表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/41

12.絶望の聖女と、同じ匂いをさせる神官(前半) 

※サイラス視点ですが、今回は短めです。

 

 今日は悪手を打ち過ぎたかもしれない。



 助ける必要もなかったし、過去話など聞くべきではなかった。だが、悪手だと思いながらも、身体が動いてしまった理由ははっきり自覚している。



 ファーギーには「女神に人生を弄ばれている者同士だから――」と言ったが、もっと正確に言うなら「聖女を思い出すから」だ。



 五年前まで、聖女は俺にとって絶対的な存在だった。その聖女のことを、ファーギーという女はあまりにも鮮明に思い起こさせる。




 コーデュナ教の神官服を着た、スタイルのいい美女と魔道具屋で初めて出会った時、女神の匂いを感じとって総毛だった。



 神殿にいたころ、周りは加護を受けた人間ばかりだったが、あいつらは皆一様に同じ雰囲気を醸し出している。どいつもこいつもうっすらと女神の気配を漂わせているのだ。



 だが、ファーギーという名の神官に感じたのはそんな生易しいモノではなかった。まさに、女神そのものの気配。



 そしてそれは、かつての俺にとって一番近い存在であった……聖女が纏っていたのとまったく同じ気配でもあった。



 だからこそ、気の強そうな榛色の瞳を覗き込んで、探りを入れてみたのだが、その反応は、怯えや動揺といったあまりにも人間的なもので、いささか拍子抜けしたのも束の間「(ティナに危害を加える気が)()()()()()()()、ない」との返答を聞いて悟った。



 この女も女神に弄ばれて、いずれは不幸な結末にいたる一人だと。



 その最たるものであった聖女の瞳に宿っていた、絶望的なまでに虚ろな瞳を思い出し、どうしてやることも出来なかった遣る瀬無さが蘇る。



 それでもファーギーという女に抱いた感情とはまったく別に、冷静に備えをしておくべきだと考える自分もいて、自然と身体は動いていた。



 大事そうに手に持っていた魔道具を、動揺している間に掠め取るかのようにして自分のものにし、すぐさま何故その魔道具を大事そうに手にしていたのか、定期的にやってくる辺境伯との連絡員を務める男に探らせた。



 そうして出てきたのは妹の存在で、姉と同じ栗色の髪と榛色の瞳を持つ、標準よりかなり小柄な、笑顔の可愛い姉想いの純朴そうな女の子だったらしい。



 最大の弱点。すぐさまそんな考えが浮かぶ自分を自嘲しながらも、敵になった時のために、使い道がありそうな存在として、記憶にとどめた。



 それから、新たに思いついた指示を連絡員に課す。その妹を騙して、姉の為だからと魔道具に一つだけ手を加えさせておくようにと。



「君のお姉ちゃんを喜ばせるプレゼントにしたい。本来の使い方とは違うけど、きっと喜ぶから頼むよ。それと、びっくりさせたいからこのことはお姉ちゃんには黙っておいてくれるかな……とでも言えば、喜んで改良してくれるだろう」



 連絡員は露骨に嫌そうな顔をして、あんな姉想いの子を騙すのは気が引けると言いながらも、後日しっかりと魔道具に手を加えさせて戻ってきた。願わくは使わずにすめばいい。そうは思うものの、必ず使う時がくるだろうという予感がある。



 嫌というほど女神と聖女を見てきた自分の予感は、ほぼ確信にも近い。



 なにせ、女神とのかかわりは生まれた時にまで遡るのだから。

※次回もサイラス視点です。更新日は01/09(木)です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ