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「エリさん!何やってんのっ、早く回復!」
「えっ、でっ、でも…」
「ちっ、いきなり出て来て調子に乗りやがって…あん、おいっ!強化が切れてんぞっ」
「でも、回復…が…」
「ああっ、そんくれぇ死にぁしねぇよ!こっちが先だっ…早くしてくれよっ、いい所なんだからよ…」
「はぁあ!お前っ、ふざけるなよ!どう考えても僕の回復の方が先だろっ」
僕、紅一という敵の前で、大声でそんな悠長なやり取りをしながらも、一人以外はしっかり僕を警戒しているなかなか有能そうな5人組を、僕は無人の廃家の上から見下ろしている
「やっぱり…あのエルフの人……っと」
5人の中で、一人だけ畑違いな感じのエルフの女性を、既視感と共に観ていると、軽装の猫耳の女の子から、浄化系の攻撃が飛んで来たので咄嗟に避ける…けど
「僕自体は生身の人間だから、べつに浄化系の攻撃とか当たった所でっ」
“ギンッ”
(((ギャアアアア……)))
そう、フェイスマスクの中で呟いていると、今度は背中に大きな盾を背負ってゴツイ弓を構えたドワーフっぽい低身長のこれまた女の子(髭はないよ)から、矢?(僕のイメージの矢よりだいぶ太くて長いけど)が清浄な光を纏って飛んで来たから、手に持った黒く禍々しい剣で弾いたんだけど…
「あらら…2割ぐらい浄化されちゃってるよ…やるね…」
詩乃の奴とエイイチさんの悪ノリで産まれた、僕が持たされているこの呪われた剣の所以ともいえる数多の怨霊の内2割が、一回の攻撃で浄化された事に僕は素直に相手を称賛する
ちなみに、この剣の効果は、振る度に怨嗟の声を上げる、打ち合うと悲鳴を上げる、斬られると傷口から一定時間、罵声が聞こえるの3つだけで、剣に魔力を込める事で音量が上がるだけというネタ剣だったりする
「おらぁ!」
ショタエルフが大剣を振り降ろすという、それ以外にも髪型がドレッドだったりと、いろいろ詰め込み過ぎた相手の攻撃を、足を引き半身になることで躱し…
(なんでぇおれだけぇぇぇ)
「くっのぉ!」
(((イヤァァァ)))
「なっ、いったっ!」
(オイオイ、斬られてやがるぜ、プークスクス)
半身になるままに剣を振り抜くと、叫ぶ斬撃をショタエルフには大剣を無理矢理引き上げるという力技で防御されたけど、密かに背後から僕を狙っていた忍ばない系の忍者っぽい格好の拗らせ少年の腕を斬りつける事には成功する
「クソ鬱陶しい剣だな!」
(ヒッヒッヒ、ダセェなオメェ)
「煩いっ、僕はダサくない!」
そんな事を言いつつ僕から距離をとる二人に残りの三人も合流するのを見て、僕も演技を始める
「そろそろ私からの行くぞ…」
僕は自作の鎧に魔力を流し、ギミックを発動させる
シンプルな黒い全身鎧が、昔のモビルスーツがリファインされる様に、洗練されたデザインに変化し、変化の際展開した鎧の隙間は真紅に輝く…別にコレに因って性能の変化等がある訳ではなく、ただ単に見た目が格好良くなるだけ(僕主観)…鎧になった僕は、今度は剣のギミックを発動する
((((((イィィアアアア…))))))
柄をスライドさせて伸ばすと顕になる、意味ありげな模様の付いた部分を眼前に構え、魔力を通すと模様が赤く脈打ち、模様が刀身を浸食していくのに合わせるように怨霊どもが一斉に怨嗟の叫びをあげる
「いやぁぁ…」
「おいっ!くっ、ちくしょうが…」
「ぼぼぼぼっ、僕が、ひぃっ…」
「くぅぅぅ…」
ドワーフの娘が耳を押さえて蹲り、ショタが其れを介抱しようとして動けず、少年が粗相をして、猫耳っ娘が障壁で耐えるという絵面に
「あれっ、コレっていわゆる恐慌状態ってやつ?おかしいな、見た目重視なだけでそんな効果無いはずなんだけど…ん?」
後から詩乃に確認したら、ボリュームを上げる為に剣に魔力を通すと、怨霊達がさらなる苦痛を感じて普段より大声で叫ぶらしく、その副次効果で叫びに魔力が乗って魔法として成立したみたいなことを言っていた
思いがけない剣の効果に、僕が戸惑っていると
「……の風よ強き心を…シルフお願いっ、ブレイブウインドッ」
耐性があったのか、独り動けていたエルフの女性が魔法を使う
すると、風が優しそうな女性の姿に変わり、動けずにいる四人を包み込む
「…はぁ、はぁ、無理!転移するわよ!時間かせいでっ」
「ふざけんな…俺はまだやれるぜ…」
「だ、駄目です!みんなやられちゃうですっ!」
「そうだっ、な、なんとか転移迄の時間を!エリさんっ!」
「えっ、わ、解りました!……」
エルフの女性の魔法で、なんとか恐慌状態から脱した四人は、猫耳っ娘がいち早く撤退の為の魔法の準備に入って、大剣を構えるショタを抑える様にドワーフっ娘が大盾構えると四人を守る様に障壁が展開された
四人と僕の間に独り残されたエルフの女性は、少年からの勢いにその場で魔法の為の詠唱に入った
「…”魔王シノー“の、側近たる、この暗黒卿たる私の力…特とっ、思い知るがいい!」
「おまえがっ!?」
少なくとも、間違いなくあのエルフのお姉さんは同郷だし、おそらく後の四人もそうなんだろうと思うから、このまま見逃しても良いんだけど…
僕と同じ様に、詩乃にも黒歴史をプレゼントする為の、僕の地道な広報活動の一環としてもう少し印象付ける事にする
(((((((フッハハハ…お前を蝋人形…))))))
僕は、気に因って身体強化された体で剣を横に払うと全剣技で剣圧を飛ばした…んだけど、
剣圧だけを飛ばした筈が、何故か怨霊も同時に飛んでちゃったんだよね…叫びながら
「えっ?聖飢魔…あっ、きゃああ!」
風の障壁で、僕の剣圧から四人を守っていたエルフのお姉さんは、怨霊の叫び(エイイチさんが仕込んだネタらしい)に気を取られ、障壁が疎かになり吹き飛ばされた
「うぅぅ、まだです?…嫌ぁですっ、蝋人形にはなりたくないですぅ!」
「ぐうぅ…くっ…そぉ…すまねぇ…」
「も、もう、も、もたないぞっ」
「…捉えたっ!エリさんゴメンっ、転移ぃ!」
四人は、猫耳っ娘の準備が終わると、エルフのお姉さんを回収する事なく転移していった
「クックック…これでまた魔王シノーの名前が広がるよね…クックック…ん?」
(あ、あの…暗黒卿様、おっ…お力をお貸し頂き、ももっ、申し訳ございません!…どど、どうかお慈悲を…どうかっ、どうか!)
気配を感じて、振り返った僕の目に、仰向けで異様に長い手足で蜘蛛の様に這いつくばって、衣服のない場所に見える複数の眼球がギョロギョロと忙しなく動き、首を逆さにした元貴族の娘らしい異形が、バッタンバッタンと命乞いをしている姿が入る
なんてものを創ってんだよっ、と思いながら僕は
「フンッ、目的のついでだ…私にその気はない、それよりも敵も退いた……姿をなんとかしろ…」
貴族の娘に、暗黒卿というキャラを維持しながら言う
(お、おぉぉぉ…あっ、あ”りがどう…ござばすぅぅ)
貴族の娘は、僕の言葉にいろんな眼から涙をたれ流して、またしてもバッタンバッタンと感謝をし、感極まったのか触手まで生やし(ぉぉぉ…)と、触手の先にある顔も泣き始めた
僕の持つ剣より余っ程この娘の方が、SAN値的にきついだろうと思いながらも
「聞こえなかったか?」
と、僕のSAN値的にも姿を変えさせる為に促した
(ももももも、申し訳ございません!)
”ベキョ“とか”ゴキョ“と、音を立てながら慌てた様子で、身体を変化させて行く貴族の娘を見て思わず
「コレが一番キツイかも…」
そう呟いた…
「ふぅ…先程はとんだ無様を…改めてご慈悲感謝致します」
1分程の時間で変化し終わった貴族の娘が、そう言いつって頭を下げた…
「う、ウム……そうだった…魔王からの指示で前線を領都から、辺境の街まで下げて戦力を厚くするとのことだ心せよ」
さっきの姿からの余りのギャップに、多少どもりそうになったけど、当初の目的だった、皆で考えた方針を魔王…詩乃からの指示として伝えるという目的は達成できたと思う
(まあ!魔王様からの…分かりましたわぁ、では、皆を引き連れ引く事に致します…ところで暗黒卿様)
「ん?なんだ」
(あちらで倒れているエルフなのですが、わたくしが頂いてもぉ…)
「なにっ!……い、いや、アレは魔王への贄として私の方で回収する…よいな…」
(はっ、はいっ、それはもちろん!そ、それでは失礼します!)
魔王と聞いて、光悦とした表情になった彼女に若干引いていると、あろうことか舌舐めずりしそうな感じでエルフのお姉さんを要求してきたから、つい、気が漏れちゃったからか、彼女、慌てて去っていっちゃったよ…
「………さてと、僕もお姉さんを回収して帰りますかぁ…」
”ピュッ“と、指笛(必要無い)を鳴らしてイチを呼んだ僕は、エルフのお姉さんを回収してダンジョンに帰還する為に騎乗した
「そう言えばあのショタ、僕が名乗ると「お前が!」とか言ってたなぁ…ププッ、よしよし、二年に渡る僕の地道な活動の成果が出てるね」
イチをダンジョンに向けて走らせながら僕は、事実を知って悶絶する詩乃を思い浮かべてほくそ笑んでいた




