外の世界
そして、船吉とタビトは海岸の洞穴へ向かった。夜明けで人気はないがが外は明るかった。二人は洞穴へと進んでいく。辺りは海風の音しか聞こえなかった。その間、船吉はタビトにこう言う。
「誰も居ないから、外の世界の話をしてくれない?」
「外の世界?僕達が旅していた頃の話って事?」
「ああ、聞かせてくれ」
タビトは一瞬戸惑ったが、船吉がどうしてもという事なので、話す事にした。
タビトの一族は一つの場所に留まらず、ずっと旅をしていた。時には山を越え、海を越え、自分達にとって理想の場所を探し続けていた。長い間旅をしているらしく、自分達一族がかつて何処で暮らしていたのかは、誰も知らなかった。
その一族は長い時間を掛けてこの地を訪れたようだった。船吉と出会ったこの村以外にも、村は沢山あった。山に囲まれた村、栄えた城下町、同じように旅をしている人。タビト達はある人から許可をもらって、この地で旅をして良いと言われているそうだった。
タビトは話を一旦止めると、近くにあった棒切れに火を付けた。どうやら、これを灯りにするらしい。
「火を付けるの慣れているんだね」
「うん、ずっとこうしてたから」
「みんなが死ぬ前、よく兄姉達と一緒にここで遊んだなぁ…」
「僕にも妹が居るんだ。寂しくしていないかな」
日が昇りきっても、辺りは静かだった。船吉は昔村から少し外れたこの場所で遊んだものだ。
「外の様子をを知ったから僕はもう死んでもいいかな」
「船吉、そんな事言わないでよ」
「そうだけど、僕はもうすぐあの洞穴で死ぬから」
船吉はそう言って洞穴の方を見つめていた。
そして、二人は洞穴へ辿り着いた。船吉はタビトが持っていた火を持ってその中に入っていく。洞穴の中は幾つも枝分かれした道があって、ある道順で進むと開けた空間に繋がっている。その空間に祠があり、生贄にされた者はそこで死を待つというのだ。
船吉は迷わずそこへ向かっていた。家族で何度も行った為、道順は分かっていた。船吉はタビトを連れて祠へ向かう。
そして洞穴の最深部にその祠はあった。祠の先には注連縄があり、その奥には行けないようになっている。船吉はそこで立ち止まってその先を見ていた。
「ここから先は神の世界だ。家族は皆そこへ行ってしまった。」
「行かないの?」
「ああ、まだ行けない」
船吉はしばらく立ち止まった後、振り向いて来た道を戻ろうとした。その時、背後から声が聞こえた。
「待って」
船吉が振り向くと、そこには小さい子供が立っていた。子供はボロボロの着物を着ていて、膝から下が透けている。だが、タビトにはその子供が見えていない。
幽霊だと船吉は思った。だが、不思議と怖くはなかった。何故なら船吉にはその子に見覚えがあるからだった。
「姉さん…?」
船吉に姉と呼ばれたその子供は、船吉の側にやって来た。