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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界改革 4 クルトの過去 

贖罪



末端貴族とはいえ俺は15歳の力のないガキだ。

自分の無力さに悔し涙がでる。



家が子爵の俺には兄が二人いる。

長兄が家督を継ぎ、次兄が補佐。俺は家を出ることは最初から決まったいた。

家族仲が悪いわけではない。しかしこれが下級貴族間の暗黙の了解だ。

俺はなんとなく剣術学校で学び、将来は城外守護警備につくかなと漠然と考えていた。

まあ剣術っていったって、俺にセンスはない。

貴族をバックボーンに、剣術学校卒業の肩書があればどこかに就職できるんじゃないかなと軽く考えてたんだ。


13歳で剣術学校に入学した。

俺と同期にバルドリック・ヴォルフという商家の少年がいた。短髪黒髪でガタイもよく素朴ながら顔立ちもいいやつだ。

授業であった模擬試合でバルドリック・ヴォルフの剣術を見たとき、鳥肌がたった。

師範を圧倒する動き、不意を突かれても、体をかわし防御、次に反撃。攻撃。流れるような繰り出す剣技に、同じ13歳だと思えなかった。天賦の才とは彼のためにあるんだろうと最初は他人事にように思ったんだ。

でも彼は商家の息子。この貴族子弟が多くいる学校では浮いていた。特に高位の貴族からの嫌がらせが多々あったようだ。

高位の貴族相手だから、教師も気が付いても注意することができない。

当の本人もひょうひょうとしていたので、誰も何も言わなかった。


ある日の昼休み、俺はシートを広げてランチをとろうと外へ出たんだ。

なんせ今日は俺特製山〇おにぎり5個だ!!!。5個は多いって?この年の食欲なめんな。余ったら3時のおやつだ。それに、これはこの国にないメニューなもんで人に見られたくなかったんだ。

ちなみに家族は知ってるよ。材料を買うのに協力してもらってるし

多めに作ってごちそうもしてるからね。特に兄たちには好評だ。


中庭にでるとベンチでバルドリック・ヴォルフが寝ていた。

俺はというとベンチあたりが一番日当たりがいいのでシートを広げ、水筒をだし、竹皮につつんだおにぎりを出し、かぷり。

近くでぎゅるるるるという音が聞こえる。

やっぱりか、弁当を捨てられたんだ。あいつらやることが、いちいちえげつないな。

「食べる?」とバルトリックに差し出せば、おにぎりをまじまじ見て、「それ虫?」と失礼なことをいうので、口に押し込んでやった。うまかったらしい。あっという間に3個食いやがった。

言っとくけど1個の大きさ普通のコンビニおにぎりの2.5倍はあるからね。

あわてて食ったんだろう。俺の水筒に手を取り、飲むわ飲むわ。飲んでから気が付いたらしい。それ俺特製日本茶もどき。それもうまいだろう。

知らない味に目を白黒させてた。

これがきっかけで、バルドリックとつるむようになった。


つるみはじめてから

俺にも嫌がらせがあったが、私物は持ち歩き、呼び出しには応じず、自衛に心がけた。弁当はおにぎりにしたものだから、見つけても虫に見えて手が出せないらしい。ふん、お貴族様め。

演習時間、どうしても荷物を持ち歩けない時は、じいちゃん用務員さんに頼んで、倉庫に俺とバルトリックの荷物おかせてもらった。

まあじいちゃんも俺のおにぎり友達だしな。

陰口は俺には効かない。転生者で前世の成人までの記憶があるから、

見た目は少年、中身はひねくれリーマンだからね、結構いなせるんだよ。

ブラックリーマンの耐性なめんな。

昼、いつも中庭で、おにぎりをほおばりながら、不思議に思っていることを聞いてみた。

「なんで、剣術学校きたの?」

「うん? 商人っていっても俺は四男だから、身を立てなければならないんだよ。あいにく算術はからきりだし、愛想もよくない。

 見たらわかるだろう。貴族にもすり寄ることもできない。それができらた家の商売にもつながることはわかるんだけど、無理なんだ。」

「じゃあ将来はどこの部隊が希望?」

「理想は王城の師団かな。かっこいいじゃん。あの制服。門番の交代儀式なんて。あれ花形だよな。」

「じゃ俺と交代儀式やるってはのどう?」

「あははは。クルトの剣技まだまだじゃん。最初にうちは綺麗な型できれるけど、最後はガタガタで腰ひけてるし。よたよたじいさんに交代儀式できないよ。」

「ひっでーし。じゃあ次、よたよたじいさんの本気みせたるわ。」

「ははは、木剣を杖にすんなよ。」

このころから、俺はバルトリックいやバルに放課後剣術を教えてもらうようになった。

貴族の肩書に頼るのはなんだか違う気がしてきたからだ。

それに師団に入ろうと、懸命に剣をふるっているバルになんだか失礼だと思ったから。



ある日バルの家に招待された。といっても遊びに来ない?って感じだったけど

学校に入って初めての友達の家に遊びに行くなんってテンション上がるよね。

焼き菓子をもって行ったよ。

バルの生家は生地を扱う商家だった。一応俺、貴族なもんで表から迎えられた。

貴族向けの高級生地専門店。店も大きく、生地の種類も多く高級生地が中心。

バルには3人の兄と1人の妹がいた。長兄次兄は店の外商に出ていて、三男は同じ業界の店に入り婿として入っているようだ。

妹の名はリリー、ふわふわとした長い茶髪にそばかす、ぱっちりとした目元のかわいい8歳児。天使か。この子が対応してくれた。

やはり対応はバルに似たごつい店主より天使がいい。挨拶をしてお土産を渡すと笑顔がかわいい。鼻の下を伸ばしていたらバルに小突かれた。

「やらんぞ。」というから「うん、さらうからいい。」と。

店の裏側では見本生地や余った生地が置かれているので、「もらってもいい?」と聞くと「いいよ。廃棄の予定だ。短いし使い道がない。でもお前ってほんとに変わってるな」と言われた。

その場で針とゴムを借り、シュシュを作ってみた。作り方なんてぼんやりした記憶しかないけど、縫い目もガタガタだけど、生地が綺麗だから、うまくできたと思う。

リリーを呼び長い髪をくくってやる。嬉しかったんだろう。抱き着かれ頬にキスされたよ。あー家族以外の初キッス。しかも天使。やったね。

バルに「ほら、さらえそうだろ?」サムズアップして笑ってやった。

その後、リリーにリリーの宝物を見せてもらった。ちょっと大きめなビスクドール。お礼にリリーとお揃いのドール用のシュシュを作り渡したら、また抱き着いてきた。かわいい

バルを見たら苦虫を嚙み潰したような顔をしてたので「何?お前もシュシュほしかったの?」と聞くと小突かれた。欲しかったんだろう? かわいいやつめ。

それから、リリーに本を読んであげたり、3人でお茶をしたり、学校でのバルの様子を身振り手振りであることないことないこと話したよ。時々バルにどつかれたけどね。

木剣を持ってきたので、リリーに俺とバルで王門交代儀式を見せてやったら、リリー物凄くかっこいいって褒めてくれて、俺とバルに抱き着いてきた。俺とバルはこぶしを合わせて笑いあった。


帰りに倉庫に保管していた破棄予定の生地も貰って帰った。


翌週、俺はもらった廃棄生地でバルとお揃いの鉢巻を作った。ネーム入りよ。

なんせ中身は日本人、鉢巻で気合を入れる。それに鉢巻して剣術ってかっこよくない?

本当は額になる部分に気合いか根性とか肉とか文字を入れたかったんだけど、

母になんかダメな気がするといわれ止められた。

放課後は気合いだーの一声かけてからバルと一緒に自主練したけどね。


この頃から俺はだんだん剣の腕が上がってきた。センスがないと、はなから諦めたらだめだよね。

まだバルには追いつけないけど、模擬で師範に褒められるようになったんだ。

バルにも剣技のスピードが上がってきたし、何よりなバネが効いてていいと言って褒められたよ。俺はだろ?と言ってバルトにこぶしを上げた。


1年たつ頃には体が軽く感じるようになってきた。でもまだまだ体力をつけたいので、早朝ランニングと筋トレメニューを追加したよ。もちろんバルと一緒にだ。

朝のランニングは気持ちいいんだ。回数を重なるごとに街の人たちが声をかけてくれるようになったんだ。また子どもたちがハイタッチしてくれる。まっ時々荷車を押したり子どもの手を引いてしまったりで、中断するけど。これはこれでご愛敬だ。

露店の店主に果物の差し入れも貰う。ほんと朝練は気持ちいいし、かわいい応援あるし、差し入れあるし、おまけに体力つくしで毎日お買い得4倍ディだ。





俺が剣術学校に入って2年目の15歳の11月18日。朝のこと

朝の決まったランニングコースで、バルとの待ち合わせの場所付近で大きな音と悲鳴が上がった。

行ってみたら、そこは血まみれの地獄絵図だった。ゆっくり走っていた乗合馬車を 無理やり追い越そうとした貴族の馬車が 接触。

乗合馬車に乗っていた人が投げ出され、馬車は横転。

後続の乗合馬車がこれをよけきれず、左側の食堂の壁に突っ込み、そこから火が上がったんだ。

驚いた子どもが馬の間を走ったものだから、貴族側の馬が暴れて、食堂側とは反対側の商店に突っ込んだ。

何人が怪我をしただろう。呆然と見るしかない俺の横をバルが走って行って救助し始めた。

バルに「ぼけっとすんな」の一言に俺も走り出した。

街の守護警備隊が来たが、一番に救出するのは堅固な馬車に乗っている貴族。軽傷に見えるのだが高位の治療院に搬送された。

その搬送も多くの守護警備隊員が随行し、残ったわずかな隊員と街の有志で救助に向かう。

俺は二次災害を起こさないよう、守護警備員にワンブロック離れた角で、後続馬車の迂回と交通整理を頼んだ。

次に食堂のドアとテラス席のドアを開け避難誘導。

後は守護警備の消防隊に消火を頼み。

戻ってからは、部隊に治療隊と魔法部隊の応援要請。治療隊はすぐにこれるそうだが、魔法部隊は遅れるそうだ

それから車輪を起こし下敷きになった人々を救出。怪我の応急手当。一目で亡くなったと分かる人もいた。親の亡骸に子の亡骸に泣く人々。

その亡骸の中に 早朝ランニングにハイタッチする子が、露店の店主がいた。

涙で目の前がかすれるのをこすりながら

がれきの下から聞こえてくる子どもの声を頼りにをがれきを撤去をするが、がれきの中の声がだんだん小さくなるのがいたたまれない。

埋もれている人の身内だろうか。俺に早く助けてとすがってくる。

ガラスの下敷きになったかあさん助けてと泣きすがっていく子ども。救出はしたが

血だらけの母親はこと切れていた。

救出、応急手当を繰り返すがあまりの被害に自分の無力さにだんだん涙が出てきた。

気が付けば俺は血だらけで、左腕が上がらなくなってた。右足が腫れている。たぶん骨折してるな。がれき除去のときかな。

治癒隊が来たので、重体、重傷者と馬の治療を先にあとは自己判断で治療をお願いした。

問題は貴族の馬車。この下に何人か被害者がいるようだ。馬は治療して避難したが車の部分だ。車輪が外れてる。本体は堅牢な上、壊しにくそうだ。

触ろうとすると「汚い手で触るな!! 貴族の財産だ。さがれ!! 許可も出てない」と守護警備に怒鳴られた。


俺の中で何かが切れた。


「車の下から声が聞こえないの? 貴族の財産ってなに? 貴族は民を守るものじゃないの? 民は国の財産じゃないの?人の命より車なの? 」思っていたことが声にというより絶叫していたらしい。


俺の肩に誰かが手をおき、

「私が許可を出す。その馬車を撤去せよ。魔法部隊前へ」という声が上から聞こえてきた。俺はこの声を聞きながら気を失った。


バルは消防隊が止める中、火災のあった食堂2階住居部分で泣いているリリーくらいの女の子を

ちょっと助けてくるといったまま、帰らぬ人になっていた。


2日後起きたときに、街の様子とバルのことを聞いてまた倒れたらしい。


目が覚めても起き上がる気力がなかった。

食堂の避難誘導したとき、なんで、2階の女の子に気づかなかった? なぜ助けられなかった?  

その女の子とバルを俺が殺したようなもんだ。また涙がでてきた。俺ってほんと無力だよな。リリーとバルの家族に顔向けできない。


1週間後、家族も心配する中、リリーが母親と一緒に見舞いにきた。

泣きながら頭を下げるしかない俺に、バルの母親が「顔をあげて。あの子はあなたに謝ってほしくないと思うわ。あなたも逆の立場だったらバルと同じことをしたと思うの。まったくちょっと行ってくるっていうなら、さっさと帰ってくればいいのにね。」とそして、居住まいを正した。

「いままで、バルのそばにいてくれてありがとう。

あなたと一緒にいれてバルは剣術学校が楽しかったようです。いつもあなたの事を話してましたよ。

ほんとはね、私たちあの子を剣術学校に行かせるの反対だったの。苦境にわざわざ立ちに行くようなものですもの。そんな中あなたがあの子に、『貴族はたまたま親が貴族なだけ。まだあいつらは何も持っていない。お前はすごいよ。こんなアウエイな環境に単身乗り込んで努力してる。目標もある。誇ってもいい。まっ俺もやつらと似たようなもんだから、今から努力する。悪いけど、付き合ってくれ。』って言ってくれたのよね。

私たち家族は何もしてあげられなかったから、あなたみたいな友達できてうれしかったわ。」

と思い出したように、続けて

「バルがね、いつもあなたのこと、あいつの口癖が『ブラックリーマンなめるな。』なんだよ。意味わかんないよね。と あとシュシュ、バルにも渡したんだって?。困ってたわよ。ふふ。

よく練習してた門の交代儀式、あいつ途中で変顔して、笑わせにくるんだよ。疲れると、よたよた歩いて剣を杖にして『爺さん疲れた。』とか言ってくる。

でもうまくできるとさ、気持ちいいんだ。あいつとこぶしを合わせるの、最高なんだ。って言ってたの。

本当に楽しかったみたいよ。ふふふ。話聞くたび笑っちゃうもの。

あの子は往ってしまいましたけど、たぶんバルは自分の人生に悔いはないと思うの。

あっ一つだけ、門の交代儀式の本番は一緒にやりたかったのようよ。それだけは心残りじゃないのかな。

これバルの宝物、あなたが持っててほしいの。バルの思いを一番近くで聞いていたあなたに持っててほしい。バルの分も悔いなく生きていって。お願いね。」

と俺の頬をさすり涙をぬぐい、今にも泣きそうな笑顔でバルの鉢巻を俺の手に載せ手を包み、それから抱きしめてくれた。


リリーはシュシュを売ることになった報告をしてくれた。

「兄さんにかわいいと褒めてもらったものは広めないとね。」って

この人たちの中にしっかりバルはいるんだなと。存在を生き方を尊重しているんだな。

この世界の人はすごいと俺は思った。俺はまだまだだな。この世界で生きていく覚悟がまだなかった。



2日後、俺は自分の心と足を地につけて起き上がった。


でもなバル、この世界、生活の中に死が近すぎるんだよ。俺、これを、もうちょっと離してみたいんだ。




俺は18に剣術学校を卒業して師団に入団した。門の交代儀式は第一師団。俺の配属先は第二師団。

たぶんおれの実力では第二師団が精一杯。入団式にはポケットにバルの鉢巻を入れて臨むよ。

みててねバル。


と空に向かってこぶしを上げた。


誤字報告ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします

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[良い点] クルトの過去編!前作迄のクルトのイメージが『自覚なく思ったことを口に出してしまう、猫コスのまま宰相補佐執務室に行ける…しかもその姿のままリヒトに向かって首をかしげながら「可愛くね?」なんて…
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