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「フンッ」
練り上げた気で強化された肉体の右の足裏に魔力を纏わせ、地面を踏み付けるとドンッという音と共に周囲10mほどの範囲の地面を、強い振動の概念の込められた魔力から発生した振動波が拡がるわ
「ギィ!」「グギィ」「アギィ」と振動を発生させた男を囲んでいた3匹の二足歩行する鰐の様な魔物が、強烈な振動に脳を含む全身の内臓を揺さぶられ脚を止める
そんな3匹の様子など伺うことなく、男は新たに魔力を今度は全身に纏うとその場から消える、そして男を囲んでいた3匹の内一番離れた場所にいた1匹の前に現れると、鋭く踏み込み
「ハッ」
と、練った気と踏み込みによる衝撃を合わせ、踏み込んだ左足と同じ左の掌を、魔物の胸辺りぎりぎり触れるか触れないかの位置に突き出す
「グゴォ…」
突き出された掌を受けた魔物はボンッという破裂音と共に胸に大きな穴をあけ絶命する
「クッ、もっと」倒れ込む魔物を気にもせず、己の繰り出した技に納得がいかず苦い表情のまま次の獲物へと襲いかかる
最初の魔物から5m程離れた今だ動けずにいる魔物の右側面に、僅か一歩の踏み込みで移動しその勢いのまま「精密にぃぃ」と、一匹目の時と同じ技を繰り出す
側面から繰り出された其れは、右の脇辺りに触れる
ボッという先程よりも小さく鋭い音と共に、今度は表面を傷付ける事なく反対側の脇が掌大に爆ぜる、更にボコッとその先にある小さな岩に掌大の穴があく
「まだまだ、もっと流れる様に」と体内の気の循環の密度と速度を上げる為に目を閉じ集中する、更に増幅された気で気の密度を高め制御の難しくなったそれの循環に集中する
循環し始めた気が、密度を増した事で体の表面へ僅かだが漏れ始める、その時からだを覆う魔力が、漏れた気からその性質を読み取り、読み取った事で気と同じ性質を持ち始めた魔力が気と徐々に融合し始める
「ぐっ」気の制御に集中していた男は、突然起きた己の変化への対応に苦慮していた
「ギシャャャ」そこに、振動による麻痺から回復した魔物が、その鰐のような大きな口を開け横合から襲い掛かってきた
気の制御に集中していた男は、魔物の接近に気付くのに遅れた事に「チッ」と悪態をつきながらも、振り向きざまに今まさに閉じようしている上顎に向け、払いあげる様に裏拳を放った
パンッと払いぬかれた裏拳の軌道に沿って、魔物の上顎から頭の半分ほどが消失する、両顎に挟まれるよりはと苦し紛れに放った裏拳だったが、その威力に放った男も暫し唖然とする
「ハハッ面白い、制御の不完全な状態でこの威力、それに下顎が接触したはずの場所には衣服にさえ損傷がない」
あの噛みつきによる攻撃は、今まであればいくら気で肉体を強化していようと無傷では済まない攻撃だった、其れがいくら当たったのが下顎だけとはいえ、衣服にさえ損傷が無いのは考えられないことだった
「進化しておおよそ3ヶ月、気はもちろんのこと魔力についてもそれなりに使える様になったと思っていたが、まだ先があるとは…ハッハッハッ実にいい」
その男、五郎はオーク集落を殲滅してからの3ヶ月を振り返る、最初のうちは強そうな魔物の気配を頼りに移動と地球で使うより断然効果の高い気の修行を、実戦と並行して行なっていたが、思考が戻ったことで1月も経つと食事と格好がどうにも気になり始める
食事も最初はゴブリンからの流れで人型だろうがなんだろうが、仕留めた獲物をそのまま食べていたが、人間らしい思考から其れに我慢できずそのうち血抜きから始まり解体までし始めると、火を起こし焼くだけだが料理を行うようになる
しかしそうなると今度はやはり味が気になり始め、せめて塩でもと岩塩を探すがなんの知識もない五郎には当然見つけられるはずもなく
「仕方ない人の村か町を探すか」と、手応えのある魔物の多い当時いた山から人の住んでそうな平原に移動し川か道でもあればそれ沿いに進めばそのうち辿り着くだろうと移動を開始する
山の麓付近に少し大きめな川があったので下流に向い進む事にし、そういえば進化してからの姿を見てなかった事に気づき、川に近付き水面に写る自らを確認する
そこに写し出されたのは「ヤ×トの諸君」などと言いそうな、それでいて前世の若い頃の自分の雰囲気を合わせた青白い肌の顔と大きさは人と変わらないが、エルフの様に尖った耳、進化によって髪も生え今は、坊主が伸びた様な髪型になっている
「ふむ、思っていたより人だな」
体も手と足の爪が尖っていることと胴体部に妙な模様がある事を除けば人とあまり変わらなかった
「これなら町にも入れそうだ」五郎はそう思った
それから暫く川沿いに進むと遠くに橋が見え始め、更に近づくと橋から街道が続いており、自分とは反対側の岸の街道に繋がっているであろう、壁に囲まれた町か見えた
街道まで辿り着て橋を渡る、街道を進みながらふとまだ距離はあるが数十人の集団が街道を此方がわに歩いて来るのが見えた、その集団はどうやらほぼ全てが武装しており何人かが荷車を引いている
五郎はその集団が魔物を狩る、いわゆる傭兵的なものだろうと思った、そういう生業の者がいることは知っている、実際、五郎がまだゴブリンで転送されて間がない頃、とある集落で加齢で死にかけているのを内気功で何とか耐えていた、そこにその傭兵的な人間がやって来て何故か自分の世話をやいてくれていた二匹を含めた数十匹のゴブリンが皆殺しにあった、その時、傭兵達は五郎を見ても生きているとは思わなかったらしく、悪運よくいきのる
その経験から、近づいてくる集団に怒りに似た感情を抱くが、町に入るという目標の為、穏便にやり過ごす事にする




