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「はぁ、はぁ、はぁ…まっ…まだ…だ……」
左腕とコックピットから上を喪失したブラックナイトを背に、満身創痍の紅一が剣を支えに起き上がる
「はぁ~、まだやるの?…おっとっと……やるんですか?」
両翼が破壊されたドラグーンを背にした紅子が、小太刀で肩を叩きながら呆れた様に紅一を見て言うと”パチン“と指をならす
すると、紅一を囲うようにして浮遊しているキューブ状のビットが4機、姿を現す
「ッ!」
紅一は目を見開きビットと紅子を交互に見て「な…ん…だと…独立型でも…有線でもない……」等とブツブツ呟いた後、心底悔しそうに
「クソぉ…僕のまけだ……」
そう言って涙を流すと気を失い倒れた
「ふぅ…それでは…」
漸く紅一が諦めた事を確認した紅子が、小太刀に魔力を注ぎながら倒れた紅一に近付いていく
「ちょっ、ちょいちょいちょい、なにっ、何する気!?」
「えっ?あぁ…ちょっと、とどめを刺そうかと…」
「い、いや、いや!其処までせんでよくない?」
「しかし…決して消えることない業(黒歴史)と治ることのない病(厨二病)を抱えて生きられて此方が迷惑を被るぐらいなら、いっそ…始末してしまうのが本人にも身内の為にもなるかと……そうですっ、始末した後、詩乃さんが魂を隷属させたらいいんです!どうですか?」
「えっ、其れは無理」
「そうですか…では、二度と復活出来ない様に…」
そう言うと、紅子の持つ小太刀の刀身の根本の方が白く変色しだす
「ちょっ…」
「落ち着け、このっ」
「あだぁ!」
紅子の纏う力の質が変わったのを感じた詩乃は、本当に紅一を殺ってしまいそうな紅子を止めようする
その時、いきなり紅子の後に現れた左門が装備越しに”ゴガァ“と、拳骨とは思えない音をさせる拳を頭に落として紅子を止める
しばらくして、装備ごと頭を抱えのたうち回っていた紅子が復活すると、装備を解き「頭ちゃんとありますよねっ?」等と宣ったのち
「いや〜、あの子の翼をやられてカッとなっちゃって…テヘッ」
と、ドラグーンを見ながら言い訳をする
「あぁ…まさかあの2体があんな兵装持ってるとはな…」
あの2体とはイチとニィイの事で、紅一に依る何度かのバージョンアップにより、初期の頃よりも何倍にも強力になったあの爆弾の威力を、指向性を持たせて圧縮して2体がブレスの様に吐けるか試験的に装備していた物を、2体は紅一のピンチを救う為に使用した
結果、2体は大破しドラグーンを破壊するには至らなかっが、防御に使った翼を破壊する事には成功する
「思わずつい此方も、本気ブレス使っちゃいました…まぁ、何故かコックピットは無事なんですけど…」
「いや〜、失敗っ失敗」と、頭を掻いている紅子は、2体のブレスにより翼を破壊された事で本気モードになり、使うつもりのなかったドラグーンのブレスを使用してブラックナイトを破壊した
その後は、お互い機体を降りて戦うが、本気モードの紅子が隠蔽したビットを初手から使った事で、紅一は手も足も出なかった
「あんだけ粘った割に、何故かあっさり諦めたよな…
というか、アレなんかデカく成ってない?それにあのコクピット、あとブレスなんか装備して無かったような気がすんだけど?」
「ん〜、私のファンネル?ビット?を見て勝て無いとか思ったんじゃ無いですかぁ…多分……後、あの子はなんか徐々に成長してる?っぽいみたいな事をシキさんが言ってましたよ、なんでも生物に近い性質を持ってるみたいで、だからブレスも、名前やら造形とか基になった素材なんかの影響を受けてみたいな?」
もともと幾ら職業で補ったとはいえ、何故か接近戦では紅子に勝てる想像が湧かなかった紅一は、自分の得意分野でもある装備の部分でも紅子が上回っていると感じ、心が折れてしまったのだった
「……なぁ、そろそろ、いろいろ教えて欲しいんだけど?」
「へぇ…バラしてみるか?」という左門の言葉に「ダメです!」と紅子が返している所に、それまで倒れている紅一に哀れみ視線を向けていた詩乃が、左門に向かって問いかける
「いろいろ?」
「そう!なんで此処にいんのかとか、なんでそんなに強いのとか、後のその人はなんなのか!とか、いろいろっ!」
そう捲し立てる詩乃に、左門は面倒くさそうに返す
「えぇぇ…面倒クセェ…まぁけど、シキもまだみたいだし…しゃあねぇか……その代わりお前も話せよ、全部……後から他の奴にも聴くから正直になぁ」
左門から話しを聞く代わりに、自分の事も言わなければならなくなった詩乃は、やはり親子なのだろう、左門と同じ様に
「えぇ…ウチもぉ?」
と、面倒くさそうに答えるのだった
・・・・・・・・・・
紅一と紅子の闘いが始まる頃
地上のダンジョン入口前には、騎士モードもといエルフ化しないギリギリの装備の為、タケヒコ戦の時よりも随分とスッキリとした姿の夕がフェイスマスクで顔を隠し立っていた
「え〜と夜の内に設置したやつは…大丈夫っ、問題ないと……よしっ!では、やりますか」
虚空を見つめ何かを確認した夕の眼前には、持ってる槍のひと払いで戦闘不能になった冒険者が十数人転がっているが、夕にそれを気にする様子はない
「…魔力の充填完了……コアとの接続解除…」
隘路の様になっているダンジョンの入口の先の広場には、これから魔王シノー討伐という目的の為、ダンジョン攻略を開始する筈だった冒険者や各国の軍が準備を整え集結していたが、先行偵察に出た筈の斥候系の冒険者数十人が全て倒されているという状況と、其れをしたであろう異様な圧力を放つ槍を携える者の存在が全軍の足を止めるに至っていた
「ギミック展開…」
夕の持つ2m位のシンプルな槍の穂先の下30センチ程が6枚の板のように別れ穂先を納めると、短くなった槍の穂先に有る結晶の様な物が金色に光始める
「オイ…あれ…」
「あぁ…ヤバイな…」
「どうした!何をしている、さっさと…」
足を止めていた先頭の兵や冒険者が、バチバチと金色に帯電している槍を見て怯んでいると、部隊長らしき男が馬らしきものに跨り進軍を急かしにやって来る
「モード雷…結界発動」
「ぎゃああ…あばばばば…」
夕の言葉をトリガーに、広場を囲う様に設置しておいた複数の結界石から軍全てを包むような雷の壁が現れ、近い位置に居た者達が次々と感電していく
「それでは…恨みはありませんがっ……いっけ、雷槍!」
夕が、言いながら上空へと槍の投擲を行なうと、槍を中心に敵の上空に積乱雲が一気に現れ、雷と共に帯電した槍が結界の中央に向い落ちていく
「あ……」
軍の中央にいたどこぞの国の王太子が、その光景に上を見上げて呆然と何かを言いかけた時には、槍が眼前の従者の上半身を消し飛ばし地面に衝突する
「あっ…ヤバっ…」
衝突と同時に槍を中心に半径5メートル程が蒸発し、発生したプラズマでより広範囲の敵が消し炭にる、更に本来の効果である高電圧が周囲の結界石に向けて全方位に放たれると、結界に因って逃げ場の無い敵はまさに阿鼻叫喚といった様相を呈していた
「は…ははっ…し〜らない…」
槍の制作者…シキから受けていた説明に無い効果まで発生させ、敵のおよそ三分の一を消し炭にし、大半が死ぬか感電に因って行動不能になるかの被害を与えた夕は、その結果に乾いた笑み浮かべ現実逃避をはかるのだった……




