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「なんか手掛かりがあればえぇけど…」
俺は、詩乃の行方の手掛かりを求めて、実家の近くにある神社の境内に続く階段を登っていた
「本当にこの石が身体の身代わりになったのか?」
階段を登りながら、手に持ったライターほどの大きさの黒く細長い石を見る
今は黒くなってしまったこの石は、俺が子供の頃、境内の裏の斜面にある横穴から拾って来たもので、元は結構濃い藍色の石だった
いま考えると不思議だが、何故かその石の事を捨てる気になれず、拾ってから今に至るまで割と肌身はなさずその石を持っていた
シキとシモンの考察では、オリジンの質量と、部屋のソファの下に落ちていたその石の他には、部屋になんの変化も無い以上、石の何らかの力が働いた可能性が高いとのこと
なので、石を拾ったこの場所に行けば、停滞している現状になんらかの変化が起きるかもと思い、此処まで来たのだ
「もうひと月か…シモンの解析も、もう暫く掛かるみたいだし…俺の出来る事はとりあえずやったしな、此処でなんか解ればえぇけど…」
そう、あの日からひと月、俺達は予定を変更して詩乃の救出を主目的に動く事にしていた
東京で、とりあえずドアを設置する為、即、入居可能な物件を不動産屋で適当に探して、契約してドアを設置してから部屋へと戻った俺は、皆にいきさつと俺と❲私❳で出した考察を伝えた
ニュースの概要と、どうやら巻き込まれたらしい娘の事を聞いた皆は、❲フフッ、許せませんね…❳とか『報復プログラムを構築します』とか❲殲滅モードに移行します…ニャ❳等と、各々が不穏な空気を纏い出したのだが、その後の考察などの話しである程度の納得が得られたのか、その空気も霧散する、それを踏まえてシキが言った
❲……なるほど解りました、❲私❳がそう言うのなら生存の可能性は相当に高いのでしょうから、私達は詩乃の捜索をメインにしつつ行動する事にしましょう…❳
❲まず、左門とクロは、詩乃が召喚された現場に行き、どんな事でもいいので、その残滓なりなんなりを確認なり確保して下さい、それから…❳
シキからの指示で、俺とクロは現場に向かう
「あの女のメールだと確かこの辺の…おっ、あそこか」
その場所は、コーン等を置いて一応の封鎖が施されていた、が
「警察とかはいないみたいだな…チッ、花なんか置きやがって…はぁ、まぁいい、クロ頼む」
幾つか置かれている花を見て不快になるが、生きていることを知らないのだからと、気持ちを入れ替えて調べる為、クロに頼む
❲ニャ❳そう鳴きクロは封鎖された場所に近づくと、暫くはコーンに頭を擦り付けたり、アスファルトに背中を擦り付けたり猫らしい動きをしていた
そのうち今度は、幾つかの場所でさり気なく神力をアスファルトに流して反応を見だすと、ある一点で反応が起きアスファルト側が薄っすら発光しだす、その様子を離れて見ていた俺は、猫を心配して駆け寄る様にしてクロに近づく
「クロっ!」そう言いながら封鎖内に入らない様に手を伸ばしながら素早く薄く光るアスファルトを見る
「…良しっ、記録した」体内のナノマシンに干渉する事で、義体の時と同じ様に視界内でいろいろ出来る様にしていたので、見るだけでアスファルトにある魔法陣を記録する事が出来た
魔法陣を記録した俺は、トコトコと戻ってきたクロを抱え、保険として魔力で隠蔽を発動してから帰路についた
それからは、シモンとクロは俺とクロが回収してきた魔法陣の解析などを、シキと俺はいろいろな検証の為動く
そんななか
❲次はあの二人を戻しましょう❳
今回の事には関係なさそうな事をシキが言うので、何故か問うと、
❲いちばんは、人手の問題ですけど、一応、因果関係とかを検証する為でもありますね、あの二人の血縁にも被害者がいるかどうかの、まぁ、いまの私達には詩乃の事で出来るのは、あちら側を闇雲に探すか、シモンの解析を待つぐらいしかないですからね、あぁ、五郎の事は無視でお願いします❳
その説明に俺は、それもそうかと納得した
ならばと、まず二人を戻す事にした俺とシキは、準備の為ドアを使い東京の部屋に行く、シキが取り出したルービックキューブの様な物を部屋に置くと、一辺が250cmぐらいの立方体になる
❲簡易領域です、そして此処に…❳
そう言って、転送用のマーカーを簡易領域の中に設置する
❲これで、此処に直接、二人を送れます❳
と、いうことらしい、
「そんな物があるんなら…」そう呟くと、俺がこの部屋を借りに行ってる間にシモンと作ったと言われた
準備の終わった俺達は、サクッと二人を着替えさせこの部屋へ連れて戻り、簡単に経緯などを説明し追い出す
❲…なので、二人は血縁を中心に調べてみてください、鎧経由なら私に繋がる筈です、…それでは行きなさい、早くっ!❳
「…えっ、はっ、はい…」
「え〜と、もう少しそのぉ…わかりました」
帰還の余韻も無く、いきなりそんな説明を一方的にされ、夕は少ししょんぼりして、紅子は何か言いたげに俺を見るが、俺がひらひらと手を振ったことでむくれて、二人は帰っていった
だが、後に俺は、俺が紅子の事を侮っていた事を痛感する
その2日後シキが、夕から連絡が有り、夕は知らされてなかったが、家族は海外に旅行に行ってたらしく無事だという、逆に連絡のつかない夕が巻き込まれたのかと、旅行を切り上げて帰国していたらしく、言い訳が大変だったらしい事を伝えてきた
俺は、それじゃいまいち判らんなと思うのと、珍しく紅子の連絡の方が後なんじゃな、ぐらいにしか考えていなかった
それから、更に3日経った日
ピンポーンと、インターホンが鳴った時シキが、
❲なっ!❳と、珍しく俺の部屋でしていた作業を中断して、もうどのくらいバージョンアップしたか解らないリッチの義体の顔を上げるのを見ながら、俺はインターホンの画面を見る
「なっ!」そこには笑顔でカメラに手を振る紅子が映っていた
❲クッ、せめてあちらの部屋だけでも…❳
いきなりの紅子の来訪に、俺が呆然としていると、シキは何やらシモンと念話でやり取りする、すると部屋に繋ぐドアが消えていく
❲ふぅ、間に合いましたか?❳
そんなシキの言葉と同時に、ピー、カチャと、ロックの解除音が聞こえてくる、「まさかっ」と、音がした玄関に顔を向けると
「報告に来ましたぁ」
サラリと解錠してのけた紅子が、そう言いながら、玄関のドアを開け入って来た
「お邪魔しますね〜」靴を脱ぎながら言う紅子を、俺達は何も言えずに見ているだけで、さっさと部屋へ上がり込んだ紅子は、俺達の前まで来て正座すると腕時計で時間を確認する
「フッフッフッ、私の勝ちですねっ…ひっ」
そう言って、紅子は意気揚々とシキを見るが、初めて見るシキのリッチverのフードの奥に見える顔に、若干おびえている
「そっ、そんな顔し、しても、だっ、駄目ですよ!」
俺の足に縋り付いて、シキから隠れる様にしながらも紅子はそう言う、そんな紅子を見下ろしながら、展開にいまいちついて行けない俺は気になったことを問う
「なんのこと?、なにが勝ちなん?」
そんな俺の問い等、無視する様に
❲…見事です…ですが紅子、貴方…神❲nano❳ver-Bを使いましたね?、私は言った筈です、自力でっ、と、其れを貴方は私が与えた物を使って事を為したのですから、この勝負は引き分け…いえっ、むしろ私の勝ちすらもあり得ますね、だいたい………❳
シキの言い訳?が止まらなくなったので、無視して紅子に詳細を求めた
「え…っと、簡単に言うと、私からその、左門さんにですねぇ、会いに行きたいので、その、住所的なものをですね、あの、教えて欲しいなぁとかですね、言ったらですね…ふぅ…よしっ、言ったら、シキさんが、報告ついでに自力で左門さん達の所まで来れたら、その他の事も許可するとの事だったので、私っ頑張りました!」
そう言うと紅子は、袖を捲くるとアイテムボックスから自分の荷物を取り出し出した
「却下!」
勝手に何してくれとんなと、紅子と今だ言い訳を続けるシキを見ると
「ですよねぇ、あわよくばと思ったんですけど…」
荷物を出す手を止め、悲しそうに俯き紅子が言うが、騙されてはいけない、コイツはそんなタマではない
❲……引き分けなのですから、住所が知れただけで満足でしょう、それよりもさっさと報告して帰りなさい❳
どうしても負けた事にしたくないシキは、とりあえず引き分けで納得することにしたのか、ようやく言い訳を止め紅子にそう言う
「え〜、いえっ!なんでもないですっ」
不満そうな紅子に禍々しいオーラ発したシキを見て、即座に敬礼しながら紅子が返し、続けて
「報告ですが、うちは兄が召喚されたっぽいです」
そう報告する紅子が言うには、二人は一緒に住んでいるらしく、兄の部屋のデスクのメモに走り書きで(いせかい来たコレw あに)と、あったそうだ、それを見て兄の事はとりあえず置いて、親族の確認を取るが召喚されたのは兄だけだった
「それで、シキさんに連絡したら、そういう流れになったので、兄の部屋で自分の全ての能力を使うつもりでいろいろやってたら、魔法陣なたいなのが一瞬薄っすら光ったんですっ!」
❲なっ!まさか神力を…いえっ能力値には無理なはず…❳
「んっ?、で、ですね、その光らせた感覚で力を使うとまた魔法陣が光ったから、何回か繰り返して撮影してきましたっ」
そう言うと篭手を操作してディスプレイを投影すると、そこに撮影した動画を映す
「ん〜、ッ!、これっ、詩乃と同じっぽくないか!」
動画の魔法陣は、光って消えるの繰り返しなので、はっきりとはしないし、詩乃の時の魔法陣もうろ覚えだが、特徴のある部分が同じに見えた
❲解析してみないと何とも言えませんが、おそらくは…、しかし変ですね、光りませんね?紅子、あなた…❳
俺はシキの言葉に、動画を見つつ確かにと思う
「し…の…、誰…ですか…」
さっきからブツブツ何か言っている紅子に、リッチのシキが何やら囁くと
「えっ、はぁ〜、よかったぁ…、どうやってるか、ですか?、ん〜、そうですねぇ、やるってよりもやってもらう感じ?ですかね、こう体の中のナノマシンに、でもこれ、凄く疲れるんですよねぇ」
正気に戻った紅子が、そう力を使う時のコツを言う
❲なるほどそれで、ですか……にしても…ぐぬぅ❳
シキは、どうして紅子が神力を使えたのかは納得したが、(そういえば俺は、紅子がそんなシキの本体ともいえる様な物と同等な、ナノマシンを身体に入れているのを聞いて無いが…)悔しそうに紅子を見ている
「もう用は済んだろ、あっ、報告ありがとう、じゃあ帰れよもう…」
魔法陣の解析を早くしたい俺は、紅子にさっさと帰ってもらおうとそう言う
「わかりました、っと、これだけ」
俺に言われた紅子は、取り出していた荷物をサッとアイテムボックスにしまうとそう言い、部屋を見回し何も置いて無いキッチンに、数種類の物を取り出して設置すると
「あっ、そうだった」と、わざとらしく言うと、ポケットから見覚えのあるカードと数字の書いた紙を取り出す
「これっ、私の部屋のカードと暗証番号です、私も大学があるのでいつでもは居ませんが、連絡をもらえればいつでも来ますから」
そう言って俺に、カードと紙を渡すと
「じゃあ、失礼します」
お辞儀して玄関から帰っていった、俺は手に握らされたカードを見て
「これ…、もしかしなくても此処のマンションのカードだよな…なにっ、こえぇよ!」
俺と同じマンションのカードだった事に、恐怖を感じ
「落ち着け俺、階が違うだけましか…いやいやっ何がましなんだよっ…でも、大学とか言ってたし普段は東京だろ……」
そう、俺が混乱している時に
❲少し焚きつけしすぎましたか?…玄関から出る時もなんと言ってましたか…、この力…もう少し…てん…転移っ…ですか?……これは左門には言わないでおきましょう、その方が楽しそうです、フフッ❳
シキはそんな事を呟いていた
その後は、魔法陣の解析から、紅子の兄と詩乃が同じ魔法陣で召喚された事の確認や、何故か俺が、面倒くさがらないタイミングでしかやってこない紅子(シキには、割と使われていたらしい)の相手などして過ごしていた
この石に気づいたのも紅子だった…
「何かあると良いですねぇ、いちおう家の愚兄にも関わりますし」
そして、何故かメイド姿の紅子と手掛かりを求めて、神社にやって来たのだった




