さよならエレクション
俺が小学三年生の時の話。体育の時間に水泳があったけど、水着を忘れたので「熱が出た」と言って教室で休んでいた。俺は賢いのだ。単に水着を忘れたというだけでは、プールサイド、熱いコンクリートの上に50分間直立するはめになる。
教室にいたのは俺とフィリピン人のアヴィル君と、マキシマムザホルモンのナオに似ていないことで有名な池田さんだった。俺とアヴィル君は廊下でバスケットボールをした。もちろん廊下にゴールはないので水筒を二本、地面に立てて即席のゴールを作る。ボールを投げるとガラスを割る危険性があるので、蹴る。これが俺たちのバスケットボールだ。
アヴィル君はフィジカルモンスターなので、当然、俺はボコボコにされる。2回表にして1-29だ。俺は疲れて、教室に戻った。
池田さんは絵を描いていた。なにを描いてるのか聞くと、「ベトナム戦争」と答え、自由帳を閉じた。いつもより可愛く見えるのは、カーテンを閉め切った教室が暗いからだろうか。それか、俺の目が曇っているのだろうか。
机に突っ伏して眠る。滲む汗が気持ち悪く、目を覚ましては、また閉じる。いつのまにか夢を見ていた。
ひたすら続く階段を永遠に転がり落ちる。下の方に誰かの姿が見える。俺はその影をめがけて、終わりなく転がっていく。俺の姿は、きっと、この上なくマヌケだろう。
気がつくと教室にはみんなが帰ってきていた。
塩素の匂いが充満する、騒がしい部屋の中心で池田さんは絵を描いていた。なにを描いてるのか聞くと、「湾岸戦争」と答え、自由帳のページをめくった。見開きで書き殴ったような文字が読めた。
「アナルセックス専門店」
また夢だった。