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でんせつのせいけん

作者: えむ

※この小説は、主人公の観点にて書かれています。


「伝説の聖剣を見つけてきてほしい」


 それがこの国の王から命じられた依頼だった。

俺の名はトレナー。いわゆる冒険者と呼ばれる類のもので、主に探し物を専門としている。得意な事は見つけること。ゆえに「探し屋」なんて二つ名が付けられていたりもする。

今までにも色々な物を見つけてきた。ただの落とし物から、それこそ伝説にのみ存在していたと思われていた貴重な宝など。そうした様々な発見物を持ち帰った評価が積もりに積もり、とうとう国王自らの依頼を受けるまでになったのだ。

実を言うと、俺はいわゆる異世界からの転生者というものであり、なんか転生する時に授けられたスキルが、探し物に特化したものだったりするのだが。話したところで誰も信じてはくれないので、そっと胸の内に秘めていることだったりもする。

ともかく、今。国王から1つの依頼が出ていた。一冒険者としては、この上ない名誉だ。

伝説の聖剣。それは、この世界に住む住人なら、誰でも知っている口頭伝承の中に出てくるものだ。

かつてこの世界には魔王と呼ばれる者がおり、世界を闇に包もうとしたことがあった。だが、そこで現れたのが勇者だった。勇者は、伝説の聖剣と共に魔王を打ち倒し、この世界を救ったとされている。その後、姿を消した勇者と共に伝説の聖剣も失われた…という話だ。

だが、その失われたはずの伝説の聖剣の話が出てきたということは…。


「もしかして、何か手掛かりが?」


 俺が尋ねると、国王は神妙な顔で静かに頷いた。


「そうだ。失われた伝説の聖剣が再び現れたとの知らせが届いた。おおよその場所は掴めたが、いまだ現物を発見するには至っていない。そこで、探し物のプロであるお前に見つけてきてほしいと思ったのだ」


 それを聞いて納得する。確かに俺向きの仕事だ。存在しないものを探し出すことは、さすがにできないが。存在するという確証さえあれば、見つけ出せるのが俺の取り柄でもある。それに、ずっとおとぎ話として聞かされてきた、勇者の物語に出てくる伝説の聖剣。実物を拝めるのであれば、ぜひとも拝んでみたい。


「わかりました。このトレナー、必ず伝説の聖剣を見つけてご覧にいれましょう」


 頭を垂れ、見つけてくると宣言する。その言葉を聞き、国王もどこかほっとしたような表情を浮かべているのが分かった。



 それから1週間ほど後。俺は、最後に伝説の聖剣が目撃されたと呼ばれる山岳地帯へと訪れていた。色々と集めた情報によると、ここで伝説の聖剣を目撃した者がいたらしい。だが不思議なことに。一度見かけはしたが、次に見直したときには、もう影も形もなかったらしい。

 なんとも不思議な話である。だが、仮にも伝説になるほどのものだ。特別な何かがあるのかもしれない。いずれにしても、探してみるとしよう。大体の範囲が絞れたのであれば、探す労力もだいぶんと減るというもの。

 俺が授けられたスキルは、いわゆる千里眼と呼ばれるもの。ゆえに対象が存在するならば、どこからでもそれを見つけ出すことが出来る。もちろん、色々制限もあったりするが、こと探し物においては、最高のスキルと言えよう。持ち前の長所を生かすのは、成功への近道なのだ。

 とはいえ、伝説の聖剣と言えども、その姿形に関しては詳細な情報は一切ない。だから、どうしても自分の抱くイメージに頼らざるを得ない。ひとまず探索条件を、剣・そして高い魔力を秘めたもの、あたりにして「見てみる」ことにする。


「………」


 何も見えなかった。

…おかしい。この条件であっているはずだが、それでも何も見つからない。こんな事は初めてだった。見つからないということは、存在しないということか。だが、確かに目撃されたという情報はあった。しかも一人や二人ではない裏付けもある情報だ。それだけはっきりした情報がありながら、見つからないというのは何かおかしい。

もしかしたら、何か隠ぺいするような特別な力があったりするのだろうか。もしそうであれば、見つからない可能性もある。

しかし、それならそれで打つ手はある。隠された物を見つける事は出来ないが、隠している物を見つけ出す事は出来るのだ。つまり隠ぺいしている力そのものを探索条件に含めることで、捕捉対象にすることができるのだ。隠ぺいする魔法なり力なんてものは、そうそうあるわけではない。だから、逆にそれが目印となる。


「………」


 再度見てみる。…だが、この条件で見ても見つからなかった。

 どういうことだろうか。これで見つからないとなると、実は存在しなかったという線が強くなってくる。

となると、あと考えられるのは俺自身が何かを見落としている可能性だ。俺の千里眼は、見る対象を絞って探すことが出来るが、条件に含まなければ当然それを見つける事は出来ない。情報が不足していたりすれば、それだけ発見率も下がってしまうのだ。

 

「どうしたものかな……」


 その場で腕を組んで考え込んでいると、不意に背後から気配がした。もしや魔物の類かと腰にさしたナイフを抜きつつ振り返ると。


「わふ?」


 一匹の野良犬がいた。

 犬種としては、と言っても転生して前の記憶がある俺だからこそできる表現ではあるのだが、ゴールデンレトリバーに近いだろうか。毛並みは真っ白で、体格も大きい。どう見ても子犬の類ではない。

 もしや野犬の類かと警戒を強めるも、現れた犬はしっぽをパタパタ振りながら近づいてくる。どうやら敵意とかそういうものはないようだ。

 怪訝な表情を浮かべつつそっと片手を差し出すと、白い犬はスンスンと手の匂いを嗅ぎ、それからペロンとざらざらの下でその手を舐めてきた。


「人慣れしているな…。捨て犬か?」

「わぅっ!!」


 違う!!と言いたげに、ちょっと不機嫌そうに吠えられた。


「…お前、俺の言葉が分かるのか?」

「わんっ!!」


 再度尋ねると、こんどはそうだと言わんばかりに一声鳴いた。

 犬自体、人間とコミュニケーションが取れる生き物ではあるが、ここまで明確にコミュニケーションが出来ると言うのも珍しい。


「わんわん!!わう?」

「え?何をしているのかって?」


 さらに犬が何かを尋ねるように吠えてくる。なぜか、何を話しているかもわかった。本当に不思議だ。だが、不思議と怖いとか拒絶するような感情は出てこなかった。


「あぁ、実は伝説の聖剣がここにあるって話を聞いて来たんだ。だけど見つからなくてな」


 それどころか、どこか心を許している自分がそこにあった。人懐っこい犬や猫は、心のガードを余裕でぶち抜いてくると言うが、まさに今の状況はそれだと言えるだろう。


「わぅ。わぅわぅ」

「あぁ、全くだよ。かつて、世界を闇に包もうとした魔王を倒した勇者が使っていた剣。回収できるなら回収したかったんだがなぁ」


 ここまで探して見つからないとなると、さすがの俺でも見つけられない可能性はある。残念そうにため息をつくと、俺のぼやきを聞いていた白い犬が不思議そうに首を傾げてから、おもむろに俺を見上げて吠えた。


「わん!!わんわん!!」

「え?心当たりがある?マジでか!!」

「わん!!」


 付いてきて!!と言いたげに駆け出す白い犬。俺はためらうこともなく、その後を追いかけていくことにした。

 それからどのくらい山の中を駆け抜けただろうか。時間的には、そんなに長くもなかったと思う。ほどなくして、一軒の山小屋へとたどり着いていた。


「これは、山小屋か? でも、だいぶ使われてないっぽいな…」


 白い犬が案内してくれた山小屋。それは朽ち果てて随分と経っているようだった。

 導かれるままに中へと入ってみる。山小屋の中も大分と人の手が入っていないようだったが、確かに誰かが住んでいた。そんな名残は残っていた。


「まさか。魔王を倒した後に姿を消した勇者が…?」


ふと一つの予想が脳裏をよぎる。もしそうだとすれば、これだけでも大発見だ。


「わん!!」


興奮が湧きあがってくる俺を尻目に、白い犬が呼ぶように吠える。その声に振り返ると、机が一つあり、ボロボロになった日記と古ぼけた剣が一つあった。

 そっと日記を開いてみると、そこには名前が一つ。かすれた文字で書かれてあった。


「…レジエ・ブレイブス」


 間違いない。語り継がれている伝説の勇者の名前だ。

つまり、俺の予想通り。この山小屋は姿を消した勇者が暮らしていた場所ということで、ここに置かれている剣こそが…!!

古ぼけた剣を手に取り、鞘から剣を抜いてみる。何の力もない。ごくごく普通の剣。だが、勇者が持っていたというのなら、間違いなくこれがそうなのだろう。


「やった、見つけたぞ!! ありがとうな!!」

「わぅっ!!」 


 もしこの白い犬が案内してくれなければ、見つけることはかなわなかっただろう。まさか伝説の聖剣がただの剣だったとは思わなかった。勇者が使っていたものだから、特別なものだと思った先入観ゆえに逆に見つけられなかったということか。これは反省すべき事かも知れない。

 ともかく発見に貢献してくれた白い犬に感謝の気持ちも込めて撫でまわしてやると、白い犬の方も嬉しそうにしっぽを振りながら身を委ねてくれた。

 が、その平穏も束の間だった。


「…!! ぐるるる…」


 不意に白い犬が外を向いてうなり声を上げる。同時に感じる気配に、俺も白い犬から離れて外へと飛び出す。だが、それは失敗だった。

 そこにいたのは、魔物の中で特に危険な奴。ドラゴンだったのだ。

 迂闊だった。人里から遠く離れた山奥なら、遭遇する可能性もあったと言うのに。発見に気を取られて警戒が甘くなっていたようだ。


「マジかよ…」


 思わず佇む。多少の魔物は倒せるが、これは無理だ。格が違いすぎる。

 なんでこんなところにドラゴンが現れたのかはわからないが、いずれにしても逃げるすべはない。せめて山小屋の中にいたら、やりすごせたかもしれないのに反射的に飛び出してしまった。

 俺の人生もここまでか。そんな風に思っていると、おもむろに白い犬が俺の前に出てきた。ドラゴンを威嚇するように唸り声をあげ、低く身構えている。


「お、おい。お前がどうこうできる相手じゃない」


 ドラゴンなど犬一匹が勝てる相手ではない。俺が止めようとすると、ちらりとこちらを向いて白い犬が鳴いた。


「わんっ」


 任せろ。そう聞こえた。そして、なぜかこの犬なら何とかできる、そんな安心感すら胸の内にあった。

空からこちらを見ているドラゴンが不意に動く。息を吸い込む動作。やばい。ドラゴンの攻撃でも一番やばい火炎ブレスが来る。白い犬を信じないわけではないが、反射的に身を守る体勢になってしまう。

だが、ブレスは来なかった。正確には届かなかった。ドラゴンが放った火炎は、見えない半球型の壁に遮られてしまったのだ。そして、さらに俺は信じられないものを見ることになる。


「ぐるるるる…。わぉんっ!!」


 白い犬が一際大きな声で吠える。ただ、それだけ。それだけのことだったのだが、突如として凄まじい突風が巻き起こり、ドラゴンを吹き飛ばしたのだ。

 目のまで起きた信じられない光景に、ただただ呆然と立ち尽くす俺。一方吹き飛ばされたドラゴンは空中で体勢を立て直し、こちらを睨みつけてくる。だが視線を向ける先は俺ではない。白い犬の方だ。


「ぐるるるるるる」


 さらに威嚇のうなり声をあげる白い犬とドラゴンのにらみ合いが続く。やがて、先に視線を反らしたのはドラゴンの方だった。そのまま踵を返したかのように、その場から飛び去っていくのが見えた。


「………お前、めちゃくちゃすごいな」

「わぅ!!」


 俺が驚いた表情で白い犬を見ると、誇らしそうに座ったままブンブンとしっぽを振っている。なので、とりあえず感謝の意も込めて、あらためて撫でまわしてやることにする。そしてひとしきり撫でまわしてやってから、静かに立ち上がった。


「一体何者かわからないけど。本当にありがとうな。でも俺はそろそろ行かないと。勇者が使っていた伝説の聖剣を見つけたから、探し人に届けないと」

「わぅ? わん!!わんわん!!」

「え?付いてく? でもいいのか? そりゃお前ほどすごい犬がついてきてくれたら、俺はとても助かるけど」

「わぅ」


 構わないと言いたげにしっぽを振りながら立ち上がる白い犬。


「わかった。それじゃあ一緒に行こうぜ」

「わん!!」


 そう言ってポンと頭を撫でれば、この出会った不思議な犬と共にその場を離れることにするのであった。



 それから来た時と同じように1週間かけて戻った俺は、再び国王の元へと訪れていた。どういうわけか、白い犬は俺から離れようとせず、結局往生の中まで付いてきてしまったのは言うまでもない。というか、見る人見る人が皆目を丸くするのはなぜなのだろう。

 そんな疑問を抱きつつ、国王との謁見の時となった。国王は玉座に座り、こちらを見るとすぐに目を丸くして言った。


「おぉ、本当に見つけて来てくれるとは!!さすが、世界最高の探し屋と呼ばれるだけの事はある!!」

「ありがとうございます。…は?」


 まだ剣は取りだしてすらいない。なぜ、まだ何も言ってないのに、なぜ見つけたとわかるのだろうか。気になって国王の方を見ると、国王の視線は俺の隣にいる白い犬へと注がれていた。


「それがかの伝説の。勇者と共にあったものか…」


 感慨深げにつぶやく国王。待って。確かに、そいつはすごい犬だが、勇者と共にあったってどういうことだ?

 俺は困惑しながら、思わず国王に訪ねていた。


「国王。伝説の聖剣はまだ出してないんですが…?」

「何を言っておる。そこにおるではないか」


 いる?あるじゃなくて?本当にどういうことだ?


「それこそが勇者と共にあった伝説の()()ヴァイスじゃよ」

「成犬」

「うむ。成犬」

「剣の方じゃなくて。犬の方」

「そうだと言っておろう」

「…………」


 なるほど。確かにどっちも「()()()()」。俺が勝手に「聖剣」だとずっと思っていただけで、向こうは最初から「成犬」と言ってたようだ。ただ響きが同じだったから、俺が勘違いしていた。何年も。なまじ転生者で前の世界の知識があったからゆえに陥ってしまった罠だったというわけだ。

 何というオチだ。というか、ありなのかこれ。

まぁ結果的に、国王の依頼を果たすことが出来たわけだから、結果オーライではあるのだけど。

 凄まじい勘違いからくるショックか、俺は今凄まじいまでの脱力感に包まれていた。半ば現実逃避したくなり、ちらりと横に礼儀正しく座っている白い犬もちヴァイスへと視線を向ける。


「お前、ヴァイスっていうのか。カッコいい名前だな」

「わうっ」


 そう告げた俺の言葉に、ヴァイスは誇らしげに鳴き返すのであった。



 ちなみにこのあと、ヴァイスを王城で保護しようとするも、本人(?)が猛反発。どういうわけか俺にすごく懐いており、その後も一緒に行動する事になった。そして、その後も色々な事があったのだが、それをここで語るのはやめておこう。たぶんまた別の話である。


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