奇妙な風習
先程まで外出していたすずめは、船吉に土産があると言って小包を手渡した。
「そういえばすずめはどこに行ってたんだ?」
「森に行って、山菜を取りに行ってたの。それから、塩を貰った。」
小包の中には、すずめが言った通りの物が入っていた。すずめはそれを取り出して茹で始める。今日の夕飯は、焼き魚と茹でた山菜だ。主食らしきものはない。
「お米とかパンはないの?」
「供給が減っているんだ。それに、もしあったとしてもお供え物になるだけだから。」
「だから、少しでも食材をと思って森に行ってたの。だけど、奥地にまでは行ってない。」
「森の奥地には行ってはいけないっていうのも村の掟だ。」
船吉は、タビトが見つかる前に村の外に出したかったが、森の奥には入ってはならないと決まっている。船吉もすずめも村の外へ出る方法を知らなかった。
翌日、船吉は朝早くに出掛けた。その日はタビトも起きていて、船吉の行く所を見ている。
「出掛けてくる。その間、一歩も外へ出ないように。見つかったら命は無いと思えよ。」
「うん…」
船吉はタビトを見ると、家から出ていってしまった。
船吉はその日も漁に出掛けた。だが、どういう訳か普段よりも魚が取れなかった。漁も程々に済ませた船吉は、市場で魚を売って僅かな売上金だけを持って帰った。
その時だった。船吉は偶然長老に出会った。長老は海の様子を眺めて何かを考えていた。
「村が荒れておる、余所者がやって来おったな」
「長老様、どうされましたか?」
「ああ、海の様子がおかしくてな。この調子だと、村に紛れ込んだ余所者を生贄を捧げなくてはならない。もし余所者が見つかれば船吉、お主も生贄として捧げなくてはならない。本来なら数えで二十歳になる頃にと思っておったが、村が荒れておるのを鎮めるのが生贄の役目じゃ。余所者と一緒にお主も捧げなくてはな。」
それを聞いて船吉は青褪めた。タビトを家に連れて来てまだ間もないのだ。それなのに、既に村に影響が出ているのだという。
村を優先するか、タビトの生命を優先するか、船吉は迷った。何れにしろ、船吉は村の為に死ななければならない。
「それにしてもまだ子供が居ないとは、次の生贄はどうするつもりなんだ」
長老、そして村人達は船吉達を生贄としか思っていない。
その日、帰ってくるとタビトが酷く怯えていた。タビトは家の隅の方に固まって、震えている。
「村の人達が勝手にこの家に入ってきたんだ!慌てて隠れたから見つからなかったけど、でも、どうしよう…。怖いよ」
「大丈夫、大丈夫だから」
船吉はタビトを慰めたが、全く聞こえていなかった。そういえば幼い頃、船吉の祖父母が生贄にされて帰ってこなくなった時、船吉は同じように心細くなったような気がする。船吉はタビトの身体を支えながら、昔の自分を思い出していた。