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(ヒッヒッヒ、そうだよ、俺がっ殺っだ!)
「はい、アウト〜」
(ぎゃあああ)
嬉しそうに自らが生前犯した殺人を告白する霊を、背後から気配を消した紅子が神力を纏わせた小太刀で一刀両断する
「はぁ〜、ダルい…まだ回るん?」
先程まで死霊術を使って霊に告白させていた詩乃は、既に見慣れたその光景をなんの感慨も無く確認すると、うんざりしながら紅子に問いかける
何だかんだと理由を付けてダンジョンに引きこもっていた詩乃だったが、乗り込んで来たシキに「私は左門ほど甘くありませんよ」と、ダンジョン内にコッソリ造っていた趣味全開の部屋ごとボコボコにされて引き摺り出され、強制的に霊を探知したり尋問する役を言い渡されたのだった。
そして、この三ヶ月いやいやではあるが紅子と共に複数の都市で夜に巡回していた
「以外と高い……プッ、53万って、フリーザかっ」と言って、手首の裏に表示した画面で、今の霊から得られたcpの数値を確認していた紅子は、詩乃の問いかけに対し
「ん?ちょっと待ってね……残念、ノルマにはちょっと足りないかなぁ…」
そう、今夜の巡回がまだ終わらないという事実を告げる
「マジか……」
「まぁまぁ、ポイント的にあと一体だよ、さっさと終わらせよ」
紅子に急かされ詩乃は、「うぃ〜」とノロノロと動き始める
「はぁ〜……思い通りに術が使えなら楽なのに……変な縛りのせいで…」
向こうとは違う法則のせいで力が抑制されていると思っている詩乃がそう愚痴る
「ん〜…それはちょっと違うかな」
「えっ、こっちだと術っていうか、魔力なんかが阻害されて扱いにくくなるって話しじゃねん?」
「まぁ、その認識でもいいんだけどね……」
「いやいや、気になるし」
自分の認識が間違っていると指摘された詩乃は、間違った認識のままいるのが気持ち悪いのか、紅子に解説を求める
「では、詩乃ちゃん、向こうと此地の違いは?」
「え?魔力?」
「そう!向こうの世界は生物から無機物さらには精霊など含め、全てが魔力的なものを宿しています。比べて此方はどうですか?ほぼ全ての物…生物も含めてには、魔力なんていうものを宿している様な存在は居ないでしょう。それで…」
そう言うと、紅子は懐から取り出すようにしてアイテムボックスから2本の苦無を取り出すと、一本を詩乃に渡す
「其れは、あちらの鉄で造った何の変哲もない苦無なんだけど、詩乃チャン、試しに壊してみてくれる?素手で」
そう言われた詩乃が、苦無を見つめながら徐々に力を入れていくと、限界が来たのか苦無はバキッと砕ける
「はいっ、じゃあこっちも同じ様にやってみて」
苦無を破壊したのを確認した紅子から、もう一本の苦無を渡された詩乃は、同じ様に力を込めていく
「はあ?どういう事」
既に先程、苦無を破壊した時より力を込めているにも関わらず、未だ壊れる兆しの見えない苦無を訝しげに見つめる詩乃が呟く
「フフッ、其れには私が魔力を込めてるからね、どう?硬いでしょ」
そう言って、フフンとドヤる紅子を見てイラッとした詩乃が、「フンッ」と苦無を砕いて、「フッ…」とドヤり返す
「…………(このへんはよく似てるよね)」
そんなふうに、ドヤる姿を微笑ましく紅子が見ている事には気づいていない詩乃は「で?」と続きを促す
「え〜と、何だっけ?あぁ、そうそう、2本目の苦無は私が魔力を込めたんだけど、アレでだいたいこっちの……地球産の鉄で造った苦無と同じぐらいの強度なの」
言いながら新たに取り出した苦無を詩乃に渡す。
それを手で弄びながら「確かに…」なんて言っている詩乃を見ながら紅子は更に続ける
「要するに、そのくらい向こうと此方ではなんて言うか、物理的密度?みたいなものに差があるんだよ、だから、そんな物理的密度の高い世界で、魔力みたいな曖昧な力を使って事象を現実化しようとすると、その分沢山の魔力が必要になるみたいな感じかな」
「なるほど、なんとなく解った。取り敢えず、魔力でゴリ押せば大丈夫だと…」
「まぁ…そうだね……(このちょっと脳筋な所は絶対お母さん似だよね)」
詩乃達が帰還してから、雑用やらなんやらでダンジョンにちょくちょく出向いていた紅子は、詩乃ともそれなりに仲良くなり引きこもる詩乃を仕事に連れ出したりしていた。それで分かったのが、詩乃が割と脳筋だという事だった。
それを知った時は(まさか……あの人達も実は元は脳筋なんじゃあ…)等と紅子は思ったが、偶に詩乃が語る母親の話を聞いて(あぁ…なるほど)と納得と共に安堵もした紅子だった
「解ったぁ!」
紅子が生暖かく見守っていた、詩乃が顔を上げて紅子を見るが直に下を見つめて考え込む
「…えっ、怖っ!」
「なに?どうしたの」
何事かと、心配した紅子が問いかけると、詩乃は下を向いたまま
「いや……エリさんっているじゃん」
「あぁ、あのスト……エルフの…」
「あ〜、うん……で、そのエルフのストーカーが何で皆と同じ様に産まれたての子鹿みたいになってんのか、ウチとコーさんが平気な分、余計に今まで解らんかったけど、今の話で解ったんよ…あの時、あの変な空間で体を改造されたんだって……あんな一瞬で…
良かったぁ〜、種族変えなくて、猫耳とか凄い興味有ったし…コレだけはおじゃるに感謝じゃな…」
「改造って……それに、そのエルフの事含めて種族を変えた人は、その時に身体を向こうと同じ様に再構築された…だから私達と違って魔力で悶え苦しむ事もなく、何の拒否感もなく魔力を使う事が出来たんだろうって、左門さんが説明してた筈だけど?」
「え……知らん、覚えてないけど……」
向こうのダンジョンで、日本への帰還する為過ごしていた期間にした左門との会話で何度かその事に関する話題もでていたのだが、いつも左門との会話の時は、左門が怒っている時以外、興味のある単語が耳に入るまで適当に聞き流す詩乃は、今回の話も当然聞き流していたので覚えていなかった
「まぁいいけど……そんな訳だから、あのエルフが向こうと同じ様にしようと思ったら、最低さっきの苦無と同じ比率で自分を魔力なりで強化するなり出来なきゃいけないのよ。」
「へえ〜」
なんとなくとだが、自分が気になっていた事が解決した詩乃は、紅子の話を適当に聞き流すと
「早く帰る為に本気を出す…」
そう言って、広範囲の霊を処理するために「む〜ん…」と今までとは比べ物にならない魔力を練ると更に霊力をも練り始める
「ストォォプ!」
「痛っ、なんで⁉」
その様子を見た紅子が焦って“スパンッ”と、詩乃の頭を叩いく
「やり過ぎっ、どんな効果を練り込むのか知らないけど、それ絶対、普通の人にも影響でる奴だから!いい?基本的に此方は何ていうかそういうのが効きにくいだけで、そういうものに対して抵抗力自体は零に等しいんだから人含めて。」
要するに地球では、効果を及ぼすのには膨大な魔力が必要だが、一度効果を発揮すると魔力という概念の無い地球では、其れに対して抵抗する手段が無いので逆に効果が高くなる恐れがあった
「え〜面倒くさ……へ〜………どうするん?…………え、むり………こう?……あっなんか…………ほぇ〜………ふふ〜ん……アダッ、すいま………こっ…これで…………おけっスか?」
「フフフ……悪しき亡霊達よウチから逃れると思うなよ……ファントムサーチ version5!」
その後は、紅子から地球での魔力の使い方をレクチャーされた詩乃が、改良した死霊術を使う事で作業効率の上がった二人は、シキから与えられたノルマを予定期間を大幅に短縮して達成すると、左門にドヤ顔で報告するのだがその場に居合わせたシキに新たな仕事をやらされるのだった




