弟子とゴキブリ
魔女の弟子であり、俺をこの世に呼び込んだ一人の少女。
年齢は多分中学生位のお年頃だと思われるその子は、大層俺を嫌っているらしく、なかなか交流を計れる機会が少ない。
こんな姿になってしまったものの、まあ別に彼女の事は嫌いというわけでもない。こんな召喚は普通は無いだろうし、いわば事故のような物だ。少女にも近い女の子を恨むというのはなんか大人気ないような気もしてくる。
むしろ、こんなアニメの中にしかない世界に喚んでくれてありがたい限りである。
剣と魔法のファンタジー、地球とは違う摂理で構成されたその世界で、一体どんな物が見れるのか、ワクワクする。
「おばあちゃん、いる?・・・って、うげ、あの使い魔だけ置いていってる。」
箒を方に担ぎながら扉を開けながら、少女はこちらにおそるおそるといった感じで近寄ってくる。
「しっ試験瓶の中に入ってるから大丈夫よね。」
瓶をゆっくり持ち上げて、目線の位置まで持ってくると、ジッと観察される。
「もう契約はすんでるのかな?。」
何となくでた独り言であろうその言葉に少し悪戯心が湧いて、ヒョイと前足を掲げてみせる。目を合わせながら上げた足をみて、それに何か感づいたのか、少し訝しげな表情を作る。
「ん?なんか返事されたかのような動き。・・・まさかねえ。じゃあ三回回って両手を上げてみて?」
自嘲気味に笑っているが、こちらはしっかりと理解しているため、三回回って両手を上げる。
フラスコの底が滑るのでなかなか難しかった。命令したくせに足の動きを見て顔を顰められたのは少し納得がいかない。
「うそ・・・。」
ショックを受けたのか愕然とした表情に変わって、震え始めた手でなんとか無事に瓶は机の上に置かれた。
「あなた一体なんなの?そういえばお婆ちゃんが見たことの無い生き物って言ってたわね。」
椅子に座り、机に突っ伏す形でこちらを見てくる彼女に、首を傾げて「さあ?何でしょうね?」といった感じで応える。
実際答えるのは難しい。多分 この世界にいないであろう生物で、物理的な脳みそに合わない知識と思考回路。ゴキブリの形をした何か。それが今の俺である。地球の物理法則とは違う物が働いている事は間違いない。
「ふぇふぇふぇ、なんだいカリナ、その子と仲直りに来たのかい?。」
「ひうっ!?おっお婆ちゃん!?」
カリナというらしい女の子は、背後に突如現れた婆さんに驚いたのか可愛い悲鳴を上げながら椅子ごと跳ねる。
「嫌悪感を拭って、好気心で前に進む。魔女の素質はしっかりと持っているみたいだねえ」
その細腕に見合わない大きな杖を突きながら、婆さんはカリナと呼ばれた女の子の隣まで歩く。
カリナは立ち上り、椅子を婆さんに譲る。わるいねえと言いながら腰掛けると、懐から煙管のような物を取り出し蒸し出す。
「どうだい?見た目に合わず、賢こそうだろう?なかなかどうして、面白いのを喚んでくれたもんだね。」
「お婆ちゃんが喜んでくれたのは嬉しいけど、貴重な枠を使う程だったの?」
「ふぇふぇふぇ、確かに、他の子達と比べると見劣りはするかもしれないけどね。あの子達とはまた違う方向で優秀な子になると思うよ。」
理解できない言葉が幾つかあるが、なんか期待されているらしい。ゴキブリに何を期待しているのだろうか、眷属呼べるからその眷属を家畜の餌にでも流用するのかな。
(そういえば、あのチャバネ君はどこに・・・)
ふと、自らの眷属がどうなったのか疑問に思った所で、婆さんが細い目の曲線を深くする。
(何も考えなかった事にしよう)
いやな予感を感じたので、思考をすぐに打ち切る。知らないほうが幸せな事もあるんだ、ゴキブリそれ知ってる。
「枠ってのは使い魔を使役できる数の事さね、あんたの眷属は悪いけど少し実験に使わせてもらったよ。あんたがどのくらいの事に耐えられるのかが分からないからね。指標がわからないと扱いがどうにもなりゃせん。」
「お婆ちゃん、この使い魔そこまで理解できるの?というか眷属って?」
「理解できるよ。ねえ?。」
婆さんに問われたので、片手を上げて応える。
俺のその姿をみて、呆けたをするカリナちゃんに、内心愉快でたまらなくなる。
「やれやれ、変な使い魔だね、あんたも」
あんたには言われたくは無いとその時の俺は思った。