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ヒロインは前世の記憶を持つ

「アマリリス・クラスター嬢、お前は兄上の婚約者としてふさわしくない!!婚約破棄をしてもらおう!!」


 ああ、とうとう始まってしまった…差異が多少あるけど、やはりここは『悪女に捧げる毒花は血のように赤い』の世界。


 声を上げたのは攻略対象の一人、第二王子のクラウス殿下。それ以外に私の周りには側近候補のライラ、オタク科学者のミルド、騎士団にも所属しているドライアス、アマリリスの従弟のウォルフが私を守るように立っている。


「アマリリス嬢、お前はここにいるカナ・イタムア嬢を階段から突き落とし、馬車に細工し事故を起こさせ、何人もの男に彼女を襲わせたりと数多くの嫌がらせをしていたな!そんな奴が兄上の婚約者としてふさわしいと思うのか!!」


 クラウス殿下に婚約破棄をするよう言われた悪役令嬢のアマリリスは頭や手に痛々しい包帯を巻いている。これは前世の記憶との違う。なんで彼女は第二王子ではなく第一王子のオーク殿下の婚約者になって、あんなに怪我を負っているの?…いや、怪我の原因はわかっている。私が悪いんだ…


 『悪女に捧げる毒花は血のように赤い』は前世でプレイした同人乙女ゲーム。これは本当に炎上した作品だった。タイトルは異常だがプレイすると普通の乙女ゲームだった。しかし普通のプレイでは到達できないエンドが存在した。それを見ようと躍起になる人が多数存在し、興味本位でプレイする人も増えた。


 そして発売から一年後、その方法がわかった。それは悪役令嬢の断罪シーンで、わたしが罪を認めることだった。


 そもそも悪役令嬢のアマリリスは何もしていなかった。私の自作自演。彼女を悪役令嬢に見立てて攻略対象に接触するのが目的だった。


 これが公開されたとき炎上した。しかし製作者はいたるところにヒントを残していた。ただその隠し方が巧妙で、いくつかはセリフのウィンドウを消さないと見えないところに配置していた。


 そのせいで乙女ゲームをやる奴なんかは頭が悪いからわかるわけないだろと違う方面に飛び火したり、製作者を脅迫したりするものがネットを賑わせた。


 落ち着いたのは製作者の一人が自殺したためだ。そのニュースが発表されると水を打ったように静かになった。わたしはそれを見て怖くなったのを覚えている。


 一番疑問なのはゲームでは彼女は第二王子の婚約者だった。だけど今は第一王子の婚約者。その第一王子はアマリリスの肩を抱いて側に立っている。なんでそこが違うの?全くわからない。一週間前に前世の記憶を取り戻したときから混乱している。わたしがした数々の悪事はゲーム通り。アマリリスが怪我をしているのは彼女の冷めた態度にイラついてわたしと共に階段から転がり落ちたからだ。わたしはその時前世の記憶がよみがえった。ただ、ゲームでは包帯を巻くほどではなかったはず。本当はそれほどひどいけがだったってこと?


「カナ、君はアマリリス嬢から嫌がらせを受けた、そうだね?」


 王子の問いかけにはっと我に返る。考え事をしていて王子とアマリリスの会話を聞き逃してしまった。だけど関係ない。ここがターニングポイント。ここで彼女の無実を言えば真のエンディング、トゥルーハッピーエンドに到達できる。


「い、いいえ…」


「聞いたか!?貴様がいかに否定しようとも…カナ?今なんて言った?」


「わ、わたしは…アマリリス様から嫌がらせを受けてはいないです…」


 会場がざわめき始める。


「お、おいおいカナ…だって君はアマリリスから嫌がらせを受けているって私に相談して…」


 クラウド殿下が私の肩を掴み言う。


「ご、ごめんなさい…殿下とお近づきになりたくて…」


 わたしは顔を伏せながら言う。


「そ、それじゃあアマリリス嬢に対抗しようと一緒に訓練したのは…」


 騎士のドライアスだ。


「それもドライアス様と話がしたくて…」


「アマリリス嬢から毒を盛られたことがあるからその解毒剤を一緒に作ったのも…」


「み、ミルド様をお慕いして…」


「アマリリスがオーク殿下に進言して我が家の取り潰しを企んでるというのも…」


「ウォルフ様がアマリリス様のそばにいるのが嫌だったから…」


「アマリリス嬢がオーク殿下の財産を食いつぶしているからと一緒に調査したのも…」


「ライラ様なら予算帳簿を管理しているからわたしが横領できないかと思って…」


 会場のざわめきが聞こえてくる。顔を上げてないからわからないけど、攻略対象たちはみんなドン引きだろうな…


「さて、我が婚約者のアマリリスは特に何もしていなかったようだ。むしろこのような怪我をさせられた被害者だったというわけだ。」


 オーク殿下の低く冷たい声が会場に響き渡る。


「ご、ごめんなさいアマリリス様!!」


「カナ様、何でこんなことをしたのですか?」


 アマリリスが優しく問いかけてくれる。


「わたしは…わたしはあなたが羨ましくて!!だからこんなこと…」


 わたしは涙を流す。我ながら名演技だ。ゲーム通りのセリフを言っているだけだが涙を流すのは一週間猛練習してなんとか出来るようになった。


あとはアマリリスが深いため息をついて許してくれるシーンになる。そうすればすべて丸く収まる。アマリリスも第一王子と結婚するだろうし、わたしはまあ、どこかの教会に修道女として送られるだろうけど死ぬことは無い。そこでつつましく暮らそう。


「ふぅ…カナ様…顔を上げてください。」


 アマリリスがわたしに声をかけてくれた。セリフが違うけど、もうそれくらいの違いなど気にしてはいけない。顔を上げればアマリリスはきっと笑顔で微笑んでくれている!!


「はい!アマリリス…さ…ま…」


 うそ…微笑んではくれている…でも…でもなんで…なんでそんな冷たいほほえみなの…わたし、何か間違ったの?悪役令嬢はわたし、それは認めるから…そんな冷たいほほえみ向けないで…


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