姉との再会
幽霊になった船吉の姉、清は、船吉の元へやって来た。
「どうして外の子を連れてるの?」
「流れ着いたんだ、僕が保護している」
「そうなの…」
清は背後を振り向いてこう言った。
「私は死んだけどあの先には行けなかった」
清の目はどこか悲しそうだったが、それは船吉にしか分からなかった。
「あの先って?」
「魚姫が居る所」
「魚姫…?」
清は注連縄の先を見てこう話し出した。
魚姫とは、どうやら村の民達が海神様と呼んでいる存在のようだった。神と呼ばれる存在が本当に居る事にも驚いたが、それ以上にその存在が女の姿をしている事にも驚いた。
「魚姫は半分魚で、半分人の姿をしているみたい」
「という事は人魚?」
「見た事ある人の話によると、そうではないらしい。生贄にされた人は魚姫の所へ向かって魂を喰われるらしいけど、私はそこへ行けなかった」
清はそう言って一人歩き始めた。
そして、船吉は清と共に脇道に入った。しばらく続いた道の先には、先程よりも狭い空洞がある。その中には半分くらい土に返った白骨死体が晒されている。どうやら、生贄にされた人が居た場所だそうだ。
「どうして、こんなに沢山の人を生贄にし続けたの?」
その場所をずっと見ていたタビトはそう呟いた。
「そうなる事で村人達は幸せになると信じているからだよ。それ以外の事は知らない。」
何故村人達は海神様に生贄を捧げ続けるのか、船吉達は何も分からなかった。実際の所大昔からそうだったようだ。長老が幼い頃も、その父親が生きていた頃も、同じように洞穴に連れられる人を見かけたそうだ。
大昔、この地に初めて人が訪れた時には開けた場所だったはずだ。いつから他の村と閉ざされた場所になったのか。それとも、他の村というものは本当にあるのか、船吉は分からなかった。
船吉は更に奥の方へ進もうとする。
「僕の両親が居たのはもっと先だよ」
船吉と清は歩いていく。タビトはそれを追って走っていく。この洞穴は入り口の狭さの割には広くなっており、分かれ道が幾つもあった。
分かれ道の先はどれも空洞があり、どの空洞にも人が居た痕跡があった。だが、生贄にされた人がここに自らやって来たとは到底思えない。恐らく、捧げた人が死んだ後に、村人達に運び込まれてこの空洞に投げ出されたのだろう。
「随分無造作に扱われるよね」
「ああ…、そして僕達も何れそうなるのだろうな」
船吉はそう呟いた後、更に奥の方へ進んだ。どうやら、今まで見てきた空洞は船吉の家族のものではなかったようだ。
洞穴は奥へ進む度に狭くなっていく。船吉は慣れているのか迷いなく、その狭い道を進んで行った。