お墓参り
ようやく、船吉達は洞穴の最深部に到達した。そこには、船吉の家族が埋められている。船吉はそこに入って一人一人の事を思い浮かべながら静かに座った。タビトと清はその様子をじっと眺めている。
「どうして、船吉達だけこんな深い所に居るの?」
「僕達の一族が特殊なんだと長老は言っているが、詳しいところは僕達も分からない。」
船吉は立ち上がって洞穴を歩いて行った。船吉の足は速く、すぐに先程まで居たその空間が見えなくなっていた。
「ただ、噂話で僕達が呪われた一族だというのを聞いた事がある。僕らのご先祖さまが初めてこの地に訪れ、そこから村が出来たのだと。」
「そうなの?」
「そして、海神様と接触出来るのも僕達だけで、それで生贄にするのだという話も聞いた事がある…。」
船吉は不確かな情報を振り返りながら考えていた。長老から直接話を聞いた事はないが、自分が生贄になる瞬間が近づいていると思うと、その噂話も合っているような気になる。
「そういえば、タビトの一族は死んだらどうするんだ?」
「灰を海に流すよ。山の事故の時はその山に埋めることもあるけど…。僕達はずっと旅をしているから、一族の決まったお墓はないかな。」
自分達がこの地に縛り付けられている一方で、タビトの一族は旅に縛り付けられていると船吉は考えた。
船吉は更に歩いて洞穴の外へ出た。そして、また別の場所へ歩いて行く。日は高くなっていて、人通りも多くなっている。船吉は、タビトを隠しながらその場所へ向かっていた。
船吉が向かっていたのは、小さな社だった。海辺に佇むその社には、『海神』と彫られている。
「こんな所に神社?」
「洞穴に居る海神様がここに祀られている。」
船吉は、祭殿ではなく、その奥にある本殿の中に入っていた。その中には、海神様に関係するものが集められている。
「これは…?」
幽霊の清が見たのは、恐ろしい形相をした魚のミイラだった。魚なのに今にも叫びそうな顔をしてこちらを睨んでいる。
「一体なんだろうな」
そのミイラの他には、海神様に関する書物や、彫刻があった。
だが、清はそれには目を暮れずその魚のミイラをじっと見ていた。余程気になるのだろうか。
「どうして、この魚だけミイラになってるのかな?」
「さぁ?少なくともこんな魚を僕は見た事が無い。」
船吉は書物を開いて読み始めた。すると、その中盤に気になる事があった。
『海神様は、神様なんかではない。』
「どういう事なんだ?」
船吉はその一文が気になってその書物を読み始めた。