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1000文字以下の短編集

四枚目のおふだ

作者: 中村くらら

「第4回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。

 ある山寺に和尚と小僧が住んでおった。

 小僧がお遣いに出た帰りのこと。

 道に迷い辿り着いたのは、小さなあばら家。

 老婆が一人で住んでおり、一晩泊めてやると言う。

 美味い飯をご馳走になり暖かい布団で眠りについた、その夜更けのことじゃ。

 ぽたりと頬に雨だれが落ちて、小僧は目を覚ました。

 ふと壁を見ると、蝋燭の灯に照らされて、老婆の影がゆらりと浮かんでおる。

 なんとその頭には尖った角が生えておるではないか。

(鬼婆じゃ!)

 小僧は慌てて便所に逃げ込んだが、鬼婆はすぐに追ってきた。

「急にどうした小僧さんや」

「は、腹を下しただけじゃ」

 どうしたもんかと震えるうち、和尚から「困ったときに使え」と三枚のおふだを手渡されたことを思い出した。

 小僧は懐からおふだを一枚取り出し、

「俺の代わりに返事をしてくれ」

 その隙に、便所の窓から逃げ出した。

 ところがしばらく走ると、

「待てぇ」

 鬼婆が追ってきた。

 小僧は二枚目のおふだで大川を作った。

 三枚目のおふだで炎の壁を作った。

 それでも鬼婆の足は止まらん。

 寺まであと僅かという所で追いつかれてしもうた。

 節くれだった手が小僧にのびた、そのときじゃ。

 小僧の懐でカサリと紙が鳴った。

「おふだは四枚あったんじゃ!」

 急いで取り出してみると、それはおふだではなく和尚の書き損じの紙じゃった。

「ヒィヤァァ!」

 丸めた紙を鬼婆に投げつけ、転がるように寺の門まで辿り着いた時。

「ん?」

 小僧は、鬼婆が追ってきていないことに気が付いた。

 見れば、鬼婆は小僧が投げつけた書き損じの紙を広げ、なにやら熱心に読んでおる。その耳に挟まれていた筆がぽとりと落ちた。

親愛なる(まいすいーとはにー)葵ちゃん……」

 それは和尚が秘密の文通相手に宛てて書いた恋文(らぶれたー)の下書きじゃった。

 ……待って。儂、うっかりおふだと一緒に小僧に渡してたってこと!? 恥ずかしすぎるんじゃが!?

「寺の紅葉が綺麗に色づきました。良かったら一緒に……」

 アーッ! 声に出して読まんといて! それ、文通始めて二か月になるしそろそろおふ会どうかな~って書いてみたけど、いやまだ早くない?儂軟派(ちゃらい)と思われない?って没にしたやつー!

「この筆跡は、まだ見ぬ文通相手の光くん……」

 なっ! 儂の筆名(ぺんねーむ)を知っているのは葵ちゃんだけのはず!

「もしや……葵ちゃんか?」

「あなたが光くん……」

 頬を染めて見つめ合う儂と鬼婆もとい葵ちゃんを、朝の光が祝福するように照らす中――

「……俺、寝ていいっすか」

 あくびをしながら小僧が言った。 

……え〜と、老婆は文通相手にお手紙を書いていて、耳に筆を挟んでいたところ、それが影で角みたいに見えたっていう……客人が突然飛び出して行ったので心配して追いかけたっていう……そういうお話でした!

お読み頂き感謝です〜!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軟派と書いて『ちゃらい』と読ませるところにセンスを感じました。 あと、鬼婆じゃないのに、川や炎の壁をモノともしない葵ちゃんに凄みを感じました。(笑)
[一言] まさかの……笑 途中から地の文が暴走し始めたけど、和尚の語りだったのですね(^-^; 面白かったです。
[良い点] まさかのシニア・ラブ! 小僧があくびをするのは無理もないですねw [一言] さらっと源氏物語のニホイが……和尚、かつては都で名をはせた色好み?
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