女体盛
都内某所の高級料亭。
裏メニューには女体盛がある。
一郎は日頃より齷齪して貯めた札束を握り締めて料亭の暖簾を潜った。
高級料亭なので一見さんお断りかと思ったが、そんなことはなかった。
座敷に通されて、お品書きを渡された。
女中に言った。「裏メニューを」
女中は「はぁ?」と答えた。
「だから、裏メニューですよ」
「はぁ?」
「もういい。だから、女体――」
女中は頷いた。「ああ、女体盛ですね。解りました。丁度、入荷したところでした」
「なんだ。あるじゃないか」
「ええ。ありますとも。中々、生きもよろしいですよ」
にっこりと彼女は微笑んだ。
十五分ほど座敷で待っていると、白い皿に乗った肉がやってきた。
「なんだ、これは?」
「女体盛ですよ」
「何を言ってるんだ。きみはぁ!」
女中は不思議そうな顔をして一郎を見た。「女体盛なんですが……」
「もしかして、前菜かね?」
「ええ、前妻です。オーナーの」
「なるほど。ならいい」
一郎は女中がいなくなってから、肉を食べた。
軽く湯通ししてあるそれは食べた事のない味がした。一体何の肉であろう。
とりあえず、美味しかったので満足だった。
はやくメインの料理がこないだろうかと心待ちにしていると、女中が十分後に血相を変えてやって来た。
「すいません、すいません」
「何だ。どうしたのだ」
「私どもに手違いがありまして……」
「何の手違いだ?」
「オーナーはその……」女中は苦しげに顔を歪めて、親指を立てた。
全く一郎は意味が解らなかった。もうこの店にはこないと誓った。