名乗って良かったん?」
女戦士「王族に何者だと聞かれて嘘を付けというか?」
女海賊「まぁそだね…」
女戦士「直観だが紅玉の魔女には悪意を感じん…信用出来そうだ」
女海賊「お姉ぇそう言う所純粋なんだよね…あの子さっき何か言い掛けて止めたじゃん?」
女戦士「んん?そうだったか?」
女海賊「何か隠してんのさ…ちっと用心しとかないと利用されちゃうよ」
女戦士「ふむ…心に留めて置こう」
女海賊「お姉ぇはなんだかんだで騙され易いんだよね…アサシンにも利用されてるの気付いてる?」
女戦士「黙れ…恩義があるから裏切れんだけだ」
ノソノソ
紅玉の魔女が着替えて戻って来た
女海賊「ちょ!!」
魔女「何じゃ?」
女海賊「その三角帽子被ってたら着替えた意味無いじゃん!!バレバレだって!!」
魔女「おろ?わらわのお気に入りなのじゃが…」
女海賊「ダメだよそんなの被ってたら…てかアンタ天然なん?」
魔女「お主こそ随分派手なのじゃが…わらわと勝負したいんか?」
女海賊「ちょいお姉ぇ!なんか頭グルってそうなんだけど」
女戦士「お前が言うなタワケ…何を着てても構わん!さっさと行くぞ」
魔女「そうじゃお主に文句を言われたくないわい」
3人共王族で姫という立場だった
普通はこういう会話にならないのだが何故か波長が合い初対面なのに直ぐに溶け込めた
女海賊が持つ馴れ馴れしい不思議な力だ
『気球』
3人は誰かに見つかる事など何も考えず堂々と気球に乗り込み
行方不明になった姫を探す魔術師達を尻目にあっさり気球で空へ逃れた
女海賊「魔術師達があんたの事探してるっぽいね」
魔女「構わぬ…行って良いぞ?」
女戦士「第3王女がどうとか言っていたが…もしや」
魔女「第2も第3も全部わらわじゃ…これは王家のみ知っている事じゃで誰にも言うで無いぞ?」
女戦士「ハハハ一人影武者だと言うか」
魔女「母上の策じゃ…わらわはどうでも良い」
女戦士「第3王女が居なくなったとなっては母上も心配するのでは無いか?」
魔女「母上も師匠から教えを受けた魔女じゃ…この闇を見て理解して下さるじゃろう」
女戦士「母君も狭間で修行をしたと?」
魔女「もうわらわの方がずっと長いがのぅ…母上の年齢はとうに超えてしもうた」
女海賊「ちょい!!魔女って何歳?28歳じゃ無いの?」
魔女「精神的には80を超えておるな…体が28歳なだけじゃ」
女海賊「ややこしや~~ややこしや~~」
魔女「魔術師の中では珍しい事ではないのじゃぞ?…して…主らには問いたい事があるのじゃが」
女戦士「何だ?」
魔女「そうじゃな…師匠との関係…勇者の事…主らがどこまで知っているのか全てじゃ」
女海賊「ええと…どっから話せば良いかなぁ…」
妖精「僕から話そうか?」ヒョコ
女海賊の胸の谷間から妖精が首を出した
魔女「ほう?面白い話が聞けそうじゃな」
妖精「まず剣士と塔の魔女様のの関わりから話そうかな~」ヒラヒラ
妖精はこれまで剣士が奪われた瞳を取り戻すまでの経緯を語り始めた
そこに便乗するように女海賊も剣士が魔王に心を奪われた事を話す
そして世界の闇を祓う術を聞きに塔の魔女の下へ訪れたと…
紅玉の魔女はその話に聞き入り理解した様だ
魔女「…ふむ…大体経緯は理解した…主らは引導が欲しいのじゃな」
女海賊「剣士を夢から目覚めさせる事は出来る?」
魔女「出来ん事はないが難しいと言わざるを得ん…出来るならとうに精霊は夢幻から戻る筈なのじゃ」
女戦士「精霊の魂を夢幻から解放するのと同じくらい難しいと?」
魔女「そうじゃな…夢幻では自分で夢から覚める事は出来んのじゃ」
女海賊「だから塔の魔女にお願いしに来たんだけどさ」
魔女「主らは魂の器を用意してはおらんのかえ?」
女海賊「器?」
魔女「器があれば簡単じゃと師匠から聞いた事があるのでのぅ…」
女戦士「器とは初耳だ」
魔女「精霊の魂もその器が無いと呼び戻せんのじゃ」
女戦士「精霊の像とか精霊樹とかそういう類の物なのか?」
魔女「うむ…しかしあれらはもう器として使えぬ…何度も試しておるのじゃ」
女海賊「剣士の体は?魂の中の心が無くなって空っぽになってるみたいだけど…それって器になんないの?」
魔女「剣士とやらにいのりの指輪を持たせて何か祈ることが出来ると思うかの?」
女海賊「ムリ…」
魔女「そういう事じゃ…精霊の像も精霊樹も自ら祈ることが出来ん…じゃから新たな器が必要なのじゃ」
女海賊「てかその器ってのは自分で祈れるん?」
魔女「さぁのぅ?わらわは師匠から聞いた話じゃで詳しく知らんのじゃ」
女戦士「新たな器と言うのは何処に?」
魔女「それも聞いて居らぬ…師匠なら知っておったかも知れぬが…」
女戦士「まてよ…アサシンは器がどうとか言って居たな」
女海賊「え?アサシンが何か知ってる?」
女戦士「ミスリルと器を求めに南の大陸に行った…たしかそうだ」
魔女「ほぅ…進展しそうじゃのぅ」
女海賊にとって精霊を目覚めさせる云々よりも剣士を目覚めさせられるかどうかの方が重要だった
魔女でも難しいと言われ不安がよぎる
そんな困難な状況に陥っている剣士の事が急に愛おしくなって来た
やっぱ私が傍に居てあげないとダメだ…ダッシュで戻ろう!!