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悪役令嬢は前世の記憶を持つ

 わたしは、いわゆる前世の記憶を持って生まれてきた。ただ流行りの小説なんかにあるように前世の人格まで引き継いだわけじゃなかった。


 三歳くらいの頃から漠然と見聞きしたことのないことを話していたらしい。両親は特に驚かなかった。それもそうだ。この世界はそういう風に前世の記憶を持って生まれてくる人は一万人に一人くらいの割合で生まれてくるらしいのだから。


 この世界が『悪女に捧げる毒花は血のように赤い』と同じ世界で、わたしが悪役令嬢だというのを十二歳の時に思い出した。


 思い出したときわたしは泣いた。第二王子クラウス殿下主催のお茶会の最中だったがたまたま庭を散策している時、木陰で花を見ている時の唐突な記憶の蘇り。わたしはこのままでは処刑されてしまうと泣き喚いてしまった。


 それを第一王子のオーク殿下が第二王子殿下の様子を見にたまたま庭にいてわたしの泣き声を聞いて駆けつけてくれた。泣き喚くわたしを彼は優しくなだめてくれた。何が理由で泣いていたのか優しく聞いてくれた。


 わたしは説明した。わたしが前世の記憶を持っているのは有名だからオーク殿下も信じてくれた。ただゲームというのがわかりにくいだろうから物語と酷似していると話した。


 オーク殿下はそうなるとも限らないんだから、と慰めてくれたが、わたしは確信していた。この世界は『悪女に捧げる毒花は血のように赤い』の世界であると。このままではクラウス殿下と婚約して同じ道を歩んでしまうと。


 その時、わたしは悪い考えが浮かんでしまった。『悪女に捧げる毒花は血のように赤い』と状況を変えてしまえばいいんだと。そして、一番変えなければいけないのがわたしの婚約者。第二王子に見初められてしまっても婚約者とならない状況にしてしまえばいいと。


 わたしはオーク殿下の唇を奪った。貞淑観念が強いこの世界だ。子供のしたこと、しかもこちらから行ったことでも女性をキズモノにしたことには変わりない。しかもオーク殿下は二歳年上だけどまだ婚約者がいなかった。もうこれしか方法がない。


 そしてわたしの想定通り、オーク殿下は私を婚約者にしてくれた。正直無礼を働いたと斬り捨てられる可能性も考えたが、殿下は婚約者とすることを選んでくれた。それ以外にわたしの心配を払拭しようと、死亡回避するための対策を一緒に考えてくれた。


 わたしは十五歳になり学園に通い始めた。そこでヒロインの彼女と出会った。彼女との出会いはゲームではわたしが彼女に足を引っ掛けるシーンが描かれていたが、実はこれは彼女がわざとわたしの足を踏みつけて転んだのだ。わたしが痛みで苦悶している間に彼女はわたしに足を引っかけられた、と泣き喚いていた。


 しかしわたしはこうなることをもちろんわかっていたため、複数の目撃者をオーク殿下にお願いして配置してもらっていた。だけどその時には指摘しなかった。今指摘しても結果は変わらないと思ったから。これから起こる被害をすべて目撃させて、あの断罪の日に証拠を並べるのがわたしの死亡回避するための最大限の対策だった。


 そして、その日が来た。わたしは一週間前に彼女と共に階段から転がり落ちた。もちろんそれも彼女から仕掛けてきたことだ。このころには彼女が何も言わなくてもわたしがすべて悪いんだ、という雰囲気が出来上がっていた。


 わたしの怪我は大したことなかったが、演出のために頭と肌の露出する手に包帯を巻いてもらった。実際たんこぶは出来たし、切り傷もあるから嘘ではない。


 そしてオーク殿下に寄り添われてクラウス殿下の断罪を聞いていた。少し気になるのは彼女の様子がおかしいこと。階段から落ちてからの一週間も特に何もしてこなかった。もしかしたら彼女も前世の記憶を持っていて、あの時に蘇ったのかしら?だとしたらトゥルーハッピーエンドを狙ってくるかもしれない。


 いや、事の重大さに気が付いて慌ててるのかもしれない。ゲームと違ってわたしは第一王子の婚約者。彼女はこの断罪の後に攻略対象と婚約を交わすから今は一貴族にすぎない。確か伯爵家の令嬢だったかしら。わたしが第一王子の婚約者じゃなくても公爵家の令嬢のわたしを階段から突き落としたらまわりがわたしが悪いと言っても気が気じゃないでしょうね。


「カナ、君はアマリリス嬢に嫌がらせを受けた、そうだね?」


 クラウス殿下の彼女に対する問いかけが始まった。ゲームではここではい、いいえの選択肢が出る。否定しても何度も同じことを聞かれるからまさかここがターニングポイントだと誰も気付かなかったのよね。


「い、いいえ…」


 驚いた。彼女は否定した。本当に前世の記憶が?でも助かりたいからかもしれない。最後まで気を抜かないでおかないと。実はあのゲーム、シークレットエンドがもう一つあったの。トゥルーハッピーエンドを見た後にもう一度トゥルーハッピーエンドの道をすすむと最後の最後の質問が変わっていてアマリリスから問いかけられるの。それを間違えるとトゥルーバッドエンド。ヒロインが暴れ回ってアマリリスを殺してしまう悲しい結末。これはなかなかネットに上がらなかったから知らない人が多いかもしれない。わたしも久しぶりにプレイしてわかったくらいだから。


 彼女は罪を自白した。オーク殿下が口を開き、低く冷たい声が響いた。わたしは前に出る。


「カナ様、何でこんなことをしたのですか?」


 これが最後の問いかけ。この問いにどう答えるかが選択肢。羨ましかったか妬ましかったか…


「わたしは…わたしはあなたが羨ましくて!!だからこんなこと…」


 ヒロインは私を妬んでいた。公爵令嬢でゲーム上では第二王子の婚約者であった私を学園で出会う前から妬ましく思っていたらしい。十二歳の時のお茶会にも参加していたという。その時挨拶もしたらしいけど全く記憶にない。


 これはトゥルーバッドエンドで知らされることではなく、最初からヒロインの部屋の日記帳に書かれていたことだ。もっとも隠されているものだし、これを見なくても特に問題ない要素だったらしいけど。


 前世の記憶は置いておいて、彼女は嘘をついた。嘘をつくともちろんトゥルーバッドエンドになるのだが、わたしはその対策も考えている。


「ふぅ…カナ様…顔を上げてください。」


 わたしは彼女に向かってほほ笑んだ。ただその時のわたしのほほえみは冷たいものだっただろう。話を信じて彼女に近寄ってしまうとわたしは刺される。このまま彼女と距離をとるしかない。


「そうですか。羨ましい…それでこんなことをされては命がいくつあっても足りませんね。それでは後の事は皆様にお任せします。」


 わたしは軽くお辞儀をして振り返り、その場を後にする。オーク殿下が兵士に指示して彼女と攻略対象者たちを拘束させる。彼女は何かをわめいているけど、わたしの死はこれで回避されただろう。彼女はこれからどうなるのか、ゲームと違う展開だから見ものだわ。


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