表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1000文字以下の短編集

四枚目のおふだ

作者: 中村くらら
掲載日:2022/12/11

「第4回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。

 ある山寺に和尚と小僧が住んでおった。

 小僧がお遣いに出た帰りのこと。

 道に迷い辿り着いたのは、小さなあばら家。

 老婆が一人で住んでおり、一晩泊めてやると言う。

 美味い飯をご馳走になり暖かい布団で眠りについた、その夜更けのことじゃ。

 ぽたりと頬に雨だれが落ちて、小僧は目を覚ました。

 ふと壁を見ると、蝋燭の灯に照らされて、老婆の影がゆらりと浮かんでおる。

 なんとその頭には尖った角が生えておるではないか。

(鬼婆じゃ!)

 小僧は慌てて便所に逃げ込んだが、鬼婆はすぐに追ってきた。

「急にどうした小僧さんや」

「は、腹を下しただけじゃ」

 どうしたもんかと震えるうち、和尚から「困ったときに使え」と三枚のおふだを手渡されたことを思い出した。

 小僧は懐からおふだを一枚取り出し、

「俺の代わりに返事をしてくれ」

 その隙に、便所の窓から逃げ出した。

 ところがしばらく走ると、

「待てぇ」

 鬼婆が追ってきた。

 小僧は二枚目のおふだで大川を作った。

 三枚目のおふだで炎の壁を作った。

 それでも鬼婆の足は止まらん。

 寺まであと僅かという所で追いつかれてしもうた。

 節くれだった手が小僧にのびた、そのときじゃ。

 小僧の懐でカサリと紙が鳴った。

「おふだは四枚あったんじゃ!」

 急いで取り出してみると、それはおふだではなく和尚の書き損じの紙じゃった。

「ヒィヤァァ!」

 丸めた紙を鬼婆に投げつけ、転がるように寺の門まで辿り着いた時。

「ん?」

 小僧は、鬼婆が追ってきていないことに気が付いた。

 見れば、鬼婆は小僧が投げつけた書き損じの紙を広げ、なにやら熱心に読んでおる。その耳に挟まれていた筆がぽとりと落ちた。

親愛なる(まいすいーとはにー)葵ちゃん……」

 それは和尚が秘密の文通相手に宛てて書いた恋文(らぶれたー)の下書きじゃった。

 ……待って。儂、うっかりおふだと一緒に小僧に渡してたってこと!? 恥ずかしすぎるんじゃが!?

「寺の紅葉が綺麗に色づきました。良かったら一緒に……」

 アーッ! 声に出して読まんといて! それ、文通始めて二か月になるしそろそろおふ会どうかな~って書いてみたけど、いやまだ早くない?儂軟派(ちゃらい)と思われない?って没にしたやつー!

「この筆跡は、まだ見ぬ文通相手の光くん……」

 なっ! 儂の筆名(ぺんねーむ)を知っているのは葵ちゃんだけのはず!

「もしや……葵ちゃんか?」

「あなたが光くん……」

 頬を染めて見つめ合う儂と鬼婆もとい葵ちゃんを、朝の光が祝福するように照らす中――

「……俺、寝ていいっすか」

 あくびをしながら小僧が言った。 

……え〜と、老婆は文通相手にお手紙を書いていて、耳に筆を挟んでいたところ、それが影で角みたいに見えたっていう……客人が突然飛び出して行ったので心配して追いかけたっていう……そういうお話でした!

お読み頂き感謝です〜!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 軟派と書いて『ちゃらい』と読ませるところにセンスを感じました。 あと、鬼婆じゃないのに、川や炎の壁をモノともしない葵ちゃんに凄みを感じました。(笑)
[一言] まさかの……笑 途中から地の文が暴走し始めたけど、和尚の語りだったのですね(^-^; 面白かったです。
[良い点] まさかのシニア・ラブ! 小僧があくびをするのは無理もないですねw [一言] さらっと源氏物語のニホイが……和尚、かつては都で名をはせた色好み?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ