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「社長、対象AがBとGへの報復を実行、BGの死亡を確認、BGの魂魄と身体の保護、及びマーキングが完了しました、何時でも行けます」
濃いグレーのパンツスーツの女が、セミロングの銀髪を長い耳に掛けながら振り返り、彼女が社長と呼ぶ人物に報告する
「報告ご苦労、ピクシー……いや、ふぇあ」
「ゼロです、社長」
ゼロと名乗る彼女から社長と呼ばれた人物であるシキは、彼女の抗議を聞き流し、その隣に座る魔術師っぽい薄いグレーのローブを着た男に目を向ける
「此方も、対象毎のコンソールとの紐付け作業は終了していますよ。ちなみに社長、私の名はアインであって決してスズキでも、ましてやイチロウなのでは在りませんので……」
そう言ってアインと名乗った美青年が、長い水色の髪をかきあげながら振り返る。余談だが、彼はキャラが被るとシキに眼鏡を禁止されたせいで、髪をかきあげるのが癖になっていた
「フフフ…宜しい」
シキは、アインの着るローブを縁取る様に施されている刺繍(よく見ると5と1が連続している)を見てほくそ笑むと、抑揚に頷く
「あちらとの時差も残りひと月程……実に良いタイミングで始められますね。では二人共、そろそろ始めましょうか」
「「分かりました。」」
自分の合図で二人が作業を始めるのを見つめながら、ゼロの衣装にも何かを施すべきかと、考えるシキだった
・・・・・・・・・・・・
「はぁはぁ……やった……」
うつ伏せで頭を抱えていた拓真が、体を起こしながら後を確認する。
そこには、落下した鉄骨などの建築資材と、其れの下敷きにされている二人の男が血を流して倒れていた
「痛っ、計算より範囲が広かったな……危なかった」
足元に転がる鉄筋と、破れた制服のズボンから見える傷を見て拓真はホッと息を吐く
「馬場に蒲生、君達も運が無いね。まぁ、散々僕を虐めてくれたんだ、恨むならそんな事をした愚かな自分たちを恨んでよね。」
頭が半分潰れていたり、眼が飛び出し首があらぬ方向に曲がっている二人の姿を見下ろしながら呟くと、ポケットからスマートフォンを取り出す
「さてと、それじゃあ警察を呼びますか。コレは不幸な事故だからね、ちゃんと通報……えっ、なに!?」
拓真が警察に通報する為に発信をタップしようとした瞬間、足元に魔法陣の様なものが発生する
「わっ、コレってあの事件の奴に似てる……」
六年ほど前の大量失踪事件の時に、画像や動画で確認された魔法陣は国から個人までと、いろいろと研究等されているが、当時小学生だった拓真も早くに発症した病の影響も有り、個人であれこれやっている為いま自分の足元に発生している魔法陣が当時のものに似ている事に気づく
「おぉ…凄い…この部分はどうなっ……てぇ?」
実物に興奮した拓真は、しゃがみ込んで魔法陣をなぞるようにして見て、ついでにスマートフォンで撮影までしていると、ふと視界の端に、今は死体となった筈の馬場と蒲生にも魔法陣が発生しているの確認した処で意識を失った………………
(うおおお、浅野ぉぉぉ、殺してやる!)
(オラッふざけた真似しやがって!)
何やら騒がしい、そう思いながら覚醒した拓真は目を覚ます
(死ねぇ、オラァ!) (殺す殺す、ぶっ殺ぉぉす!)
「うわっ!………へっ?」
何故か椅子に座った状態で気を失っていた彼は、目を覚ますと同時に眼の前に飛んで来た拳しに、思わず両手を挙げて防ごうとするが何故か身体は動いてくれない、その事に焦る間も無く迫る拳に成すすべもない彼だったが、拳は彼をすり抜けてしまう
(このっ、畜生どうなってやがる!)
(クソッ、クソッ、クソがっ)
「馬場と蒲生か……」
何度か殴りつけられてみても、全てすり抜けて害が無いのが解ると、冷静に戻った拓真は今も騷しく此方に向けて拳を振り上げているのが、自分が罠に嵌めて殺害した半透明になった同級生の二人なのを確認する
「えっと……此処は…」
相変わらずすり抜けていく二人からのちょっかいは鬱陶しいが、拓真はそれを無視して現状の確認を始める。
身体は相変わらず動かせないが、首が多少と眼球が動かせるのが分かると視線を落とし、自分が天板に小さなディスプレイの付いた黒いデスクが見え、その前にゲーミングチェアの様な椅子に坐っている事が解る。
顔を上げると飛んで来る半透明な拳に、「ハァ…」とため息をつくが気にせず周囲を見回す
見ると、八畳程の部屋に同様の座席が五席ごと二列に並んでおり、自分は後列の真ん中に座っていて、前列には同じ学校の制服を着た男と二人の女、上下スエットの如何にもな男、着物を着て腕を組み静かに目を閉じている老人が座っている。
(あの老人……)拓真は、他と違い落ち着き払っている老人に多少の違和感を抱くが、現状の確認を優先する。
「うっ………おいおい……」
煩い二人が右側から絡んできている事から、先に左側を確認すると口から大量の血を流した女性が着衣が乱れた状態で座っており、その向こうに衣服を膝までずり下ろして、下半身をさらけ出した男が見えた
「糞っ!動けねぇ、どうなって……ああっ、てめぇ何見てやがる殺すぞ!」
なんとか動こうと、首から上を震わせて藻掻く男が拓真に気づいたのか怒鳴り声をあげるが、男の後ろに立つ半透明の女性を視界の端に捉えた拓真は、男を見下ろす女性の凍てつく様な眼を見てそっと視線を戻すと、まぁ一応と右側も確認する
「あぁ…やっぱり」
拓真の予想通り、右側の二席には損壊した二人の身体が有った。
(ああん……オイッ、見ろよコイツっ、チXコ丸出しだぜ!)
(うおっ、マジ変態じゃん)
「糞ガキっ、ぶっ殺すぞ!」
どうやら拓真ではなく、自分達に対して因縁を付けて来たと思った馬場と蒲生が、ぎゃあぎゃあと露出男と絡み始める
「ふぅ……しかしあいつ等…お姉さんもだけど、幽霊的なやつだよねやっぱり……へぇ…と言う事は魂みたいな物は実在するって事だよね……」
二人が男と諍いを始めた事で、思考の邪魔が無くなったことでブツブツと呟きながら拓真が考察していると、いつの間にか周りが静かになっている事に気づく
❲お前達、煩いニャ❳ ❲ミッ❳
(にゃ?……っ!声が出ない…)
突然、前方から聴こえてきた声の語尾に、思わず視線を上げた拓真は、先程まではなかった監視員が座る様な椅子に幼児ぐらいの人型の黒い猫が小さな白猫を膝に乗せて座って居るのを目にする
❲其処の三人もさっさと席につくニャ❳
黒い猫が指を鳴らす仕草をすると、幽霊的な三人が各々の身体に重なるように着席する
❲…………それではニャ、これから楽しい楽しい異世界転移❲ミッ!❳に……わっ、分かってるニャ……行く前に、お前達、机の画面に触れるニャ!❳
暫く指を見つめて黙っていた黒猫が、そう言うと手が勝手に動き出し机にあるディスプレイを押える
「!?」
手を触れる事で起動したのか、ディスプレイが青白く発光すると拓真を突然の激痛が襲う
(ぎぃぃぃ……あっ幽霊も痛みを感じるんだ……)
激しい痛みに気を失う前に拓真が見たのは、飛び出しそうなほど眼を見開いて痛みに悶えている二人の顔だった




