閉ざされた村
この国が、まだ他の国から閉ざされた頃の話だ。青崎湾に小さな村があった。その村には海神様が居るとされていた。
その村には一人の青年が住んでいた。名前は船吉。彼は数えで十八の青年で、漁師をして暮らしていた。
彼には既に家族が居ない。何故なら皆海神様の生贄にされてしまったからだ。彼の両親も祖父母も兄姉も皆そうなってしまった。彼自身も数えで二十歳になった時、生贄にされると決まっている。船吉は残り少ない余生で、次の生贄にされる子供を産み、神に捧げられなければならない。
船吉は今日も仕事を終えた後、海岸沿いを歩いていた。すると、家にいるはずのすずめに声を掛けられる。すずめは、船吉の婚約者で今は船吉と共に暮らしていた。
「船吉、どうしたの?」
「いや、考え事をしていただけだ。」
船吉はその後すずめと共に家に帰った。そして夕飯を食べて寝ると、翌日朝早く船吉は舟に乗って旅立っていった。
そして魚を取って村に売りに行こうとした時、海岸に茶色い布切れのようなものを見つけた。近づいてみると、どうやら布切れではなく、人間の少年だった。少年はどうやら流れ着いたらしく、意識を失って倒れている。
船吉は驚いた。何故ならこの湾岸に人が流れ着くとは珍しいからだ。しかも村の人間以外の人間。村から出た事がない船吉は、奇妙な格好をした少年を木陰に隠した。
「漂流してきた少年とはいえ、外の人間だ。見つかったら殺されてしまうかもしれない。」
船吉は少年が着けていた帽子とマントを外して絞ると、魚の事が心配になり、一度少年を置いて海から離れていった。
魚の市場には既にすずめの姉のつばめが居た。つばめは海女で今日も貝を取っていた。
「こんにちは、つばめさん」
「船吉君、今日も魚採れたのね」
船吉は今日の分の魚を店番に預けた後、先日の売上金を受け取るとすぐに海辺に戻って行く。
「船吉君、もう戻るの?」
「ええ、気になる事がありますので」
船吉はつばめを置いて少年の元へ戻ってしまった。
そして、船吉は少年の元へ戻って来た。先程まで気を失っていた少年は目を覚ましたらしく、辺りを見回している。
「ここは…」
「目を覚ましたんだね」
少年はきょとんとしていたが、船吉の側に付いた。