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『は……何を言って……いやっ!そうではないっ、一体どうやって…それに、その肌の色に耳……新種のサハギンか何か…か?』
変質者でも見るような目で見つめながらも問い詰め続けるサウドに対し、「ウッ…」とロープの胸辺りを握り締め苦しそうにするシキは、
「サハギン……ですか……理解されないのは分かっていましたが…」
サハギンに間違われた事が余程ショックだったのか、サウドを無視してブツブツ何かを呟く
『……何者だ?』
装備の効果もあり、普段よりも纏う魔力が濃密なものになっている為、この姿を直視しただけでその辺の騎士ぐらいなら卒倒してしまうであろう今の自分を前にして、平然と何やら考え込んでいる相手にサウドは警戒度を上げる
「…………」
暫く悩んでいたシキが、自らの格好とサウドの顔をまじまじと何度か見つめ、意を決して口を開く
「誰です?私の祈『ふざけているのか…』りを…」
相手の纏う雰囲気が変わった事で更に警戒度上げたサウドは、自らをおちょくる様なシキの言動に怒りを覚え、魔力を高め始める
「……はぁ……辞めです」
一方シキは、残念そうにそう言うと、羽織っていた民族衣装が消え白のスーツ姿に成り、懐から眼鏡を取り出すと肌の色が戻る、そして眼鏡を掛けるとヒレが消え普通の耳になるが
「ふむ…」
何かを思ったシキが”パチン“と指を鳴らすと、全身の衣装が黒に変わり、残していた杖の結晶も黒く染っていく
『なっ…』
シキが行った一連の事を見て、自分の様に道具も使わずそれこそ脱いだり着たりもせず自由に装備を替える事にサウドは驚きをあらわにする
「ん……どうしましたか?」
髪をオールバックにセットし終えたシキが、信じられない物を見た様な顔で佇むサウドに気づく
「あぁ…この格好ですか?なんとか悪の神官っぽさをと思ったのですが…結果、何処ぞの組の人っぽく成ってしまいましたね…」
「いっそ仕込み杖にしますか…」杖を見ながらいまいちズレた事を言うシキに
『何処までもおちょくりよって……赦さぬっ、”断罪の茨“よ戒めよ!』
そう言ってサウドは、密かに準備していた神聖術を放つ
シキを囲う様に地面に魔法陣が現れ、其処から幾つもの白い茨の蔦が出てきてシキを絡め取っていく
『フハハハ…その茨は絡め取った者の生命力を吸い取り徐々に赤く染まっていく、尚且つその者が犯してきた罪の重さに因って威力と苦痛が増すのだ、そして…全ての茨が……ん?』
サウドは、首から上を残し繭の様にシキに絡み付いた茨の色が、白から一向に変色していない事に気づく
『ば…馬鹿なっ!何故…っ!』
術が作用していない事に動揺するサウドの視界の隅に魔法陣が映る
「お返しです」
未だ茨に覆われているシキが、涼しい顔をして言うと、同じ様な攻撃がサウドを襲う
違うのは、茨がサウドの術の様に白ではなく黒いという事で、動揺していたサウドを黒い茨は次々と絡め取っていく
『……フッ…無詠唱には驚いたが、このくらいの術……なんだ…うぅっ………きっ、貴様ぁ…なにを…』
無詠唱にも驚いたが、自身の術の中でもそれなりに高位の術をこうも容易くしかも無詠唱で模倣された事にプライドを深く傷つけられた事は隠し、
模倣され、得体が知れないとはいえ人が使った術程度、神である自分ならこのまま放っておいてもなんの問題もないが、自身が受けた屈辱を眼の前相手にも与えてやろうと思い術を解こうとするが、
突如、己の根源とも言うべき処から不快感が湧き上がる
「おや、もう色が変わり始めましたね」
つまらない物を見るような目で見るシキが言う様に、サウドを覆う茨の数本が先端から徐々に黑から灰、灰から白へと変色しだす
「何てことはありませんよ、フフッ、貴方の術の罪の部分を善行に替えただけですから、まぁ…多少アレンジはしましたが……教皇…いやっ、神でしたか?それ程の方ならさぞ善行を積んでらっしゃるのでしょう?」
『なんだと!…ぐっ……何故、貴様は…』
「どうして平然としていられるのか?ですか…そんなの私が誕生から今に至るまで、罪を…違いますね、罪悪感や罪の意識そういったものを、思った事も感じた事も無いからですよ」
『…………そんな、人がいる訳……』
そうシキが説明するのに合わせる様に、彼を拘束する茨がボロボロと崩れていく
「まぁ…多少、気の毒に思う事も有りますがね、フフッ…フハハハ…」
自由になった体でスーツの埃を払い、どこぞの中年とその中の存在にした何かを思い出したのか、顔を覆う様に眼鏡を抑えお腹を抱えて笑い出すシキ
その様子に暫く呆気にとられていたサウドたが、我に返り拘束を解こうするが
『ヌオォォ……ぐぅ、力が抜ける…だと…』
魔力や霊力を果ては呪術系のサウドの得意ではない気力迄も使っても、力を込める端から茨に吸われていく
既に、茨の半分が白く変色しており更にその効果を高めていく
「ハァ……すいません少し思い出しまして…おや?まだ抜け出せて無いのですか……貴方…本当に神ですか?」
『!?……何故知っている?………いや…そうか……影どもよ』
シキの言葉に雰囲気を替えたサウドが言うと、「はっ」と何処からともなく十人の男女が天幕内に現れる
「いつの間に!……なんて、驚いた方がいいですか?」
突然現れた者達を見ても、元から居ることを把握していたシキは焦る事も無くサウドを煽る
『ちっ、忌々しい……だが、その余裕も今だけだ…さぁ、祈りを捧げよ』
憎々しげにシキを睨んだサウドが、自身が影と呼んだ者たちに祈りを捧げるように言うと、影達は跪いてサウドを拝み出す
『フフ……いいぞぉ……フンッ』
その祈りを受けてか、サウドが白いオーラ…神力を纏いだす、そして不安定ながら全身に神力が行き渡ると
「ウッ」「ガハッ」「あぁ…」
バタバタと影達が倒れ伏すが、サウドは其れを無視して今度こそ拘束を破る
「サ…サウド…様…」
『フン…』
縋る様に手を差し出す影達を一瞥したサウドは、ポーチから純白のサークレットを取り出すと
『貴様は許せぬ……ただの人が少し力を手に入れて傲慢になっているだけなら、其れよりも上がいると思い知らせてやるだけのつもりだったが……俺が神と知っていてのその言動……絶望の淵で後悔するがいいっ!』
そう言いながら額にサークレットを着けると、不安定だった神力が安定し、神力を込めた杖を一振りするとシキを中心に爆発が起き影たちと天幕共々まとめて吹き飛ばす
『フハハハ、どぉぅだぁ…』
「おぉ…サウド様……そのお姿は…」
爆風に因って天幕が無くなり、其処にサウドの姿を確認した聖騎士が集まって来るとサウドの纏う神力に跪く
『あぁ、聖騎士長か……多少厄介な賊が出たからな、だが、これで奴も虫の息だろう』
未だ粉塵の舞う場所を見ながら聖騎士長告げる
「サウド様の術を食らって、その…生きているのですか?」
『ちっ…忌々しいが、奴のあの感じ…死んではいないだろう…まぁ、五体満足かはしらんがな!…おいっ、お前らで捕えておけ、魔王をどうにかした後でじっくり可愛がってやるっ』
何故かいつもと違い随分と口調が野蛮だと聖騎士長は感じたが、(神に対して何たる不敬)と己を戒め、素早く部下に指示を出す
『それにしても随分やられたな、まぁ…俺が居れば魔王ごときどうということはないがなっ!』
『よし、祝福かけたら出るぞ』と、周りを見渡して状況を確認したサウドは、自軍に祝福をかける為、杖を掲げる
「ヒィィ、化け物!」「うあああ!」
聖騎士団にサウドの祝福が施され、これから進軍という時、シキの捕縛に向かった騎士達の悲鳴が響く
「何処へ行こうと言うのかね?」
其処には、粉塵で曇った眼鏡を掛けたシキが平然と立っていた
『馬鹿なっ!無傷だというのか…糞っ!』
憤慨するサウドを無視して眼鏡を拭きだしたシキが
「なにやら人数も増えた事ですし、此方も増やしますか」
そう言いつつ眼鏡を掲げて曇りをチェックしている後ろに黒い5つのモヤが浮ぶと、それぞれの中から瘴気をまき散らしながらリッチとでもいうような見た目の者が現れる
『召喚…なのか?……なんだ…それは……リッチ…ではないのか?』
リッチなのに得物がトンファー、チャクラム、三節棍、鎖鎌で、残りの一体は4つある腕にそれぞれグレイブ、青龍偃月刀、ハルバート、薙刀を持っていて違和感しかない……を見て困惑するサウド
「フフ…それではこのリッチーズのお相手は、其処の貴方達にしてもらいましょう」
シキが言うと、それぞれのリッチの頭蓋骨に目の部分が怪しく赤くひかり機動する
「サウド様から祝福を受けた我らが、あのような魔物に負ける筈がない!全員、よいかぁ!」
「「「「「オウッ!」」」」」
「かかれぇ!」
祝福を受けて無駄に勇気を持った聖騎士達が、これまた祝福の効果で普段の数倍の力を得た事で万能を感持ち、それに拠って陣形も組まずに一気呵成にリッチーズに向う
❲❲❲…………❳❳❳
それを見て横一列に並んでいたリッチーズ内3体が、得物を地面に立て魔法を使う
「ヌウッ、そのような装備の癖に…だがっ、我等は止まらぬ!続けぇ!」
「ほぅ…想像より強化が優秀でっ⁉」
広範囲に発動したリッチーズに因るロックスパイクとでも言うべき魔法で、半数は減らせると思っていたシキはその半数もにも満たない数しか減らせなかった事で、思ったよりもサウドのバフが強力な事に感心し、新たな指示をリッチ達に与えようとした所に、神力を纏わせた剣でサウドが奇襲をかけられる
『何故防げる⁉』
サウドが、完璧にシキの虚を突いた筈の心臓への突きを、剣先を素手で掴まれ防がれた事に驚愕する
剣先を掴んだまま、既に乱戦に入ったリッチーズと聖騎士団を見つつ
「今のは良かったですよ
さて、あちらも盛り上がってきた様ですから、始めるとしますか私達も……第2ラウンドを………」




