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佐賀のやばい嬢ちゃん

佐賀のやばい嬢ちゃんepisode.6 ガード下の攻防

作者: 川里隼生

 新地しんち輝夜かぐやはもう一時間も同じ河川敷にいる。

「もう今日は帰ってよくない? こんだけ待っても来ないんだからさ」

 輝夜が隣の女に言うと、その少女は首を横に振った。

「も、もう少し待ってください。今日来るはずなんです」

 輝夜は溜息以上の言葉を出さず、じっと待つ作業に戻った。


 輝夜の隣にいる少女は西山にしやま須美すみ。佐賀市内に住む中学二年生で学級委員長を務めている。同じクラスの田上たがみ康雄やすおが違法薬物を買っていると知り、更生を促すために賞金稼ぎの輝夜に協力を仰いだのだ。

「あっ! 康雄くん!」

 須美が橋の陰を指差した。一人の男子中学生と、肉付きの良い男が立っている。


「……ふぅーん」

 輝夜は橋の陰の様子を観察する。

「なるほど。君が出て行ったところで、あの男に蹴られるだけで終わっちゃいそうだね。あたしとしても薬の密売人は警察に高く買ってもらえるからありがたいし、あわよくば……。よし、乗った。ちょっと行ってくるね」

 輝夜が橋に近づく。男がすぐに気づいた。


「なんだお前は?」

「賞金稼ぎさ。なに売ってるのかあたしにも見せてよ。アイス? チョコ? まあなんでもいいけど」

「え? あ、あの……」

 康雄は急に現れた輝夜に動揺し、輝夜と男を交互に見るしかない。

「お前、俺の商売を邪魔すんな!」

「そう怒んないでよ。アイスもチョコも安く売ってるところ、あたし知ってるよ♪ コンビニって言うんだけど」


「ふざけやがって!」

 男が頭上に拳を振り上げる。しかしそれが振り下ろされるより先に、輝夜の硬い義手による一撃が決まった。男が気を失って倒れている間に、輝夜がスマートフォンで通報する。恐る恐る、須美が現場に近寄った。

「康雄、くん……」

「あ、西山さん……」


「ごめんね。私、康雄くんが悪い薬買ってるの知っちゃって、いけないことだから、その、あの……ごめんなさい!」

「……なんで、なんで謝るの?」

 二人の瞳は涙で濡れていた。

「西山さんは悪くないよ! 全部僕が悪いんだ!」

「はいはい、そこまで」

 通報を終えた輝夜が二人の間に割って入る。


「ところで、今は何買おうとしてたの?」

 康雄が声を詰まらせながら答える。

「アンパンって、言ってました。あの、シンナーのことです。でも僕、結局使ってなくて……」

「あ、使ってないんだ?」

「は、はい。あの、これって持つだけでも有罪ですか……?」

「さあね。弁護士じゃないから知らないよ」

 輝夜は冷たく突き放した。


「康雄くん」

 須美が康雄の手を握る。

「私、もし康雄くんが教室に戻れなくなっても、康雄くんのこと忘れないから。手紙、書くから。だから……もう、こんなことはやめて?」

「うん……本当に、ごめんなさい……」

 パトカーのサイレンが聞こえてくるまで、二人はずっとそうしていた。


 パトカーは男と康雄を先に警察署へ連れて行った。警察官たちに聞こえないように、輝夜が須美に耳打ちする。

「薬物犯罪の被害者って、加害者自身だと思うんだ」

「……はい」

 須美の返事は、どこか上の空だった。輝夜はそれを受けて、話を変えた。

「かわいい顔の男の子だからあわよくばあたしのものに、なんて思ったんだけど、ちょっと無理そうだなぁ」

「……え? 康雄くんのことですか?」


「あはは。お金も男も、っていうのは欲張りすぎたなーって」

「そんなこと考えてたんですか?」

 少し怒ったような顔を、須美は向けた。

「好きなんだね? あの子のこと」

「……わかりません。恋は、まだ経験してないから」

 夕陽が照らす川岸で、少女が言う。

 ——恋も、被害者と加害者が同じ事件なのかも。

 輝夜がそれを言うことはなかった。

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