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「「ブハッ」」
「「「「ッ?!」」」」
四人が各々得物を構え、それぞれの相手へと仕掛けようとした時、紅子と夕が盛大に吹き出し肩を揺らしてお腹を押さえ始めた為、ゼウスたちは警戒して動きを止めてしまう
「ヒィ…ちょ、ちょっと、夕ちゃん…聞きました?」
「プクク…えぇえぇ、紅子さん…聞きましたとも…」
なんとか笑うのを我慢しようとして全く我慢出来ていない二人を、怪訝そうに見ていたフレイアが埒が明かないと、短槍を構え直し夕へと迫る
「…ククっ「何を笑っているのです…かっ!」…えっ?こっ……オッオォォォ厶ゥ!」
てっきり紅子へ向かうと思った相手が、まさかの自分を標的に向かって来るとは思わず反応の遅れた夕だったが、何とか展開した障壁でフレイアの攻撃を遅らせ、その間に焦った夕が(武器っ、武器っ)と適当にアイテムボックスから取り出した金色の杖に一瞬顔を歪ませるも、今にも破られそうな障壁に咄嗟にキーワードを叫ぶ
「っ!……この攻撃も防ぎますか」
キーワードに反応した杖から、金色の波動の様なものが衝撃と共にフレイアに向かって拡散するが、杖の変化に気づいたフレイアは素早く退避して衝撃に巻き込まれる事は無かったが、先程とは違い戦闘用に身体を成長させた自身が神器とも言える槍を持って放った一撃を防がれた事に少なからず動揺する
「今のは危なかった…危うくお腹に穴が空くところだった…ふう…集中しろ私……けど…」
「ヒッヒッヒ……はぁ…苦しぃ…あっ油断はっヒッヒ…だっ駄目だよ夕ちゃ……ん?何時もの槍じゃ無くて金色の杖とは…また派手だねぇ、って言うかなんで杖?」
お腹の辺りを擦りながら戦いへと意識を切り替える夕に、いまだに笑いを堪えていた紅子から声が掛かるが
「何笑ってんだ…、ちょっと攻撃を防いだからって調子に乗るなよっ女!」
その紅子が、何時までも肩を揺らしてクスクスと笑っているのが、自分達を舐めているのだと腹を立てたゼウスが割り込んでくる
「……やっぱりアレな名前を自分に付けられるだけあって、恥ずかしさとか無いみたいだね?夕ちゃん」
「えぇ…そうみたいですね…だからあんな名前を二人に付けられるんですよ」
「何の事だ?」
「えっ、何の事…ですか?えぇと…コチラがフレイアで、アチラのがシグルド…なのでしょ?…なのにねぇ…って、話ですが…」
「そうそう……その娘たち二人が北欧神話のヴァルキュリアをモジッてるのに、何で主の貴方がゼウスな訳?ギリシャ神話じゃん、吹くわっ!名乗るならせめてオーディンぐらい名乗っとけ!」
「はぁ!ふざけんなっ!ゼウスってのは親が付けた俺の本名だ!」
「「………………」」
「ギリシャ神話?俺には関係ない!俺の名前が偶々ゼウスだっただけで、俺が創ったものに俺が何て名付けようが良いだろうがっ!」
「「ゴメンナサイ…」」
「くっ…何だ…その目は……い、言っとくが俺は是迄一度もこの名前を嫌だ思った事は無いんだから「ウチっ…ふっかぁぁぁぁぁつ!」…なっ!?」
ゼウスが自称では無く本名だという衝撃の事実に、紅子と夕が謝罪をしながらも憐れみの眼差しをゼウスに向けていると、其れまでシロに背中をポンポンされ慰められていた詩乃が立ち上がり拳を突き上げ吠える
「そうだっ!赤兎馬にこれは馬では無いっ、鳥だ!って文句いわれたり、方天画戟を方天戟画って間違えようが、ちょっっっとxxxを理想の相手として造ったのがばれたとしてもっ!そんな名前でも前向きに生きてるアンタを見倣ってウチももっと欲望に正直ッ、い"ったぁぁ!嘘っ嘘っ、ごめんなさい!」
開き直った詩乃は、ビシッとゼウスを指差しそんな身も蓋もない事を口走るが、頭部にしがみつくシロが尻尾を伸ばし詩乃の額に巻き付けるとけしからんとばかりに緊箍児の様に締め上げたので「ノオぉぉ」と、詩乃は頭を抱えてのたうち回る
「……おちょくりやがって…くっ…まぁいい、茶番は此処までだ本気で行くぞ…」
紅子等とのやり取りで激昂しかけたゼウスだったが、敵である自分達の前で平然と転げ回る詩乃を見て、散々に自分達をおちょくり邪悪な笑みを浮かべてゼウスを見下ろしていた眼鏡の男を思い出し逆に冷静になる
「魂魄ドライブ起動…コアを戦闘モードへ移行…余剰リソースのドライブへの流入……正常値内で推移…」
職業にダンジョンマスターを選んだ事で強制的にダンジョンコアという種族?にさせられたゼウスは、神の気まぐれに因って生れた自身の分身とも言えるフレイアが、シキの襲撃後に神に願った事で起きた種族進化と共に可能になった"地球人からのリソースの回収"で得た膨大ポイントを使い自身とフレイアを限界まで強化する
そして強化されたフレイアの解析に因って、どうやらコアでは回収しきれない地球人の膨大なリソースがダンジョン内に漂う事を知ったゼウスは、どうにかしてそのリソースを活かす為に2機生産予定だったヴァルキリーの1体を諦め、膨大なポイントを使いリソースを魔力に変換する魂魄ドライブの創造に成功する
「ハハッ、いいぞいいぞ!……クイナにジョディスもドライブを起動して武装を展開しろっ」
ゼウスは、まるで無限の魔力が自身を包み込む様な感覚に高揚しつつも、チラリとフレイアを見、自身と同じ様にドライブを起動してエーテルをこれぞヴァルキリーという型で具現化した鎧を纏い、背中に翼を生み出している姿を確認すると、
ダンジョンコアに拠る支配を受け入れた事でコア経由での強化が可能になった二人(シキ襲撃後の強化で種族の前にハイが付く上位種へと進化した事で、限定的ではあるが魂魄ドライブの使用が可能になった)へ、フレイアと同じ様に武装を纏えと指示出す
「うんっ!」
「待ってましたぁ!」
「ゆくぞっ、赤兎よっ!雄ォォォ!」
二人の返事に混ざる様に聴こえた暑苦しい声に「何だ?」と思わずゼウスは声のした方に視線を向ける
其処には、ビットを駆使しシグルドの攻撃を防ぐ四足歩行の赤いメカに、いつの間にか復活した呂布っぽい武将が騎乗して武器を振るってシグルドへと仕掛ける処だった
「「フンッ!」」
穂先に大型のビーム状の刃を発生させシグルドへと叩き付けるが、ドライブを起動し出力の増したシグルドはビームサーベルで迎え撃つと危なげなく其れを受ける
「ヒヒッ…あっちは任せて大丈夫だな」
攻撃を押し返したシグルドが攻めに転じたのを確認して、そう呟いたゼウスが視線を戻すと半透明な巨大なフェンリルの半身の中により獣化した自身を置くクイナ、衣服が弾け一回り肥大化した肢体と、両手に曲刀を持ちその鍛え上げられた身体を魅せつけるように具現化されたビキニアーマーを身に纏ったジョディスの二人が目に入る
「クヒィ…コチラの準備は終わったぞ、さぁ始めるとしようか…ヒヒ」
そう言ってゼウスが左腕を掲げると、その手に身長よりも長い杖を具現化させて纏うローブをどこぞの黒い剣士の着るコートの様に変化させると、右手に長尺の刀を具現化させて……
「いや…終わってねぇじゃん、準備…」
シロの拘束から解放されて頭を擦りながら様子を伺っていた詩乃が、左門から貰った、娘に贈る物としてはどうなのかと疑問に思うほど禍々しさの増したローブを羽織り、そのままアイテムボックス経由で人から見えない様にシキに押し付けられた思い切り悪役っぽいボディアーマー(ギミック多数)に換装してもなお、いまだにダラダラと準備を続けるゼウス達に若干イライラしていた処に、準備が終わったと宣言したにも関わらず今度は自身の準備を始めたゼウスに呆れて突っ込んでしまうのも仕方のない事だった……




