部屋の神 1
「アイツ等……やりやがった……」
俺の操る偵察用のビットからの映像を、今いるダンジョンの空間に投影して、皆で地上の様子を鑑賞していたんだが……
「引くわぁ……特に最後の奴…何あれ……」
(うおおお、かっけぇ、兄貴、俺にもアレ付けてくれよっ)
「あのリッチっぽい奴…凄いなぁ…くっ、悔しくなんか…」
等と、皆がシキ達の事を好き勝手言っていると
「ついでに言うと、あの二人は相打ちみたいですよ、ほらっ」
紅子がそう言って俺にある画面を指差すと、そこには片腕で腹に黒刀が刺さったまま仰向けに倒れている五郎と、胸部から上と右腕以外がない状態で転がっているスケルトンが映っていた
よく見ると二人共に僅かに藻掻いているのが分かる
「生きてんのかよ……まぁ…放置で、それより…」
「どうします?アレ見ると、いろいろやらかしてる感じですけど……でも、さすが親子って感じですね!」
紅子が、離れた場所から祈る様に跪いて此方を見ている集団をチラリと見て俺に言う
「ちっ……面倒くせぇな、何だよ魔族って……」
「自称らしいですよ、本人たち曰く、魔王に創造された眷族だからって事らしいですけど」
「仕方無い……子供のやった事は親の責任っつう事で、可哀想だけどあいつ等の事は全部無かった事に……」
詩乃達との話し合いで、帰還に際しての希望が多くて面倒くさくなった俺は、問題の1つを無かった事にする為に、集団に向けて手を向けると
「ちょっ!ちょいちょいちょい、何すんの!って
、ちょっとぉ、やめてぇ!」
異変に気づいたのか、詩乃が俺の腕を掴み止めようとする
「………冗談だよ」
そう言って手を降ろす俺に、詩乃は疑いの眼差しを向けてくる
「はぁ…仕方ねぇ…シキも呼んでゆっくりやるか」
個人的には早く日本に戻った方が色々と面倒が少くて済むと思っていたが、こうなったらじっくりと準備なり対策なりをして帰ろうと、改めてどうするかをシキも踏まえて考えることにするのだった
・・・・・・・・・
「え〜皆さん、表向きの代表の紅一です、妹が言うには僕達は今日から秘密結社GORの構成員という事です、ちなみにGORが何の意味なのかは知りません、業務はダンジョンの管理、召喚された日本人の捜索など多岐にわたるそうですが、まだ上の方の準備に暫く時間が掛かるという事なので、取り敢えず皆はいつ業務が始まってもいいように新しい身体を使って地球の特性に慣れて欲しいとの事です、あっ、ついでに其処で偉そうにしてる詩乃は、左門さん曰く名前だけの顧問という立場らしいから扱き使って構わないそうだから……」
僕があの日、紅子にボコボコにされてから、何だかんだと日本に戻るのに1年近くの時間が掛かった
今日、だいたい六年振りに地球に戻った僕等が今いる場所は、某県に在る刀夜氏と五郎氏が所有する邸宅の地下に左門さん達が創ったダンジョンの一室だったりする
まぁ、ダンジョンと言っても一層しかないんだけど……ただその面積は広大で一辺が1kmある正方形の空間で高さも何十mかある…らしい、その中に結社の本部や居住区、訓練施設などが併設されている
どうやってるのかは解らないけど、紅子が言うには、おそらく太陽系とその他では何やら力の法則が違うらしくて、魔力等を用いたものや効果が地球だと他と比べてザックリ十分の一程度になるらしい、それで此処は其れが五分の一程度に成るように調整してあるらしくて、先ずは此処で慣れろと言う事らしい、特に種族が地球人では無くなった人は魔力等で身体強化しないと子供並みの身体能力しか出せないから大変みたいだ、現に僕と詩乃、それと特製の義体に成った数人以外は辛いのか座り込んだりしているし
「……あとそれから、聞いてる人もいると思いますが、地球の現在時間は現在20××年の2月5日で、僕等が召喚されてから向こうで過ごした約6年では無く、約十四ヶ月しか経っていません、この辺は“いろいろと面倒くさいのでそういうものだと思ってくれ”との事でした、
それを踏まえて上が言うには、向こうとの時間の差異の問題が解消されしだい向こうでの活動を始める手筈なので、それ迄は主に地球での活動がメインになるからそのつもりで鍛えるのが当面の課題です、地球で何をするかは追って知らせるとの事です」
時間の差異について、これは紅子もよく解って無いらしくて左門さんからも“家の神様曰くそういう設定なんだよ”と言われただけらしい
実際、僕等とは別口で召喚されたらしい紅子は、向こうで五年近く過ごしたみたいだけど、戻った時は説明された通り十日程しか経って無かったから、もうそういうものと割り切ったと言ってた
「では、おのおの自分に合った補助装備を受け取ったら順次、訓練に入って下さい」
僕は、皆の前に予め受け取っていた3種類の腕輪を用意する
腕輪は、それぞれ魔力用、気力用、霊力用と別れていて、力の動きや発動を補助する機能と、表面に装着されている結晶に蓄えられたそれぞれの力が足りない部分を補充する様になっている
この一年近くの間に、師匠…シキさんが詩乃を補助することで、自我を復活させて身体を与えた新人達をメインに僕は腕輪を配っていく
コレを用いての訓練で、新人達の足りない能力の効率的な向上を図るのだ
「一応、念を押しときますけど、復活時に皆さんが了承した誓約を忘れないようにしてくださいね」
全員に腕輪を配り終わった僕がそう言うと、殆どの人が神妙な顔で頷いたけど、何人かの人は不満気だったりバツの悪そうな顔をしてる
これは一応、釘を刺しておいた方が良さそうだ
「何人かの人は不満そうですが……破った人がどういう末路を辿ったか…良く思い出した方がいいですよ……それでは訓練に移って下さい」
再度の忠告に、異形に落とされた上で無惨に消滅させられた何人かを思い出したのか、不満気な人達を含め皆は顔を青くするけど、訓練に赴く中やはり何人かは怪しい目をしていた
「ありゃあ…何人かやらかすな…紅一、お前も大変だな」
あの目をした人達が起こすであろう未来に気を重くしている僕に、何処ぞのベトナム帰りにそっくりな男の人が話し掛けてくる
「あぁ…お疲れです……で、ヤっさんは結局その見た目にしたんスね…」
僕は落ちぶれては復活するボクサーみたく、パーカーにスウェットという出で立ちのヤっさんを見る
「おう!やっと左門さんも折れてくれてなっ、そんで今はお嬢のおもりだ」
“ゴウッ”と、軽くしたシャドーでは絶対鳴らない風切り音をさせながら、嬉しそうにヤっさんが言う
「先輩…なんでしたっけ?」
「おう、地元は違うけどなっ、いろいろ世話になった」
後輩でもあるヤっさんが、この姿を希望したときは「頼む!ヤスオ考え直してくれっ!」と、左門さんが懇願していたと紅子には聞いていたけど…
「コレもいいだろ、左門さんに貰ったんだよっ、その見た目ならってな」
そう言って、嬉しそうに大振りのナイフを取り出して、柄の部分から糸やら針を取り出すヤっさんを見て、
「格好いいッスね」
そう返した僕は、なるようになるかと、これからの事に少し投げやりな気分になるのだった




